2話
『一寸先は監視カメラだ』、『すぐにSNSで拡散されてしまう』とよく刑務官から聞かされていた。犯罪を防ぐのには良い事だが、たまったもんではないとしょっちゅうボヤいていた。監視カメラについては何か犯罪を犯さければとくに気にする必要はないが、存在や犯罪歴を知られて拡散されてしまうととんでもない事になるんではないかと考えていた。
「声かけなよ」
「よく見ると親父じゃね?」
「私、歳上好きっ!」
拓哉はフルフェイスのヘルメットを被り、黒い250ccのバイクにまたがり場所移動した。彼女達から少しでも離れる為だ。35歳にもなると、親父扱いされて無視されたり、煙たがれるものだが拓哉にはそれらは当てはまりそうにはない。拓哉はビル群の中に入り、いつも休憩に使う雑居ビルの一階にバイクを寄せて瑠璃からの連絡を待った。空きテナントの紙がスモッグで曇った白いシャッターに貼られている。拓哉はこの寂れた四階建ての雑居ビルが妙に気に入っていた。歌舞伎町界隈を練り歩いた頃、丁度似たようなビルがあって、いつかこのビルごと買い取ろうと野心に満ち溢れていた。あの頃が拓哉にとって一番輝いていた時であり、充実していた時代であった。
順調に階段は登っていた。お金もない、学歴もない、たいしたコネクションもない、何もない状態からビルを買おうといった発想になるまでのし上がっていった事で、生きていく上で大切な要素の一つ“自信”を手にした。そんな気になっていた矢先の出来事だっただけに悔やんでも悔やみきれない。乗り越えたつもりの山々は幻で、拓哉が思うほど強大で絶望的なものである事を、出所してから思い知る事になった。檻の中では、自身の考えや行動、他人に対しての接し方を改めれば運も巡ってくるのではないかと祈る思いで願っていたが、それこそ“人生そんなに甘くはない”である。殺人罪で刑期を終えたが、執行猶予付きの仮出所はゼロからのスタートではない。とんでもないマイナスからのやり直しなのである。
「ごめん。文章打つより電話の方が早いと思って」
瑠璃からの電話だ。仕事の内容が少し複雑なようでメッセージではなくそのまま伝えた方が良いと判断したようだ。
「どうすればいいの?」
「その書類を、スナック『アイミス』っていう場所に持っていってほしいみたい。受け取る人の特徴を言うわね」




