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7話

 

 昼間に来るとそんなに綺麗には見えないであろうこの港。闇が小さな綻びを全て覆い隠す。目に見えるものは美しい黒い海と湿気のないピンと張り詰める夜空、そしてお愛想程度に散らばる星。ユリはコートからハンカチを取り出して涙を拭っていた。



「あいりを愛してた?」



 潤んだ瞳で拓哉を見る。ユリは、いや、女はいつも返答に困る質問しかしない。“愛してる”はずがない。カケラすらなかった。他のホストと親しげに話しているところを見て少しむかついた事はあるが、それはユリが求めている答え、つまり”愛“だとは決して呼べないはずだ。



「……分からない。ごめんなさい」


「……いいの。それでいいの」



 ユリと出会って、色々な話しをしたが普通の所謂一般的な会話をしていないような気がした。例えば、好きな男性のタイプであるとか、休みの日は何をしているのか、好きな食べ物、趣味等の類だ。



「何でちょっと笑ってるの?」


「いや、可笑しいなって。ユリさんと普通の話しとかほとんどした事なくない?」



 ユリが笑う。白い息が口元から濃く漏れている。



「ほんとだっ! 私、桐敷さんの事何も知らないかも」


「いや、検索したんでしょ?」


「うん。それは二十代の桐敷さんの一部でしかないから。でも、妹が死にたくなるほど愛した気持ちが分かるわ」


「どうして?」


「多分女にしか分からないと思う。桐敷さんは確かにイケメンだけど、それだけじゃないの」



 拓哉には独特の色気というものがある。女性を虜にするそのフェロモンは、一度感じてしまうと深い森に迷い込んでしまって、自力では脱出が不可能なものだ。



「でも良かった」


「良かった?」


「うん。ホストの桐敷さんなら、私も妹と同じ事をしたかもしれない」


「心中をはかるって事?」


「だって、それ以外に独り占めする方法がないじゃない。でも今の桐敷さんで本当に良かった」



 敏生が言っていた──目の鋭さと刹那的なオーラが薄れて、良い意味で普通のイケメンのあんちゃんに格下げされたと。



「社長にも言われたよ。普通のイケメンに格下げになったって」


「格下げじゃないわ。格上よ」

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