6話
ホスト時代の悪事が甦る──あの頃はその全てに関して悪いと思った事はなかった。傍から見れば、女を喰い物にする商売かもしれない。だが、何も持っていなかった拓哉にとってはホストである自分こそがようやく手にした“らしさ”であり、居場所であった。それを強固なものにする為にはどんな事でもしたし、感情を持たない“アイアンマン”を演じ通せた。拓哉は思う──結局何が欲しかったのか、綺麗事を並べてまで欲しかったものは”No.1“という砂の城だけだったのか、10年以上前の自分に今もなお支配されている事に気付いた。
「外出ません?」
「あっ、うん」
効きすぎたヒーターに息苦しさを感じていた。背中が少し汗ばんでいる。
「寒いと思ったけど、気持ちいいですね」
「汗かいてしまって。ユリさんは?」
「少し。ちょっと張り詰めていたし」
ユリは後部座席の白いコートを取り出して羽織っている。
「桐敷さん、寒くない?」
「大丈夫。ユリさん、ここの景色もだけど、何か冬の香りがとても胸を締め付けます」
「桐敷さん、やっぱり詩人。本でも出したらどうです? 協力しますよ」
「前科者ですから。息を潜めて生きていきますよ」
「前科者じゃないです。うちの家族がそうさせたんです。本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるユリ見て、積年の怨みではないが、一つ浄化されたような気持ちになる。まだまだ大きな塊として、胸の中央に巣食っているが、ユリが取り除いてくれるような気がした。
「ここに大きな塊があるんです」
拓哉は自分の胸に右拳を当てる。まるで友達にいじめられて母親に言いつける子供のように──。
「ごめんなさい。どんな思いで刑務所に入っていたかと思うと辛過ぎます」
ユリの大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。それを見た拓哉の胸の塊はまた少し剥がれ落ちたように感じた。
「あいりさんには本当に申し訳ない事をしました。もう少し、人間らしい気持ちがあれば変わったかもしれません」
ユリは首を大きく横に振る。それは違うと言わんばかりに──。
「あの子は小さい頃から何か儚さというか消えてなくなりそうな、そんな子供でした」




