4話
沈黙の中、ユリが一人になりたい時に訪れるという場所に来た。漆黒の闇に工場の煙と灯りがフロントガラスの向こうに漂う──。
「ここなんです。静かでしょ?」
「夜の海ですね。何か良いです。闇に包まれてる感がある」
「桐敷さん、詩人ですね」
「そうですか。本を読む機会に恵まれましてね」
「恵まれる?」
この場所に来るまでに覚悟は決めていた。どう思われようとも話さないといけないからだ。本音は、知られないまま仕事での付き合いのみに徹そうと思っていた。ユリに知られるのが怖いし、会社との取り引きから手を引くかもしれない。それほどの事だし、これからも事あるごとに付き纏うだろう。仕方がないと割り切れないのは、自分が殺した訳じゃないからだ。まともに後悔すら出来ない日々は一生続くだろう。
「実はね、つい最近まで刑務所にいたんですよ」
「……」
ユリは俯いている。驚いた表情や、急によそよそしい感じはない。
「殺人でね。12年入ってました。だからね、ユリさんとこうして話す事さえ許されない男なんです」
「……」
「試行猶予中なのに、16歳の女に手を出す鬼畜ですよ」
「……」
「当然、刑事もその事は知っている訳で。でもね……」
「でもね?」
「前科者の言う事は信用出来ないかもしれないけど、殺してはいません」
「……誰を殺したんですか? いや、殺してないのか……」
拓哉は説明する──あの頃の事を思い浮かべながら。ありのままを伝えないと意味がないと思った。フロントガラスに広がる夜景を見ながら、分かりやすく丁寧にユリに話す。
「……」
ユリは泣いていた。何故泣いているのか分からない。車のヒーターの音だけが聞こえる。先程まではまるで気にならなかったそれがとても耳障りだった。
「……ごめんね。……知ってたの」
拓哉の心臓がドクンと大きく打つ。その時、この場所に着いてから初めてユリの顔を見た。
「何で? いつから?」
「……蟹鍋の前から」
「……うっ嘘でしょ? 知っててなんで?」
「……妹よ。桐敷さん。私の妹なのよ」
「あいりの?」
「そう。私の本名は川嶋ユリ」




