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緩やかな日々

 

 敏生の配送会社に就職して2か月が過ぎた。今年は空梅雨になりそうだと天気予報で言っていた通り、梅雨入りしてから一週間が経つがまだ一度も雨は降っていない。雨の日の運転は気を使わないといけない。執行猶予付きの今は神経質なぐらいになっていないと取り返しの付かない事になってしまう。



「拓哉、今日は横乗りではなくてバイク便で池袋の方頼むよ」


「分かりました」


「瑠璃に後でメッセージ入れてもらうから、とりあえず池袋まで向かっくれ」



 拓哉は自分のロッカーから黒と敏生の好きな赤のラインが入ったライダースーツを取り出して着替えた。この時期は蒸れて気持ちが悪いがバイクは軽装で乗ると違反になるし、厚手の普段着より見栄えも良い。



「アメダカラキオツケテ」


「ありがとう。グアンさんも大阪だっけ? 気をつけて」


「オアリガトウゴザイマス」


 唯一の同僚であるグアンさんはベトナム出身で34歳、拓哉と同級生である。学年で言えば拓哉が一つ歳上だ。グアンさんは小柄でガッチリとした体格、右腕に黒い龍の入れ墨が入っているがそちら側の人ではない。ベトナムにいる時に、友達の練習台としてタダで彫ってもらったらしい。漆黒の龍はとても躍動感があり、お金を払わないといけないレベルの素晴らしいものだ。


「コンドノミイキマショウ」


「いいよ。今週末とかどう?」


「ハイハイ。イキマショウ」



 敏生とは何度か出所後に飲みに連れて行ってもらった。あの事件の前も同級生と飲みに行った事など一度もない。ましてや、異国の人となると皆無であった。この埼玉にも外国人の方がとても多く住んでいて、一昔前、つまり拓哉がホストをしていた頃とは状況は随分と変わっていた。この何て事ない飲み会の約束は、拓哉の労働意欲を予想外に駆り立てていた。



 池袋の東口にあるコンビニで連絡を待った。フルフェイスのヘルメットを脱ぐと額が汗で滲んでいた。拓哉は、黒い革製のリュックからハンドタオルを取り出して汗をぬぐった。



「あの人、めちゃくちゃイケメン!」


「ほんとだ! でもライダースーツの模様、変じゃね?」



 ギャル系の女子高生が目で追うほどの容姿はまだまだ健在であった。働き始めて二か月が経ち、髪も普通に伸びたせいか、何処にいても目立ってしまう。元ホストであるからある意味では仕方がないが、拓哉は目立つ事にとても神経質になっていた。




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