お人形のように
「ほら、シュリヒト様!今から消毒しますので、ちゃんとじっとしててくださいね!」
「えーやだー。シルフィー、消毒染みてちょっと痛いから僕やだ。マリアにやめるよう説得して!!」
「主、大人しく治療受けてくれ。残念だがこればっかりは主の命令は聞けないぞ。…ほら、我に抱き着いてていいから、先に背中消毒してもらうぞ、主。」
「酷いよシルフィー…。分かった。マリアあんまりたっぷり塗らないでね。」
「はいはいシュリヒト様。それは約束しかねますが、早く治るためなので我慢ですよ!じゃーまず背中から軽く拭いて消毒しますね。」
「うん…。……シルフィーぎゅーーー。」
「…ぺろっ…ぺろっ…。主偉いぞ。染みて痛いだろうが我は主に早く治ってもらいたいからな。」
―――――1日前―――――
「おかしいな。森の中に入れないようになっている。結界のようなものに阻まれているみたいだ。」
「お兄しゃま、今日はおにんぎょさんに会えないの?」
「オル兄様、これは一体どういったことなんでしょう。どうしましょう。」
シュリヒトが展開した結界により、誰も森に入ることが出来なかった。
兄達はキルシュ騎士団長を見たが彼も焦っている様子で、何が起きているのか分からない様子だった。王宮の魔法使いを呼んでもらい、森に入れない結界だと分かったが、王宮の選りすぐりの魔法使い達でも結界を解くことができなかった。
結局その日は何も出来ず、全員王宮に戻るのだった。
―――――次の日―――――
「オル兄様、昨日の結界なくなってます!これで会いに行けますね。良かった!」
「昨日の夕方くらいに結界が急に解かれたらしい。今日はないみたいで良かった。」
「兄しゃま!今日は会えるのね!りりー嬉しい!」
「殿下のおなーりー。」
「ち、父上、ご無沙汰しております。どうかされましたか?」
急な国王の登場にこの場にいるすべての人間が驚き、急いで跪く。何やら第一騎士団長ロイス、執務長官のベルセドも連れ、現れた。
「いいいい。皇子、姫楽にしろ。…それより私も一緒に森に入って、第5皇子シュリヒトと会いたいんだが、いいかな?」
「おとーしゃまも一緒なの?りりー嬉しい。」
「勿論構いませんが…。」
「じゃー行こうじゃないか。」
父上もシュリの話を聞いたのだろう。それで忙しい中時間を開けて、シュリがどんな人物なのか、母親がシュリにどんなことをしているのか確かめにきたのだろう。
こうして、何故かの国王登場に加え、一緒に森に入ることになり、いつの間にか昼過ぎだった。
いつもの森のところへ向かう。父上達は場所を知らないので、俺達が前に出て道を示す。数分歩き、目的地へと辿り着く。
「…ルフィ、僕もういい。」
「何を言っておるのだ主は。まだ背中しか終わってないのだぞ?…と後言い忘れていたのだが、前の者達と+数人がすぐそこまできている。」
「…え?シルフィー報告遅い!絶対わざとでしょ。そうやって僕が逃げる隙間なくすなんてズルい。」
「…シュリヒト様、ズルくないですよ。早く治るにはこの染みるやつが一番いいので我慢してください。逃げないでください〜。」
何度見ても見惚れる。天使のような男の子。
シュリが何やら文句を言いながら、マリアから逃げている。拗ねた様な顔をして、後ろを見ずにこちらに下がってきた。
シュリが後ろを見ずに父上達の方に下がってきて、俺は急いで父上の前に出て、体でシュリを受け止める。シュリはわっと驚きながら目を瞑る。
マリアが慌ててこっちに向かっているのが目に見えた。
「アルトレア皇子、すみません。…グレート王国の太陽にご挨拶申し上げます。…シュリ様、早くこちらに。」
「よい。楽にせよ。この子が私の息子シュリヒトか。綺麗な白髪だ。私に顔を見せてくれないか?」
「国王陛下、私の顔などに見ても何も面白いことはないかと……。
……ア、アルトレア皇子、受け止めて下さりありがとうございました。では……?!。」
「シュリ、何で俺からすぐ離れようとするの?昼食持ってきたんだから。隣で食べよ…。」
僕は急いでマリアと共に王様に跪き、あまり髪含め顔を真正面で見られないように地面を向いて話す。
簡単な挨拶を終え、マリアとシルフィーの元に向かおうとするが、アルトレア皇子は僕を後ろから抱き締めるような形で僕の動きを封じる。
「あ、あの…アルトレア皇子の御召し物が汚れてしまいますので、どうか離してもらえませんか?」
「な…その傷どうしたの?前はなかったよね。。」
「というか全体的に傷が増えてるな…。顔にも。」
背中を治療してもらったあとに急いで服を来て逃げたからまだ隠れていてマシだが、服で隠れていない傷を見られた。
皆、怒りに満ちた顔をしていた。僕は何か無礼なことをしてしまったのだと悟り、この場を切り抜ける術を考えていた。
「シュリヒトよ、その傷をはっきり見せてくれ。そして、誰にやられたか教えてもらえないか?」
「お目汚しになりますので遠慮致します。これは僕個人のことなので話しかねます。ごめんなさい。」
「お前、陛下に向かってそれはないだろう。ハズレ者のくせに調子に乗んな。」
「お前、陛下の命令に逆らうってのか?」
「…はい、ですから、ハズレ者の僕なんかのことを気にするのは陛下の時間の無駄だと思ったので、お断りさせて頂いたまでですが…。そもそも僕と陛下は今現在ほとんど関わりがないに等しいので、僕に話しかけてもらうことが恐れ多いのです。」
流石に自分の母親にされた傷を堂々と見せるわけにはいかないし、母親には酷い目にあったけど、僕がこの世に生まれたのは紛れもなく彼女のおかげ。腹を痛めて産んでもらったことに大きな感謝をしてるから、母親の名前を出したりはしない。
自己満足で勝手に処刑とかされたら本気で笑えないから。
陛下の命を断ったからか、数人の兵達が僕に対して騒ぎ立てる。
やかましいから適当に自分を下げて、陛下を上げておいた。これでこの場を離れることが出来るだろう。我ながらナイス即興!
皆が何故かポカンと固まっているうちに、シルフィーの元へ。
「シルフィー、この場から早く抜け出せない?」
「国王よ、我はそなたに話しがある。」
「ああ、こちらもだ。」
シルフィーに何とか突破してもらおうと思って話しかけたが、一回僕を見て、国王に話しがあると言い出した。続けてマリアも名乗りを上げ、何やら話し合いをするために、王宮まで行くことになった。