6,母親とメイド達
朝、怒鳴り声で目を覚ます。
母親は今日、機嫌がすこぶる悪いみたいだ。
メイドの一人が、俺に媚薬を盛った食事を入れたのに食べてくれないとか、とても気持ちの悪い話をメイド達でしていたらしい。それを聞いた母親は、自分から僕をとろうとしたと思い、激しく怒っていた。
要は母親も母親で、僕を自分の所有物としか思っていないということ。
目を覚ました際、マリアが澄ました顔で僕に全て教えてくれた。お互い潰し合ってもらおうと考えているのが丸分かりだ。
でも、僕は、母親が機嫌が悪くなったら、何を仕出かすか分からないため、急いでそこに向かう。
案の定、跪いているメイド達に向かって、母親が指示棒のようなものを思いっきり振り下ろすところだった。
騒ぎを大きくしたくなかった僕は、何とかして止めようと考えたが、魔法をこの人達の前で見せてはいけないことを考えると、取れる手段はないに等しかった。
仕方なく、メイド達を守るようにして、腕で受けた。いつもの感情のないお人形のような表情をつくり、母親を見つめる。
「どうされましたでしょうか。」
「あーシュリヒト。起こしてしまったかしら?この者たちがね、貴方を私から奪おうとしたの!信じられる?」
この人は気分屋だ。お母様って言って急に怒ることもあれば
お母様って呼ばないことに怒り出す。要は会話の中で、僕をモノ扱いしたときはお母様って呼んでいいわけで、怒られる前に気づいて呼ぶ必要がある。
「お母様、すみません。メイド達の行動にいち早く気付けなくて、、僕はお母様の息子に相応しくない…ですね。こんな息子を持って、お母様はどんなに苦労してきたか…。ごめんなさい。ごめんなさい。」ここで、跪きながら俯き、静かに涙を流しながら自分を否定する。ついでに話をさり気なくそらし、メイド達への怒りを抑えさせる。
「そんなことないわ。貴方みたいな、母親を一番に考える優しい子が私の息子で私は幸せよ?…おいで、私がこの朝ご飯食べさせてあげるわ。」
「そ、そんな…。お母様の手を煩わすなど僕には…。お母様、顔色が少し悪いような気がします。僕など気にせず休んで下さい。僕、お母様がもし死んだら、生きていけないんですよ?
お母様、ご自分の体を一番に思ってください。ちょっとお母様が寝込むだけで僕は倒れそうになるんです。お願いです。僕の我儘を聞いてくれませんか。僕は毎日、お母様のことが心配で心配で。」
メイドが盛った媚薬が入った朝食を僕に食べさせる気だったから、急いで話を変え、母親がいないと生きていけないということを涙交じりにゆっくり話す。途中、上目遣いで切実に懇願し、言葉を詰まらせる。昨日のシルフィーの心配の話を少しパクらせてもらった。
「本当?自分じゃ気付かないものね。
シュリは本当に私がいないと生きていけないのね!困ったわ。私が死んだらどうするつもり?ふふっ。
わかったわ。今日はシュリのために少し休むことにするわね!シュリ、母のベッドに来て、一緒に寝てくれる?」
「はい!勿論です、お母様。きちんとエスコートさせていただきます。僕じゃ頼りないかもですが、ふらふらするようでしたら、寄りかかってくださいね。」
「あら、シュリ優しいのね。」
ベッドに送り届けた後、最後まで完璧にお人形を演じきった。いつもながら疲れる。今日は特に。
最近、この冷宮での僕に対するメイドの対応が変わりつつある。前までは、僕をただ蔑み、暴力、暴言が飛び交っていた。しかし、今は少し成長したからか、僕を言うとおりにさせようとする人が多く、僕に懐かれたいのか媚薬さえ使う始末。本当に恐ろしい。珍しい髪がそんなに魅力的に映るのだろうか?ゾットする。
だからこそ、偶に強引な手を取る女が現れるときがある。
母親の部屋から戻ろうと来た道を帰る。メイドの部屋の前を通ったとき、先程僕の母親にブチ切れられていたメイド達に部屋に連れ込まれた。
「シュリ様!私の息子になってくれません?」
「あ!私も!私も!」
「申し訳ありませんが、僕にはお母様がいますので…。」
「しょうがないですね…。シュリ様、ここに朝食がありますので是非食べさせて差し上げます。」
「はいっ…あーん。」
「ちょっ……ごくん。」
メイド達に押さえつけられ、盛られているだろう朝食を口に押し込まれた。途端に、体が熱を出したかのように熱くなる。子供に大人用の媚薬を盛るもんだから、当然副作用が出る。頭が急速に痛みを伴い、座っていられなくなる。
この人達に弱っているところを見られるのは非常にマズく、もうだめかと思った。
「こら!貴方達シュリヒト様に向かって何をしているの?その手を放しなさい。」
間一髪、倒れるところでマリアが僕を抱きとめてくれた。急いで僕を抱き上げ、この場から立ち去る。
満身創痍だった。
「シュリ様、部屋に着きましたのでもう安心してください。少しでも離れてしまったせいでこんなことに…すみません。
わっ!シュリ様熱が出ています。熱すぎます。」
「大丈夫、魔法で治せるから。…ほいっと。あー助かったよマリア。ありがとう。」
「魔法で治ったといっても今日は行くのやめましょう?ベッドで休んだ方がいいです!」
「いや、いくよ!その代わり、その間森には誰も入れないように僕が結界をするから。」
その後、森で僕たちは魔法で作った寝床に、三人横に並んで穏やかな眠りにつくのだった。