4,兄弟達との出会い
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「主、今日もあのメスにやられたのか?我、今すぐあの冷宮ごと吹き飛ばしたいのだが…。」
「…ん?駄目駄目。いつものことでしょっ。いい加減慣れてよー。…でも、ありがとう。シルフィーは優しいねっ。」
「…そんなの、主がわざと傷治せるのに治さないから…、余計痛々しく見えるから…。我、こう見えて主のこと命より大切で、もっと体大切にしてほしくて…、人間は脆いから、主に死んでほしくないと思っている。」
「ふふっ…。僕なんて王家の証を持って生まれてこなかったハズレ者で、ビジュアルも良くないし、弱いし、特に特別なことなんてないのに…。シルフィーはそんな僕のことを大切に思ってくれるっ!それだけで僕は幸せだからいいんだよ?あと…、安心して!僕の人生設計を叶えて満喫するまで、ぜっったい死なないからっ!」
「…主、気付いてないのか?結構目立つ…、人間でいう美しいの域を超えてるくらい主は可愛くてかっこいい顔をしていると思うのだが…。主最近メイドが優しくなったと言っていたが、それは主の顔に惚れ惚れしてるからだぞ?」
「…たしかに最近メイドのいじめがほとんどなくなって、よくスイーツや肉が運ばれてくるけど、それは僕が最近メイドに笑いかけて、腹立たせないようにしているからだよ!」
「…まぁいいや。………っ?!主っ!」
「あぁ、何だ?」
「この森に何者かが足を踏み入れたっ!複数の人間だ!中には子供もいるが…まあいい。全員切り裂いてー」
「シルフィー、やめておきなさい。僕に害がないならそれでいいの!殺しちゃったりなんかしたら…、後始末面倒だよっ?」
「…分かった。主がそう言うならっ。…フッ主も気にするところが少しズレてる(ボソッ)」
俺より年下らしき小さな女の子が、年上らしき男の子と手を繋いで歩いている。その結構離れたところに、その二人を探している兵が数人、魔法で確認できた。流石に森深くまで入ってこないだろうと思って、横になって寝ることにした。
シルフィーの唸り声と女の子の悲鳴で目が覚める。
「主の眠りを妨げるとは何たる邪魔者っ…許さんっ。」
「はっ?魔物が喋った…?…っ…俺の妹に手を出したら許さないっ!!」
「シルフィー、僕はいいから威嚇しないであげて。まだ子供だよ?」
「主がそう言うなら…。早くここを去れっ。ガキ共。」
「ねーねーお兄しゃま。ワンちゃんが喋ってる!」
「リリー。勝手に触ったら駄目だよ?ちょっと大人しく待っててね。
…ねぇ、君…不思議な髪色をしてる。何でこんなとこにいるの?それに……」
近くにきて顔を見られ、不気味に思われたと思い、無視をする。
「わっ!髪すごい!お兄ちゃんお人形さんみたい!!」
シルフィーが帰らない二人に威嚇しようとしたので、手で静止し、無視するように念話で伝える。
「ごめんけど、こんな森にいたら危険だよ?ここ魔物も偶に出るから。護衛の人とか君達を探してるみたいだし、早く出ていってくれる?」
「んー。そうしたいのは山々だけど、うちの妹がここにいたいらしいんだよね〜。それに、魔物が出ても俺は妹を守れる力くらいはあるから、大丈夫。」
「リリーね。おにんぎょさんと一緒にいるの!お兄しゃまね、本当に強いから大丈夫なの。」
早く出ていってほしいのに、何故か僕が二人の心配をしてることにされてて困惑した。
護衛らしき兵達が二人を見つけ、合流する。
「リリアナ姫、アルトレア皇子、ご無事で何よりです。オルステッド様とディアナ公妃が心配しておられます。」
「…あーすまない。妹が駄々をこねてな。」
「そうでしたか。…それよりこちらの者は?」
「おにんぎょさんっ!」
「それが…何も教えてくれなくて…。
なぁ、キルシュ騎士団長、俺はこの子が気になる。
あなたは誰か知ってる?」
「この者はっ……!?私の間違いでなければ、この国の第5皇子、シュリヒト様かと。
王家の証を持って生まれず、確か母親が冷宮に入れられ、彼もそこで住んでいるのかと。
そういえばこの森の近くに冷宮があります。……。」
「何ですか?人をジロジロ見るのはやめてください。
毛色の珍しい生き物の見世物ではないので。
誰か分かったなら用もすんだでしょう。
早くお帰り下さい、王子様達を連れて。
そして、二度とこの森に来られませんよう。」
「ちょっと待ってっ。
君、怪我してるじゃないか、見せてくれ。
それに君が第5皇子なら俺は君の兄でもある。心配させてくれ。」
「おにんぎょさん、痛い?リリー手握ってあげるっ。」
「あの女は我が子にさえ手を上げるのか、なんと酷い。
急いで報告せねば。(ボソッ)」
「僕に触らないで下さい。
どうぞ早くお帰り下さい、皇子様方。…では。」
「主に触ろうとするなど、何たる奴ら馴れ馴れしい人間よ。我が切り刻んで…」
「シルフィー、よしよし、いい子いい子。早く帰るよ。」
後ろから聞こえてくる僕への呼びかけを全て無視し、足早にシルフィーと歩きながら冷宮へと帰った。
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彼を皇子達と共に王宮に連れて帰り、主に事情を話し、どうにかしてもらおうと思った。現にアルトレア皇子もそのつもりだったのだろう。
多分彼はあの母親に暴力をふるわれている。彼の腕や足に見えた赤黒いあざや、切り傷が複数あって、何とも痛々しかった。このことを王に伝えるべく、皇子達を送り届けた後、急いで執務室へと向かう。
「失礼します。レイフィウス殿下に急ぎ伝えないとならないことがございます。」
「…入れ。」
短くも威厳を感じる声が聞こえる。
そこには殿下が書類に目を通しているところで、殿下の護衛第一騎士団長ロイスが側に控えており、ベルセド執務長官が何か報告をしていたらしきところだった。
「キルシュ、君第三騎士団にはディアナ達の護衛を頼んでいたはずだが?」
「…申し上げますっ。リリアナ姫がアルトレア皇子と森に入られてしまいまして、遅れてですが、追いかけて無事を確認しました。
そこで、お二人がベンチに座って休んでいる男の子を見つけました。
それが第5皇子シュリヒト皇子だと分かったのですが……。」
「なるほど皇子と出くわしたか。それで?何かされたのか?」
「それが……。その…、シュリヒト皇子は腕や足、見えるところだけでも酷いあざや切り傷などの怪我を負っていまして、それにも関わらず痛そうにせず、慣れたような気にしてないような感じで…。
終始皇子達の心配を払うようにしてまして、連れてこようと思ったのですが話を聞く様子もなく、森の奥に逃げていきまして…。」
「陛下、第5皇子は母親から暴力を受けているのでは?」
「うーむ。森で魔物に襲われたのでは?」
「それが…、シュリヒト皇子は大きな喋る狼を側に連れていまして、狼が私達を威嚇しようとした途端、シュリヒト皇子がやめるように話し、撫でるとあっという間に大人しくなりまして…、あれほどの強力な魔物を側に従えているのならば、森の魔物に襲われることはないかと。むしろ返り討ちにするかと。」
「…なるほど。
シュリヒトは強力な魔物に守られているが、母親から暴力を日常的に受けている可能性があると…。」
「魔物に母親から守ってもらわないのは、シュリヒト皇子が冷宮に入れてないからかと。
話しを聞く限り、魔物はシュリヒト皇子を守っているが、シュリヒト皇子の命令にも従っている様子。
シュリヒト皇子が暴力を受けているのをみると、相手に噛み付いているでしょうし…。」
「子供が暴力を受け入れている…か。どうしたものやら…。」
「…あ、それと報告が遅れましたが…アルトレア皇子とリリアナ姫が毎日あの森に入って弟(お兄ちゃん)と会うと言い出しまして…。」
「君がいるから護衛は大丈夫だろう。
私もシュリヒトに会ってみたいと思うから三日後、全ての仕事を終わらせ、森に入る。ロイス着いてこいっ。」
「仰せのままに。」
「連れてくるおつもりですか?私もそれがいいとは思いますが…。」
「それは会ってから決める。私の息子だからな。まずは会ってみないとっ。
あいつが暴力をふるってないと、そこまで堕ちてないと願いたい。」
衝撃の事実を知った執務室にいた者達は皆、苦い気持ちで、一人の子供を心配していた。
一方その頃。
「母上、兄上、あの森に俺の弟がいたんです。
痩せてて、体に傷を沢山負っていたんです。
また明日、あの子に会いにいってもいいですか?お願いします!」
「お母しゃま、お兄しゃま。
リリーね、おにんぎょさんにね、りりーのお菓子分けてあげたいのっ!
あの子ね、とっても苦しそうで笑ってなかったのっ!
助けてあげたいのっ!」
「二人とも、まずは母上とお兄ちゃんに言うことがあるでしよっ?」
「「…心配かけてごめんなさい。。」」
「本当だよっ。あそこの森には魔物が出るんだよ?息がつまる想いだったよ。
母上っ、アルトレアとりりーがそこまで言うんです。
明日は私も着いていくので、森に入る許可を下さいっ!」
「…そうね、りりーが人に何かを分けてあげたいって言ったのは初めてね。
ついでに、シュリヒトくんの様子もしっかり見てきて、母に伝えてほしいな。
ちゃんとキルシュに着いていってもらうのよ?分かった?」
「母上、ありがとうございます!」
「お母しゃま、りりーたくしゃんたべるものもっていくのっ!
そしたらね、おにんぎょさんわらってくれるのっ!」
「そうね、お菓子とお昼ご飯も持っていきなさい。
料理長に話しておくわねっ!
りりー偉いわ、成長したわね!」
「えへへ…、だって本当におにんぎょさんからだわるそうだったの!」
「じゃあ、明日の昼、森に向かおうっ!ちゃんと起きてくるんだぞ?
じゃないと行かないからな?」
狼の仲間一人はほしい