9、初級魔法
冒険者ギルドがある建物に入ると、中は冒険者達で賑わっていた。自分の捜索依頼が出ている事もあり、少し緊張する。ジュードに変えてもらった髪色はそのままだけど、念の為、フードを被って顔を隠した。
「リバイの冒険者ギルドへ、ようこそ! どのような用件でしょうか?」
私より少し年上の受付のお姉さんが、元気よく話しかけて来た。そのままカウンターへと行き、受付のお姉さんに、ギルドに登録したいと告げた。
「ギルドに加入するには、レベルの審査を受けて頂く必要があります。そのランクに応じて、受けられる依頼が決まります。よろしいでしょうか?」
お姉さんは契約書を取り出し、渡して来た。
「分かりました、お願いします」
「では、契約書の右上にある印に、魔力を込めて頂けますか?」
右上には、丸い赤色の印があった。そこに人差し指を置き、魔力を込めた。
これで、魔力が強いと判断されたらどうしよう……
聖女だって、バレたりしないかな……
不安でいっぱいになっていると、
「えっと、Fランクですね」
……Fランクは、1番下のランク。もしかしたら、四属性魔法しか判別出来ないのかもしれない。この紙は、使える魔法でレベルを判断するらしい。聖女自体が貴重な存在で、国に仕えるのが当たり前になっているから、まさか聖女が冒険者になるとは思っていないのかもしれない。何にしても、助かった。
「気を落とす事はありませんよ! 例え、最下位ランクでも、依頼を沢山こなせばランクは上がりますので、最下位ランクから脱出出来ます! 最下位ランクより上の下位ランク目指して頑張って下さいね!」
悪気はないんだろうけど、なんか腹が立つ。
結局、四属性魔法を教えてもらってなかったから、初級魔法すら使えない。最下位なのも、当然だった。
「では、ここにサインをお願いします」
契約書に名前を書くと、すぐに受理された。ギルドカードを受け取り、依頼が張り出されている掲示板の前で止まった。
掲示板の1番目立つ所に、私の捜索依頼が張られていた。依頼が出されたのは、私が邸を出る少し前の事だった。つまり、私が邸を出ると分かっていた事になる。依頼料は……金貨300枚!? (銅貨3枚で食事1回分。銀貨1枚で宿屋に3日宿泊出来る。金貨1枚で宿屋に1ヵ月宿泊出来る)
かなりの高額報酬。お父様が私にそんな大金を使うはずはない。エヴァン様も、私が聖女だとは知らないのだから違う。
それなら、いったい誰が依頼を出したのか……全く見当もつかないけど、私の行動を先読みされていたのは気味が悪い。
考えるのはやめやめ!
とりあえず、初級魔法位は使えるようになりたい!
というわけで、ナージルダルの近くの平原へとやって来た。目的は、魔法を練習する為だ。
「ティア、今度こそ初級魔法を教えてもらうわよ!」
やる気満々な私を、レニーはポカンとした顔で見ている。
「お姉ちゃんは凄く強いのに、初級魔法を教えてもらうの?」
「お姉ちゃんの魔法はね、あまり人に知られるわけにはいかないの。だから、四属性魔法を使えるようにならなくちゃいけないんだ」
「分かった! お姉ちゃんは、もっと強くならなくちゃいけないんだね! 」
全然分かってない……
レニーには、少し難しいか。
「レニーは、魔法を使えるの?」
「使えるよ! 見てて!
偉大なる火の精霊よ、我に力を与えたまえ!
ファイヤーボール!」
レニーは両手を前に出し、詠唱をした。すると、両手の前に炎が出現した。その炎はゆっくりぷかぷかと真っ直ぐ飛んで行き、1メートル先で消えた。
「レニー、凄い! レニーは、火属性なんだね」
「えへへ」
レニーは得意気な笑みを見せた。
「レニーよ、よく頑張ったな。褒めてやろう!」
ティアはシッポをブンブン振りながら、レニーを褒めた。言葉と態度が合ってない……
「詠唱か。私も、唱えてみようかな」
レニーのやったように、両手を前に出し、
「偉大なる火の精霊よ、我に力を与えたまえ! ファイヤーボール!」
そう唱えた瞬間、両手の前に巨大な炎が出現した! そしてその炎は、物凄い勢いで数百メートル先まで地面をえぐりながら飛んで行き、大きな爆音と共に草原に巨大な穴を開けた!!
「え……これ、初級魔法……だよね? どうしよう……逃げる?」
ティアもレニーも、口を開けたまま固まっている。
「さすが、サンドラ様です! 初級魔法が、これほどの威力とは、我は感動しました!」
「お姉ちゃん……すごい……」
あまりの威力に、自分でも驚いている。光魔法は制御出来るのに、何でこうなったの?
「やり過ぎだな……」
声がした方を振り返ると、ジュードが立っていた。