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7、フーリン伯爵



目を覚ますと、外が騒がしかった。

ベッドから起き上がり、窓から外を覗いてみる。

数十人の兵士達が、見回りをしているようだ。魔物が現れた事を、あの国境に居た兵士が伝えたのかもしれない。


一階に降りると、3人の兵士が宿屋の主人と話をしていた。1人の兵士が私に気付くと、こちらへ歩いて来た。


この人は確か……


「先日は、助けていただきありがとうございました!」


私に向かって頭を下げた兵士は、国境付近で腕がちぎれそうになっていた兵士だった。


「たまたま通りかかっただけですので、お礼など不要です」


他の2人の兵士も、私の前まで歩いて来て立ち止まる。


「たまたまでも、素通りする事は出来たはずです。それに、あの魔物も倒して下さったとお聞きしました。重ね重ね、感謝致します!」

「自分達が不甲斐ないばかりに、この町の近くの村は全滅……あの村の住民を、埋葬して下さったのもあなたですよね?」


アークデーモンの強さは、戦った私が一番分かっている。Sランク冒険者か、聖女でなければ倒せないかもしれない。


「あの魔物と対峙しても、逃げずに戦ったのだから、不甲斐なくなんかないわ」


あの村の人達も、レニーを守る為に立ち向かった。この国の人達は、ロックダムの人達とは大違いね。


「これからは、もっと精進して、我々だけでも倒せるよう努めます!」


やっぱり、違う。誰かに頼るのではなく、自ら努力しようとする人達。この国が好きになりそう。


「私は、ラルフ・ドノバンと申します。お名前を伺っても、よろしいでしょうか?」


腕がちぎれそうだった兵士(ラルフ)は、私の名前を聞いた後、領主であるポール・フーリン伯爵邸に一緒に来て欲しいと言った。

お断りしたいところだけど、褒美が出ると聞き、お会いする事にした。そろそろ、旅の資金が底を尽きかけていた。私1人なら、次の町で冒険者登録をして、依頼を受けて生活して行くつもりだったけど、家族が出来たのだから先立つ物が必要だ。

レニーが起きるのを待ち、みんなで領主様に会いに行く事にした。


領主様の邸までは、馬車で行く事になった。

ティアの背に乗って移動するのに慣れて来ていたからか、馬車での移動が凄くゆっくりに感じる。たまには、のんびり移動するのも、いいかもしれない。


「サンドラ様、あそこに見えるのが、フーリン伯爵のお邸です」


町から2時間程で、フーリン伯爵のお邸に到着した。門番が門を開けると、馬車はそのまま玄関まで進む。馬車を降りると、執事が出迎えてくれた。


「ようこそ、いらっしゃいました。私は、執事のホーキンスと申します。旦那様がお待ちですので、中にお入りください」


執事に案内されて、フーリン伯爵の待つ部屋に行くと、フーリン伯爵自ら、部屋のドアを開けて待っていてくれた。


「よく来てくれましたね! あなたは、民達の英雄です!」

「旦那様! 中でお待ちくださいと、申し上げたはずです!」

「仕方がないだろう? 大人しく待っているなど、私の性にあわないのだ」


……執事に、主人が怒られている。


「まあ、中に入ってください」


フーリン伯爵に促され、部屋の中に入ってソファーに座る。レニーは領主様と会うのは初めてのようで、少し緊張してるみたい。


「その子は、妹さんですか?」


フーリン伯爵は、レニーの事を妹だと思ったようだ。


「この子は、レニーと言います。マルク村に住んでいました。助けを求めて走り続け、力尽きて倒れていたのです」


レニーと出会わなければ、兵士の人達も、あの町の人達も、助ける事が出来なかったかもしれない。


「そんな事が!? では、レニーのおかげで、沢山の人々が救われたのですね」


フーリン伯爵は、とても優しい人なのかもしれない。村の人達が亡くなった事は、すでに知っているはず。その事を思い出さないように気づかってくれている。


「あたしのおかげ?」


「そうだよ。レニーのおかげで、兵士達もナージルダルの町の人達も救われたんだ。ありがとう」


フーリン伯爵は、レニーに向かって丁寧に頭を下げた。

こんな貴族がいるなんて……

ロックダムの貴族は、こんな事は絶対にしない。自分の事しか考えていないし、毎日のように貴族同士でマウントを取り合っている。

子供の、しかも自分の領地の一村人に、こんなに丁寧に頭を下げられるフーリン伯爵は、本当に素晴らしい人なのだと思う。


「えへへ! お姉ちゃんが最高だから、みんな助かったんだよ。お姉ちゃんは、あたしの自慢なの!」


笑顔で答えるレニー。レニーは、本当に凄い。

あんなにツラい目にあったら、私だったら笑えないと思う。


フーリン伯爵は、私の事を何も聞かなかった。何度も感謝の気持ちを伝えてくれて、褒美の金貨まで持たせてくれた。


「もう、お帰りになるのですか? しばらく、邸に泊まって行ったらいかがですか?」


そう仰ってくれたけど、お断りした。邸を出て来たとはいえ、私は他国の公爵令嬢だ。捜索依頼も出ているし、もし見つかったらフーリン伯爵に迷惑をかけることにもなりかねない。


「申し訳ありません。ですが、しばらくはナージルダルの宿屋に泊まる予定ですので、何かあったらご連絡ください」


レニーの事を考え、しばらくあの町に滞在する事にした。お金も入った事だし、ちゃんと宿代は払うつもりだ。


「無理にお引き止めするわけには、行きませんね。サンドラ様、困った事がありましたら、私を頼ってください。少しでも、お力になれたらと思います」


事情は知らないはずなのに、フーリン伯爵は何かあると察したのかもしれない。こんなに優しい方が領主様なら、領民達は幸せだろう。


私達はまた、ラルフが運転する馬車に乗り、ナージルダルへと戻った。



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