6、レニーと一緒に
レニーに駆け寄り、死体が見えないように抱き締める。レニーは大声で泣きながら、ギュッと抱きしめ返してきた。
レニーに死体を発見させたのは、ちゃんと見なければ納得しないと思ったからだ。いつまでも、お母さん達を探してしまう。残酷だけど、死体を一度見せる必要があった。
とても小さな村……
こんな村が、魔物に襲われたらひとたまりもない事は一目瞭然だ。村人は老人や女性ばかり。みんな、レニーを守る為に必死で戦ったんだ。
村人達を埋葬して、祈りを捧げる。この村には、もう住民は居ないけど、魔物や獣に荒らされないように結界を張った。
「レニーは私が守ります。皆さんは、安らかにお眠り下さい」
「お姉ちゃん……あたしと一緒に居てくれるの?」
レニーには、身寄りがいない。
お金がないから苦労させる事にはなるけど、一人にはさせられない。
「レニーが良かったら、一緒に行こう」
レニーは大きく頷き、泣きながら抱きついて来た。
この村を襲った魔物は、足跡を見る限りこの先の町へと向かったようだ。
「みんなの仇を、取りに行こう!」
ティアの背に乗り、魔物が残した足跡を辿って追いかける。この村が襲われたのは、2日前の事……そろそろ、魔物が町へ着いていてもおかしくはない。急がないと、犠牲者が出てしまう。
数時間走り続け、町が見えて来た。
すでに、魔物は町へと入ってしまっているようだ。
「ティア!」
ティアの名を呼ぶと、待ってましたと言わんばかりに塀を飛び越え、町の中に入った。
魔物の姿は確認出来たけど、町の人達の姿が確認出来ない。建物はかなり壊されているのに、死体は見当たらないから、どこかに隠れているのかもしれない。
それなら……
「ティア、レニーをお願いね!」
ティアの背から降り、魔物の前に立つ!
目の前に居るのは、体長5m程の、アークデーモン。国境に居た数十人の兵士では、太刀打ち出来なかった理由が分かった。
明らかに、ティアとは違う。アークデーモンからは、敵意しか感じない。魔力を隠すのをやめたからか、魔物の強さを感じ取る事が出来るようになっていた。
兵士が百人居ても、このアークデーモンを倒せるかどうか……それ程までに強い。
「グガガガガガガ……」
アークデーモンは、右手に持っていた巨大な斧を振り下ろして来た。瞬時に自分の前に結界の壁を作り、その斧を弾き返す。そしてアークデーモンに向かって光を放つ!
光はアークデーモンを包み込み、鎖の形に変化し、体全体を拘束した。
いつの間にか、光を自由に操れるようになっていた。きっと、回復魔法を広範囲に使った事が影響したのね。
四属性魔法とは違う光魔法は、聖女にしか使えない魔法。
「あなたは、人を殺し過ぎた。許す事は出来ない」
光の鎖は、アークデーモンの体をギリギリと音を立てて、徐々に締め上げて行く。
このまま殺す事は容易い。だけど、残酷な場面をレニーに見せたくはない。
私はアークデーモンに多重結界を張った。そのまま結界を縮小して行き、消滅させた。
「お姉ちゃん!」
レニーを乗せたティアが、私の元に走って来た。近くまで来ると、レニーはティアから降り、私に抱きついて来た。
「お母さんと、村のみんなの仇を取ってくれて、ありがとう!」
母親と、家族のような村の人達を失ってしまったレニーの悲しみは、消える事はない。
「レニーはもう、私の……私達の家族だよ。レニーを逃がしてくれた、お母さんと村の人達の為にも強く生きよう」
レニーは大きく頷き、もう一度私に抱きついた。
「これは……いったい?」
魔物が暴れている気配がしなくなったからか、町の人達が姿を現した。
「お姉ちゃんが、魔物を倒してくれたんだよ!」
レニーが、得意気に話した。
……私がした事は、知られたくなかった。
出来れば、知られないままこの町を出ようと思っていたけど、そうは行かなくなってしまった。
「お嬢さんが!?」
「あんなに大きな魔物を、一人で倒したのですか!?」
「もしかして、有名な冒険者様ですか!?」
聖女だとは、思われていないみたいでホッとした。
「もし良ければ……いいえ、是非とも町の宿に泊まって行ってください!」
否定しても、もう遅いよね……
私は観念して、お言葉に甘える事にした。
町の人達は、魔物が現れて直ぐに、教会の地下へと身を隠していたようだ。この国には聖女が居ない。小さな町や村は魔物に襲われたらひとたまりもない。この町では、魔物から身を隠す為に地下室を作っていた。
壊されずに済んだ宿屋に、町長が部屋を用意してくれた。ティアの元の姿はすでに見られていたけれど、魔物に襲われたばかりの町の人達の為に、恐怖を抱かせないように、ティアには小さくなってもらった。
町長は宿屋の一階にある食堂で、食事を振る舞ってくれた。食事は豪勢でとても美味しかった。食事中、次から次へと町の人達が訪れ、感謝の言葉を伝えて帰って行った。
嫌われ者だった私が、人々に感謝される日が来るなんて思わなかった。
「レニー、美味しい?」
「うん! 美味しいよ!」
必死に明るく振る舞おうとしているレニー。この子が、早く心から笑えるようになるといいな。
「サンドラ様、これは美味です!」
私の作った食事を褒めた事は1度もないティアが、美味しそうに食べている。
「私の料理は、美味しくなくてごめんね!」
わざと嫌味っぽく言ってみた。
「お姉ちゃんのご飯、美味しくないの?」
育ち盛りのレニーに、あんな不味いものを食べさせられない!
「美味に決まっている! サンドラ様の料理は、素材の味を活かしている素晴らしい料理だ!」
要するに、味がない。
ジュードと別れた後、調味料を買って、ちゃんと使っているのに味がない。
……料理って、難しい。
「そろそろ、部屋に行こうか」
ティアを肩に乗せ、レニーと手を繋いで二階の部屋に行き、ドアを開けて中に入った。
「結構広いね。ベッドが二つあるけど、レニーはどっちがいい?」
レニーは迷わず、
「お姉ちゃんと一緒に寝る!」
と言った。
可愛い妹が出来たみたいで、凄く嬉しい。
妹のアンナは、全く可愛くなかった。
「じゃあ、一緒に寝ようか」
レニーをベッドに寝かせ、その隣に横になる。
「我も一緒に寝ます!」
ティアは枕元に丸まって寝た。
ベッドで寝るのは久しぶり。
今日は疲れたからか、ベッドに入るとすぐに眠くなった。そしてそのまま、眠りに着いた。