36、ほんの一瞬の女王
皆がザワザワし始める。
「な、何を仰っているのか、よくわかりませんが、サンドラ様がお戻りになられたことをお喜び申し上げます!」
国王は、ドンソン公爵によって王に立てられただけの操り人形。聖女だった王妃が亡くなり、子も出来なかった国王に未来なんてないから、聖女である私を手に入れようと必死になっているのね。だけど、もうこの国は終わる。
「王族である私の言葉を聞きなさい! この国ヒルダは、今日この時をもって、アットウェル王国の一部になります。ヒルダという国は、なくなります!」
皆、何が起きているのか分からないといった顔で、私を見ている。いきなり国がなくなると言われたのだから、当然だろう。
「何を言っている!? 勝手なことを言うな!!」
やっと黒幕のお出ましね。
裏で国王を操っていた、ドンソン公爵が慌てて姿を現す。
「勝手なこととは? 先程、偽の国王が私を王族だと認めたではありませんか? 真の王族である私が決めたことです。何か問題でも?」
母は、あんなことがなければ、女王になるはずだった。
「偽だと!? 国王を侮辱するなど、あってはならぬこと! 王族を騙るこの女を、捕まえろ!!」
私が大人しくこの国に戻らなかったら、捕まえるつもりなのはわかっていた。
控えていた兵士達が、私を取り囲んだ。
ジュードは座ったまま、私を信じて動かない。
私は光魔法でロープを作り、兵士達を縛り上げた。
「私を捕まえることは、不可能です。
この指輪、分かりますか? この国の王に、代々受け継がれて来た指輪です。この指輪は、王である証だということをお忘れですか?」
この指輪を持つものが、ヒルダの王だという証だと、指輪が教えてくれた。母はずっとこの指輪を隠していて、死が迫っていると感じた時、生まれてくる子に渡して欲しいとアリーに預けた。
母は私に、ヒルダの未来を託し、亡くなっていった。
「なぜ今更、そんな物が!?」
ドンソン公爵は動揺している。それ程、この指輪が重要だということだ。
「女王として、最初で最後の命を下す! ドンソン公爵を始め、ヒルダの貴族を全て捕らえよ!」
光の魔法を解き、兵士達に命令をした。
すると、兵士達は私に跪き……
「「「ご命令、お受け致します! 女王陛下!!」」」
兵士達は立ち上がり、ドンソン公爵や貴族達を全て捕らえた。
「ふざけるな! やっとこの国を手に入れたのに、小娘のせいで失ってたまるか!!」
ドンソン公爵は縛られているにも関わらず、暴れ出す。
「いい加減、観念したらいかがですか?」
ドンソン公爵にそう言ったのは、アットウェル王国の王太子オーウェン殿下。ジュードのお兄さんだ。この結婚式を、隠れて見てくれていた。
アンナに結婚式の招待状を渡された後、私はアットウェル国王に会いに行った。ジュードと結婚したというのに、挨拶もしていなかったし、ヒルダのことを相談したかったからだ。
指輪の記憶を見た後、自分が女王になるべきなのだと知った。でも私は、ナージルダルでレニーとティア、そしてジュードと普通の暮らしがしたかった。それがワガママだということは分かっていたけど、あのまま暮らしていたかった。
そんな時アンナが現れて、ヒルダが私を狙っていることが分かった。
アットウェルの国王に相談して来たら? と言ってくれたのはジュードだ。自分はもう、王子ではなくなったからと一緒に来てはくれなかったけど、一刻も早く王都に私が着く為には、一緒に行かない方がいいと判断したのは分かっている。
国王様に相談した結果は、ヒルダをアットウェルに受け入れてくれるということだった。国民を大切にしてくれるアットウェルの一部にしてもらえることに、異論なんてなかった。
私はこのヒルダの女王には、なるつもりがなかったからだ。
「お久しぶりです、オーウェン殿下」
ジュードは、オーウェン殿下によそよそしい挨拶をした。




