29、私達の家
アットウェル全体に結界を張るために、半日集中したせいか、疲れて眠っていたみたい。目を覚ますと、レニーとティアが顔を覗き込んでいた。
「……レニー、ティア、近いよ」
起き上がって窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。
「ティアのせいで起きちゃったじゃない!」
「我ではなく、レニーの顔が近かったのだ!」
レニーもティアも、心配してくれてたのね。
「明日は、みんなで住むお家を探しに行こう! 私達は、このナージルダルに住むの!」
「本当!?」「我も一緒にですか!?」
「本当。ティアも、一緒に決まってるじゃない。私達は家族なんだから」
「サンドラ様……我は、サンドラ様に出会えて、本当に幸せです」
ティアと出会えて幸せなのは私の方。レニーもティアも 、すごく喜んでくれた。ここに住めば、レニーはいつでもお母さんに会いに行ける。
「明日からは忙しくなるから、2人とも手伝ってね!」
翌日、町長が探してくれた家を買った。家自体は大きいけれど、長年放置されていたらしく、かなり傷んでいた。
私達が家を買ったという噂を聞きつけて、町の人や冒険者ギルドのセリアさんや自称Aランク冒険者のレッドさんやダンカンさん、ラルフやフーリン伯爵まで、家の修理やお店の改築まで皆さんが手伝ってくれて、1ヶ月程で全てが終わった。
「ここが、私達の家とお店なのね……」
建物の左手は家で、右手がお店。赤い屋根は、ラルフが塗ってくれた。看板は、フーリン伯爵が作ってくれた。お店の棚は、レッドさんとダンカンさんが作ってくれて、家の内装は町の人達みんなが……
こんなに沢山の人達の思いが詰まった建物は、他にないと思う。
「皆さん、本当にありがとうございました! 皆さんのおかげで、こんなに素敵な家とお店が出来ました!」
「サンドラ様のお力になれて、我々ナージルダルの住民一同、すごく嬉しいです!」
「俺とダンカンもです!」
「ギルドとしては、サンドラさんにはまだまだSランクの依頼を受けていただかなくては困りますからね!」
セリアさん……善処します。
「サンドラ様が、我が領地にお店を出してくださり、本当に感謝しております!」
「私の方こそ、フーリン伯爵のような素晴らしい領主様が治める町に受け入れていただけたことを感謝しています」
この国の人達は、本当に温かい人ばかり。オスカー様の一件で、私がヒルダの生き残りで聖女だということは、既に知れ渡っている。それでも、皆さん何も言わずに普通に接してくれる。
この髪は、ずっとこのままにしておくつもりだ。ロックダムがなくなっても、他の国が聖女としての私を狙って来ないとは言いきれないから。
エヴァン様は、あの日から姿を見せていない。最後に、自ら居なくなってくれたことに感謝してる。
今日からは、新しい家で暮らすことになった。だけど、困ったことがある。
「…………」
「…………」
「………………不味い」
ずっと宿屋の食堂で、おばさんの美味しい食事を食べていたのに、いきなり不味いご飯を食べることになってしまった。(私が作ったんだけど……)
「不味くなんかないよ! 美味しくないだけだよ!」
レニー、それはフォローになってない。
「我は、無理をすれば食べられます! 」
ティア……食べたくないのが伝わった。
「食事問題は、深刻ね……
そのことは明日考えるとして、2人とも今日はお留守番をお願いね」
「お留守番、頑張る!」「お任せ下さい!」
夕食を食べ終わった私は、支度をしてからラルフのいる国境へと向かった。
ラルフに、ロックダムの国境に連れて行って欲しいと頼んでいた。
ロックダムの結界が消滅してから、1ヶ月以上経っている。ロックダムの国民は、ほとんどが他国へと逃げたと聞いた。
結界が消滅してから、魔物達がいっせいに国の中に入り、ロックダム王国は魔物の国に成り果てた。それならば、ロックダム王国に結界を張ってしまえば、魔物達はこの国から出ることが出来ないと考えた。
「付き合わせちゃってごめんね」
ラルフに一緒に来てもらったのは、結界を張っている間は私自身が無防備になってしまうからだ。
「とんでもありません! サンドラ様をお守り出来るなんて、感激です!」
ラルフに護衛をしてもらい、目を閉じて祈り始める。
サンドラがロックダムに結界を張ろうとしていた時、ロックダム国内に残っている人間が3人いた。




