27、ロックダムの結界
サンドラが、ドラゴンの討伐に出発した頃。
ロックダムに異変が起きていた。
「陛下! 国を出て行く民があとをたちません!」
ロックダム王国では、聖女サンドラが国を捨てたという噂が広まり、聖女のいないロックダム王国を捨てる民が増えていた。この国の兵力では、魔物を退けることが出来ないのは、国民も分かっている。この国唯一の聖女の王妃には、国を守るだけの力はない。魔物に襲われて死ぬのを待つくらいならと、国民は他国に移住し始めていた。
「検問所の警備を厳重にし、民をこの国から出すな! 今まで、散々我々の力に頼って来ておいて、国を捨てるなどふざけるな!!」
自分勝手な民に、国王は激怒していた。
だが、この国を守って来たのは歴代の聖女である王妃達。兵力の強化もおろそかにし、聖女に頼り切っていたのは国王も同じだ。
「そもそも、王妃が使い物にならないからこんなことになったのだ! 王妃にまでしてやったというのに、この役立たずがっ!!」
何も悪くない王妃まで責める国王。
「……申し訳ありません」
謝ることしか出来ない王妃。
王妃は大聖堂に行き、少しでも結界をもたせる為に祈り続ける。
「王妃様……なぜそこまでするのですか!?」
王妃に長年ついていた侍女は、祈り続ける王妃の身体を心配していた。
「私には、これくらいしか……いいえ、これ以上のことが出来ないからよ」
王妃は、この国の人間ではない。聖女の力があるという噂を聞きつけ、前国王が王太子の婚約者として連れて来た。王妃になる為に、無理やり連れてこられたのだ。
「王妃様、兵士達が出払っている今なら逃げられます! 国民もこの国から逃げ出しているのだから、王妃様がこれ以上ご自分を犠牲にする必要はありません!」
侍女は必死に説得する。
長年、王妃は道具のように扱われて来た。力の弱い王妃は、この国の人間に散々役立たずと罵られ、それでも祈り続けて来た。1番の被害者は、王妃なのかもしれない。
「サンドラが羨ましい。私にも、この国から逃げる勇気があったなら、自由に生きることができたのかしら……」
この国の王妃になった日から、王城の敷地にある大聖堂からほとんど出ることが許されなかった。我が子である王子達にも、数回しか会ったことがない。王妃とは名ばかりの、国の奴隷だった。
「今からでも、遅くはありません! 」
王妃は侍女の言葉に、首を横に振った。
「あなたは逃げなさい。この国で、生涯を終えるのは私の運命なの。私はもう、長くないのよ……」
ロックダム王国の王妃、ヴィアンカは病を患っていた。そのことを国王は知っていたが、ヴィアンカを治療するどころか、休ませもしなかった。
「王妃様……」
ヴィアンカ王妃は、その夜、大聖堂で静かに息を引き取った。王妃の最後の願いは、侍女のケイトが無事にこの国から逃げること。王妃は最後の力を振り絞り、ケイトに結界を張った。王妃の力が弱くとも、ケイト1人を守る結界は成功していた。
「このような時に死ぬなど、あの役立たずが!!」
王妃が亡くなったとケイトから報せを受けた国王は、悲しむどころか憤っていた。
ケイトの仕事はここまでだ。王妃の死を報せたケイトは、そのまま王城から逃げ出し、国境へと向かった。
「父上! 民と共に、兵まで国を捨てて逃亡しているようです! 城の護衛の姿もありません!」
サンドラに逃げられ、あのパーティーの日から部屋に閉じこもっていたオスカーが、異変に気付き部屋から出て来た。
「裏切り者共め!! エヴァンはまだ戻らんのか!?」
国王はエヴァンだけを信じていた。エヴァンは必ずサンドラを連れて戻ると、信じて疑わない。
その日、ロックダムに張られていた結界が消滅した。




