26、愛する人
…………………………あれ? 何の衝撃も来ない?
「全く、あんたは危なっかしいな」
この声は、ジュード? まだ、幻術にかかってるの?
そっと目を開けると、ジュードがブラックドラゴンの攻撃を土魔法の壁『アースウォール』で受け止めたまま、私の目の前に立っていた。
「本物……なの?」
ジュードは、王都に向かっているはず……
「当たり前だ。全く、幻術魔法になんか引っかかるなよ!」
ジュードは無数の土魔法の槍『アースランス』で、ブラックドラゴンの身体を貫いた!!
何百もの土の槍に貫かれ、ブラックドラゴンは崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
心配そうに、私の顔を覗き込むジュード。幻覚じゃない、本物のジュードだ。
「ジュード……ジュード! ジュードジュードジュード!!」
気付いたら、ジュードに抱きついて泣くじゃくっていた。
どれくらい泣いていたのか分からない。ジュードは、その間ずっと背中をさすってくれていた。
「落ち着いたか?」
いつになく優しい声で聞いてくるジュード。
「うん。ありがとう」
「で? どんな幻覚を見たんだ?」
ジュードの死体……とは言えない……
「レニーが、泣いていたの」
「そうか。それは動揺するな。あの幻術は、愛する人が見えるようだ」
愛する人!?
それって、私がジュードを愛してるってこと!?
「ジュードは、幻術魔法にかからなかったの?」
私……何聞いてるんだろ……
別に、ジュードが誰を見たかなんてどうでもいいし!
「あんただけど?」
「はい!?」
え、え、え!?
何でそんなあっさり、そんなこと言えちゃうの!?
誤魔化した私が、恥ずかしいじゃない!
「見えたのに、幻術魔法に引っかからなかったの?」
「俺が、あんたを間違えるわけないだろ」
私はまんまと騙されてしまった……
今日のジュード、積極的過ぎない? 本当にジュードなのかな?
「どうして、ジュードがここにいるの?」
「依頼をたまたま見たんだ。こんな依頼、あんたしか受けないからな」
その通り過ぎて、何も言えない。
「1人で無茶するなよ……
あんたが倒れてるの見て、心臓が止まるかと思った」
「ごめんなさい……」
ジュードが来てくれなかったら、私は死んでた。いつだって助けられてばかりで、ジュードに迷惑をかけてる。
「まあサンドラが危ない時は、いつだって俺が駆けつけるけどな」
……ああ、私はジュードが好きだ。そして今、私は幸せだ。
「ありがとう、ジュード」
自分に回復魔法をかけて、私達は洞窟を出た。ジュードはまた、王都に向かう。
また離れ離れになるけど、私の心は満たされていた。
「またな」
「またね」
短い別れの言葉。でも、またすぐに会える。
ジュードを見送ってから、ギルドに報告しに戻った。
「お帰りなさい! さすが、サンドラさんですね!」
ギルドに戻り、セリアさんに報告をした。
「倒したのは、私じゃないんですけどね」
首を傾げるセリアさんに、ブラックドラゴンの爪を渡して依頼が完了した。報酬の金貨100枚を受け取り、ナージルダルへと戻った。
宿屋に着くと、レニーとティアが出迎えてくれた。あんな幻覚を見たから、2人の元気な姿を見て安心した。
夕食を食べ終わって部屋で寛いでいると、何か忘れてるような気がして来た。
「ねえ、何か忘れてるような気がするんだけど、何だろう?」
「キラキラのお兄ちゃん?」
レニーに言われるまで、すっかりエヴァン様のことを忘れていた。
「まあ、いっか」
「サンドラ様! 我は忘れないでください!」
「あたしも忘れちゃヤダー!」
「ティアもレニーも、忘れるわけないよ。さ、寝よっか!」
その日の夜遅く、エヴァン様は1人でナージルダルの宿屋に戻って来た。




