23、エヴァン
エヴァン様は、ジュードが迎えに来てくれた時会場にいた。私達は、ロックダムを2週間程で抜けたのに、エヴァン様も同じくらいのスピードでここまで来たことになる。
エヴァン様には、ほとんど魔力がない。ということは、馬車ではなく馬に乗って来たとしか考えられない。しかも、ほとんど休憩せずに。
あの傲慢だったエヴァン様が、そこまでして追いかけて来たことが信じられない。
それに、気付かなかったけど、エヴァン様はレニーとティアが座っているテーブルに座っていた。いつの間に、仲良くなったのだろう……
「サンドラ様、お帰りなさい。エヴァン様が、お父上からの手紙をお持ちしたとのことで、お連れしたのです」
お父様からの手紙?
あのお父様が、自ら手紙なんて書くはずがない。エヴァン様は、何を考えているの?
「サンドラ、少し2人きりで話せるか?」
嫌だけど、話さなければ帰ってはくれない。
「私の部屋へどうぞ」
部屋に入り、ドアを閉めると同時に、
「何しにいらしたのですか? 手紙など、ただの口実ですよね?」
エヴァン様の顔を見た瞬間から、言いたかった事を言った。
そんなもので、騙されるとでも思ったのか……
エヴァン様は驚いた顔をしながらも、静かにソファーに腰をかけた。
「お前が俺に、そんなにハッキリものを言うとはな。確かに、手紙は口実だ。俺はただ、お前に謝りたかった」
謝りたかった……ですって?
私が本当は聖女だったから、無能扱いしてすまないとでも言うつもりなのか。
そんな事で謝られても、何の意味もない。
「謝罪は結構です。お帰りください」
もう話すことはないと、ドアノブに手をかけ、部屋から出て行こうとした瞬間、ガタンと音がして振り返った。
「すまなかった!!」
振り返った私の目に映ったのは、深々と頭を下げているエヴァン様の姿。あの傲慢でわがままだったエヴァン様が、誰かに頭を下げることなどありえないことだった。
「頭を上げてください。どんなに頭を下げられても、ロックダムには戻りません」
「俺は、ロックダムを追放されたんだ。お前を連れ戻しに来たわけではない。お前が、冒険者になったと聞き、俺も冒険者になりたいと思ったんだ。仲間に、なってくれないか?」
エヴァン様が冒険者!?
まさかそんなことを言い出すとは、思ってなかったから、かなり意表を突かれた。
「エヴァン様に冒険者は無理です。失礼します」
「待て! 待ってくれ! 俺には、サンドラ以外に頼れる人間がいない。何と言われようと、俺は冒険者になる! お前がいなかったら、俺はすぐに死んでしまうかもしれないぞ? お前はそれでも、俺を見捨てるのか!?」
この人は、本当にあのエヴァン様なのか……
「死にたくなかったら、冒険者にならなければいいのです。私には、関係のないことです」
「サンドラ!!」
まだ引き止めようとするエヴァン様の声を振り切り、そのまま部屋を出た。
エヴァン様を放って食堂に戻った私は、レニーとティアと、そしてラルフと一緒に夕食をとることにした。
「エヴァン様は、どうされたのですか?」
「さあ? 私には、関係ありません。食事にしましょう!」
料理を注文していると、エヴァン様が食堂に降りて来て、私達の座っているテーブルに座った。
「ここのオススメは何だ?」
諦めて帰ると思ったのに、そのつもりはなさそう。
「ここはね、何でも美味しいよ!」
レニーは無邪気に答える。
「何でもか、それなら沢山食べなくてはな~」
何だろう、その話し方は……
だけど、レニーが楽しそうに笑っている。
「あたしも沢山食べる~」
「お、真似したな~」
本当に、いつの間にこんなに仲良くなったのか……
食事が終わると、ラルフは検問所に戻って行った。レニー達と部屋に戻ろうとすると、エヴァン様は笑顔で手を振りながら『おやすみ』と言った。あの様子だと、ここに宿を取ったようだ。
部屋に戻り、着替えをすませると、既にレニーはソファーで眠っていた。
「ティア、レニーを任せ切りにしてごめんね」
レニーの隣に座り、寝顔を見ながら、ティアを膝の上に乗せる。
「我は、サンドラ様の下僕です。それに、レニーが大好きなので、謝ることはありません」
レニーやティアと一緒にいたいけど、お金が足りない。なるべく早く稼いで、のんびりお店をやって行けたらいいな。
それにしても、エヴァン様は何を考えているのか……




