17、再会
「この空気、前にも感じた……」
この感じは、8歳の時にティアに出会った時と同じ。そろそろ、結界も限界だったから、魔物が国へ侵入して来ても不思議はない。
「下がってろ」
ジュードが私を背に庇い、辺りを警戒する。
どうしてジュードは、私を守ろうとしてくれるの? 正直、魔物相手なら私の方が強い。守られるような存在じゃないのに……こんな事されたら、ジュードに頼りたくなる。
川の反対側から、魔物が姿を現した!
「え……?」「ええ!?」
私達の声がハモった。
魔物の正体は……
「サンドラ様ーーーーッッッ!!!」
ティアだった。
「お姉ちゃーーーん!!!」
しかも、レニーまで一緒だ。
ティアはレニーを背に乗せたまま、川を飛び越えて来た。
「レニー!ティア!」
レニーとティアに思い切り抱き着く!
こんなにも寂しかったんだと実感した。
「お前ら、あれ程着いて来るなと言ったはずだが?」
ティアは耳を垂らして落ち込み、レニーは目をうるうるさせている。
「私のこと、心配して来てくれたんだよね。何も言わずに居なくなった私が悪いの。ティアとレニーを叱らないで」
私に何かあったら、ティアにはレニーを頼むと言ってあった。私との約束を破って、こんな所までレニーを連れて来たティアを、本当は叱るべきなのかもしれない。だけど、ジュードに怒られて落ち込んでるティアを見たら、怒る気がなくなった。
「あんた、甘いな。まあ、それだけコイツらはあんたに会いたかったってことだろうな」
私も会いたかった。すごくすごく会いたかった。
ティアは国民に見つからないように、ずっと森を移動して来たらしい。私が張った結界が弱まっていた事もあり、すんなり入って来れたようだ。
「サンドラ様、こちらを!」
ティアが首から下げていた袋を開くと、フーリン伯爵からいただいた金貨が入っていた。
「お金まで持ってくるなんて、なんて有能なの!?」
そのお金を持って、町で食事をする事にした。ティアは小さくなり、私の肩に乗る。この感じも久しぶりで、なんだか嬉しい。小さな食堂に入り、1番奥のテーブルに座り、食べたいものをこれでもかというくらい注文した。
「実は我達がこの国に入ろうとした時、フーリン伯爵とロックダムの国境でお会いしました」
「どうしてフーリン伯爵が? ロックダムに、何しに来るの?」
「サンドラ様を、お救いする為です」
フーリン伯爵が私を!?
隣国の伯爵が、まさかこの国に乗り込むつもりなの!?
「フーリン伯爵は、今どこにいるの?」
「入国を断られ、国境付近にいると思われます」
もしかして、フーリン伯爵は私を連れ戻しに来たと正直に話したの……?
この国に入れていないなら、ひとまず安心ね。
「……自国の伯爵が、考えなしな事をするとはな」
単身でロックダムに乗り込んで来たジュードも、十分考えなしだったと思うけど。
「アットウェルの人達は、とても温かい人達ばかりね。この国とは大違い。あのパーティーに参加したジュードも、この国の貴族には呆れたでしょ」
「そうだな。あんたが『悪臭がします』って言った時は、笑いを堪えるのが大変だった」
嫌な所を見られてしまった……
「あの人達がしつこかったから、ついね……」
「あの時、あんたらしくて安心した。町のヤツらを傷付けられて、脅されて連れ戻されて、何もかも諦めてたらどうしようかと思ってたからな」
ジュードの言葉は、私を安心させてくれる。私自身を、ちゃんと見てくれているのだと思えるから。
料理が運ばれて来て、テーブルに並べられる。
「わぁーい! ごっ飯~! ごっ飯~」
レニーは、口いっぱい頬張りながら食べている。
「こら、レニー! 我の分まで食べるな!」
ティアも負けじと、口いっぱいに頬張る。
私のことが心配で、あまり食欲がなかったらしい。食欲が戻ってよかった。
「ティア! それは、私のお肉よ!」
ジュードは、はぁと溜息をつき、呆れた顔をしながら、少しだけ笑っているように見えた。
こうしてると、家族みたい。ジュードはお父さんで、私はお母さん。レニーは私達の可愛い娘で、ティアは……息子かな。
こんな風に幸せな家族を持てたらと、ずっと思っていた。
そんな事を考えながら、水の入ったグラスを手に取り一口飲む。
「サンドラ……それ、俺の水だ」
私の顔が、一気に真っ赤になったのが分かる。
「ご、ご、ご、ごめん!!」
動揺し過ぎて、余計に恥ずかしくなる。
「お姉ちゃん、どうしてお顔が赤いの?」
レニーに顔を覗き込まれる。
「急いで食べ過ぎて、喉に詰まったみたい。あははは」
間接キスくらいで、私はどうしてこんなに動揺してるの!?
「食べ終わったなら、出発するわよ! フーリン伯爵がまだ国境に居るなら、早く行かないと!」
まだ食べていたティアを抱き上げ、店から出て、さっきの川に向かった。




