16、2人きりの移動
「ジュード……ジュード王子、本当にありがとうございました」
風と土魔法を使い、移動しながらお礼を言った。
「気色悪いから、今まで通りでいい。レニーが待っているから、早く帰るぞ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、顔が赤くなっているのは隠せていない。
「早くレニーとティアに会いたいな」
急に居なくなって、きっと心配してるよね。
「それにしても、ジュードが王子様だったなんてビックリしたよ。どうして王子様が、冒険者をしているの?」
ジュードに初めて会ったのは、この国だった。もしかして、この国に偵察に来ていたのかな?
「アットウェルは、魔物にいつ襲撃されるか分からない。俺は強くなりたくて、冒険者になった。強くなれば、魔物に命を奪われる人を減らすことが出来る。それに、冒険者の方が自由に動けるから、他国の内情も探りやすいしな」
ジュードは凄いな。私は、自分に力があると知りながら、8年間何もしようとしてこなかった。
「あんたには、感謝している。兵士の傷を治してくれて、魔物まで倒してくれた。だから、俺はあんたを必ず守ると決めたんだ」
それで、魔法も教えてくれたのね。それなら、最初から言ってくれたらよかったのに。警戒しちゃったじゃない……
「ねえ、もう少し早く移動出来ないの? ジュードに速度を合わせてたら、日が暮れちゃう」
ジュードの言葉が嬉しくて、照れているのがバレないように誤魔化してしまった。我ながら、可愛げがない。
「日が暮れたら、宿に泊まればいい。これ以上速度を上げるのは無理だ」
泊まる!? 2人きりで!?
って、何を意識してるのよ……
相手は王子様よ。私とは身分が違う。
結局、宿に泊まることになった。
「一部屋で良かったんじゃないか?」
ジュードは私を、女性だと思ってないのでは?
これでも私は、嫁入り前の女性だ。男性と同じ部屋に泊まるなんて、ありえない!
「いいわけないでしょ!? 乙女の部屋に勝手に入って来るのもやめて!」
二部屋とったのに、何故かジュードは私の部屋のソファーに座り、寛いでいる。
「悪かったよ。あの時あんたが連れ去られたと聞いて、すごく怖かった。ここはまだ、ロックダムだ。今はティアも居ないし、1人にしたくないんだ」
女性とか男性とか気にしていた私が、バカみたい。私を守りたいから、そばに居てくれていた。
「ジュードが居なかったら、私はあの場所から逃げる事なんて出来なかった。本当にありがとう」
ジュードを真っ直ぐ見つめながら、気持ちを伝えた。
「もう寝ろ! 明日は早く起きて、とっととこの国から出るぞ」
ジュードが照れた時は、言葉が乱暴になるのだと分かってきた。乙女という言葉が効いたのか、自分の部屋に戻って行くジュード。ドアを開けて出て行く前に、振り向いて私をじっと見つめてきた。
「何かあったら、大きな声で叫べ。すぐに駆けつける」
そんなに心配しなくても、私はか弱くはないのに……
「分かった。おやすみ」
ジュードが隣の部屋に行ったのを確認し、ベッドに入る。1人で眠るのは、久しぶりだ。
邸を出てからは、ティアとレニーと一緒に寝ていた。この国から出るまで、2週間はかかる。2週間、1人で寝るのか……寂しいな。
朝早く、ジュードが起こしに来た。まだ外は明るくなりきっていない。……早すぎる。
あまりにも早すぎて、食堂は開いてなかったから、朝食はジュードが携帯していた干し肉を食べた。私が作った食事より美味しかったのが悔しい。
「あんまり金がないから、食事は現地調達にしよう。それと、今日からは野宿にする」
今日もジュードのスピードに合わせて、アットウェルを目指す。
「あんまりお金がないなら、なんで昨日は宿屋に泊まったの?」
私は野宿でも構わなかった。邸を出てからこの国を出るまで、ティアと野宿していたし。
「迎えに来といて、初日から野宿しようとは言えなかったんだよ」
お金がないって、言ってくれたらよかったのに。だからあんなに、一部屋にこだわっていたのね。
「王子様なのに、貧乏なのね。私を捕まえていたら、金貨300枚だったのに」
「悪人でもないやつを捕まえられるか」
そういえば、初めて会った時見張られていたんだっけ。自分の目で確認したんだ。
「よかった、悪人じゃなくて」
「自分で言うか!?」
ジュードは驚き過ぎて、転びそうになっていた。
「だって、ジュードが悪人じゃないと判断してくれたんでしょ? それが、嬉しいから」
「誰が見たって、あんたは悪人には見えねーよ」
私は、アンナを利用した。アンナが先に利用して来たけど、嘘がすぐにバレることは分かっていた。私が居なくなった後、アンナがどうなるかなんてどうでもよかった。……私は、悪人だよ。
「ねえ、お腹空いた! この先に川があるから、魚を捕まえて食べよう!」
まだ移動し始めたばかりだったけど、ジュードは仕方ないという顔をしながら、川へと向かう私のあとを追いかけて来た。
干し肉だけじゃ、足りなかった……
川辺に着き足を止めると、異様な空気を感じた。




