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聖女の力を隠して来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。  作者: 藍川みいな


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13/37

13、聖女は……



ナージルダルの町を出てから、1ヵ月が経った。そろそろ、王都が見えてくる。


結局、戻って来てしまった。


ティアは絶対に追ってこない。もしも私に何かあったら、レニーを守るように命令してある。優先すべきは、私の命よりレニーの命だと言い聞かせた。ジュードにも、頼んである。だから、ティアとレニーは大丈夫。


私はまた、透明人間に戻るだけ。

そうだ、この国に結界を張りつつ、アットウェルにも結界を張ろう。あの国の人達は、素敵な人達ばかりだった。みんなを守れるなら、道具でもいいかもしれない。


王城へと到着し、門が開かれ、馬車は中へと進む。


「やっと着きましたね。分かっているとは思いますが、くれぐれも余計なことは言わないでくださいね」


物語に出てくる、悪役みたいなセリフ。まあ、オスカー様は完全に悪だけど……


「信用出来ないのなら、猿ぐつわでもしたらいかがですか?」


大人しく従うつもりはない。

私が逃げない限り、ナージルダルの町の人達には手を出さないと約束をしてもらった。逆に言えば、私が逃げなければいい。とはいっても、オスカー様の計画を邪魔すれば、約束は守られない。

オスカー様が王太子になれるように、協力するしかない。


「信用しているので、その必要はないでしょう。父上に、挨拶に行きますよ」


馬車が止まり、オスカー様が先に降りた。その後に続き、馬車から降りる。

王城に来るのは、エヴァン様に婚約を破棄されたあの日以来だ。そんなに時は経っていないのに、随分昔のことのように思える。


オスカー様のあとを追い、国王様の元へと向かう。国王様も、苦手だった。

力を持っていない私を、ゴミを見るような目で見ていた。国王様だけじゃない、この国の貴族も民達も、私を役立たずのゴミを見るような目で見ていた。


国王様が居る執務室に着くと、オスカー様は身なりを整えてからドアをノックした。


「入れ」


中から声が聞こえると、ドアを開けて中に入る。


「父上、サンドラ嬢を見つけ、連れ帰りました」


「そうか。ご苦労。下がれ」


国王様は、私にも、オスカー様にも視線を向けることなく、書類を見ながらそう言った。下がれと言われても、オスカー様は動こうとはしない。


「まだ用があるのか?」


「父上に、お願いがあります。サンドラ嬢との婚約を、お許し頂きたいのです」


そう言って頭を下げるオスカー様。国王様は、ようやく顔を上げてオスカー様を見た。


「それはならん。その娘には子を生ませ、その子を(のち)の王妃にしなければならない。その娘は、王家ではなく公爵家に嫁いでもらう」


お母様が、オデット公爵家に嫁がされた理由が分かった。お母様は、聖女ではなかったから。


「それはなりません! サンドラ嬢は、聖女です!」


オスカー様の言葉に、目を見開く国王様。そして、今日初めて私の顔を見た。


「それは、どういうことだ!? 聖女は、オデット公爵家のアンナではないのか!?」


国王様も、アンナがついた嘘を信じていたみたい。それ程、私が上手く隠せていた。それなのに、オスカー様には気付かれていた。


「アンナ嬢は、聖女ではありません! 8年前の結界も、国の結界も、全てサンドラ嬢が張ったものです!」


国王様はイスから立ち上がり、こちらへと歩いて来て、私達の前で止まった。


「そこまで言うのならば、確証があるのだろうな?」


「もちろんです! サンドラ嬢が、斬られた人間の傷を一瞬で治すのをこの目で見ました! 」


「……そうか。

エヴァンとアンナをここに呼べ!」


ドアの外に控えていた臣下が、エヴァン様とアンナを呼びに行った。

2人を待っている間、色々聞かれた。8年もの間、力を隠していた理由や、先日の結界のこと、なぜ国を出たのかも、根掘り葉掘り聞かれ、私は適当に誤魔化すしかなかった。

本当のことを言うわけには、いかなかったからだ。


しばらくすると、臣下がエヴァン様とアンナを連れて戻って来た。


「なぜお前が、ここに居るのだ!?」


「どうしてお姉様がここに!? 今まで、どこにいたの!?」


もう、質問にはうんざりしていた。


「兄上、僕はサンドラ嬢と婚約することになりました。本当の、()()()です!」


勝ち誇った顔で、エヴァン様にそう告げたオスカー様。


「何を言っているのだ!? 聖女はアンナだ!」


エヴァン様は、アンナを信じてる。少しだけ、気の毒になって来た。


「やめよ! アンナが聖女だと言うのなら、その証拠を見せよ」


国王様にそう言われ、エヴァン様はアンナの顔を見る。アンナの顔は真っ青になって、冷や汗を流していた。


「アンナ!? 出来るよな? 国全体に、結界を張ったではないか!?」


「その結界、本当にアンナ嬢が張ったものなのですか?」


追い詰められていくアンナ。アンナは顔を両手で覆い、泣き出した。


「うわあああぁぁんっ!! 申し訳ありません! 私は……私は、お姉様に脅されていたのです!!」


オスカー様にいいように使われたアンナにも、少しだけ同情していた。だけど、そんな必要はなかった。


「どういうことだ!? お前は、聖女ではないのか!?」


驚きを隠せないエヴァン様。アンナはずっと泣いているフリをしている。

エヴァン様はアンナが心配だからではなく、自分の身が心配なのだ。エヴァン様は、最初からアンナに興味がなかった。それなのに騙され、王太子の座を失うことになる。




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