一歩ずつ
「おーい。洞窟から出たぞ」
背中に背負っている少女にそう声をかけると「はい。ありがとうございます……」と少し申し訳なさそうに答えた。
気を使う必要なんてないのに。
そっと少女を背中からおろし聞いた。
「お前は、これからどうしたい?」
少女は少し下を向き「そんなことより……」と切り出した。
「そんなことより、あなたのやるべきことが先じゃないの……?」
そう。元々ここに来たのはその為だ。
だが、今はこいつが悲しい顔をしないようにしてやることの方が大切だ。
俺は人としっかり話すのは久しぶりだ。……多分こいつも。
それに、こいつも俺に気を使っているのだろう。俺もそうだ。何かと気を使っているのは自分でもよく分かる。こう考えると
「だから言っただろ? 俺が今やるべき事はお前の事だと」
「いえ、言ってませんよ。お前をここから連れ出す。でした」
うん。確かにそう言ったけども……。
「黙り込んでどうしちゃったんですか?」
「何でもない」
全く……。まぁでも、自然に笑えているからいい、か。
少女に背を向け座り、そんなことを考えていると、少女は俺の顔を覗き込み
「怒りました?」
と少し申し訳なさそうに、でも笑顔で言った。
俺はそんな少女の顔を見て「いいや」とだけ返し、立ち上がった。
「良かったです」
俺はそう言う彼女の方に向かい言った。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな」
「ふふ、そう言えばそうですね」
「俺はウィルだ」
「私はテナです」
「テナか。よろしく」
「こちらこそよろしくです。ウィルさん」
自己紹介なんてもう何年もやっていなかったな。
最後にやったのは多分……いややめよう。昔の事を思い出すのは。
「どうかしましたか?」
「あぁいや、何でもない」
また、気を遣わせてしまったかもな……。
「そうですか? じゃあ、言ってもいいですか?」
「何をだ?」
そう返すと、少し不服そうに口をとがらせ、テナは言った。
「私がどうしたいかですよ~」
あ、そう言えば聞いたな。なんか色々な事が頭を巡ってスっとどこかに消えていたな。
「そうだったな。うん。で、どうしたいんだ?」
そう苦しまぎれの返事をするとテナは「はい」と一言。
それから大きく息をすって、はいてから静かに言った。
「私もウィルさんと一緒に行かせてください」
「あぁ。元からそのつもりだ」
「あ、ありがとうございます。いいんですか? そんな簡単にさっき会ったばかりの人を……」
「そうだな、俺たちはさっき会ったばかりだ。でもな、その時の出逢いかた次第でその人との対応は決まるもんだ。それからも大切だが、段々変えていけばいい」
テナはいまいちよく分かってない様子で首を傾げながら
「そう言うもんですかね?」
と聞いてくる。
「俺はそう思ってる。必ずしもそうとは限らないから、テナ。お前は自分の納得できる答えを探せばいい」
「はい。そうします」
即答……それだけ早いとちょっと傷つくな~。まぁ俺の考えを押し付けたってしょうがないしな。
「じゃあ取り敢えずこの無限燃石を届けちゃわないとな」
ポーチからそれを取り出しそう言うと
「あ、そう言えばそうでしたね」
とテナは思い出したように言ってきた。
「テナ。お前、俺のやるべき事……とか言ってた時はその事ばっか言ってきてたのにもう忘れてたのか?」
先程やられたようにオウム返しするとテナは、恥ずかしくなったのかそっぽを向き
「そ、それは……必死だったんです!」
と言いながら駆け出して行った。
しかしその方向は行き先と真逆だったので
「お~い、そっちじゃないぞ~!」
と声を掛けてやるとさっきより赤くなって戻って来た。
なんだか年の近い妹が出来たみたいだな。
テナの顔を見てそんなことを思いながら、俺はテナとゆっくりと歩き出した。