出会い
「さわっちゃダメッ!」
その声を聞き、慌てて無限燃石に近づけた手を引いた。
声のした方を見ると銀髪の少女が座っていた。体は俺より少し小さい位だ。歳はそれほど離れていないのだろう。服は茶色いぼろ布で出来たものを、申し訳程度に羽織っているだけだ。
そして頭部には黒い角が左右に一本づつ生えている。
まさか炎龍かっ?!
急いでその場から1メートル程後ろに跳び下がり、背負っている剣を抜き構える。
暫くの間体制を崩さずに少女に剣を向けていると、少女は怯えた声色で言った
「あ、あなたもっ!私を追い払いにきたんですか!?」
追い払う? 何を言いたいのは分からないが攻撃される心配は、なさそうだな。
「そんなつもりはない」
剣を鞘に納めながらそう言うと少女は「ふぅ」と一息つき、少し落ち着いた様子で
「そう……でしたか。ごめんなさい」
と申し訳なさそうに言った。
「こっちこそ勝手に持っていこうとして悪かったな」
若干申し訳なさの混じった声で言うと少女は小声で「……がぅ」と何か呟いた。
「なんだって?」
聞き返すと何か吹っ切れた様子で「ちがうのっ!」と叫ばれた。
「なにが?」
再び聞くと少女はまだ少し震えた声で答えた。
「あ、あの石は私のじゃ、ない」
「ならなんで触っちゃだめなんて言ったんだ?」
「そのままさわれば、手、が焼けこげてしまうので……」
「そうなのか。ありがとう。教えてくれて」
そうお礼を言うと少女は、はにかんだ笑顔で言った。
「あ、いえ。どういたしまして?」
「なんでちょっとはてな混じりなんだよ」
「あの、その、もう長い間人と話していなくって……」
そう言った少女の表情はまた元のくらさのある顔に戻った。
「お前、炎龍なのか?」
「あ、はい。多分、きっと、おそらく、そうだと思います。炎龍の能力という能力は一つも持っていないんですけどね。はははは……」
少女はそう言い乾いた笑いを浮かべた。
「そうなのか。龍でも色々大変なことがあるんだな。もっと悩みなく生きているんだと思ってた」
「あはは。他の炎龍族の人たちはみんなそんな感じですよ……。私だけです。こんな悩みを抱えているのは」
「そうなのか? ならお前は何なんだ?」
「分かりません。私自身にも。恐らく他の人たちも……」
そんな暗い顔するなよ……。
「だからこんなところにいるのか?」
「まぁそんなところです。ありがとうございます。私なんかとこんなにおしゃべりしてもらってしまって……。私の事はいいですから行ってください。あなたはあなたのやるべきことをやってください」
だから、そんな顔をするなって……。お願いだからそんなに悲しそうな顔で見送らないでくれよ。助けて、連れ出してほしいなら言ってくれ。見ていられなくなるから……。
「そうだよな。俺は俺のやるべき事を……」
俺のやるべき事。もう、間違いたくない。
「そうです。あなたのやるべきことはこの石をもって行く事なんですよね。だから……」
少女の声を遮り「違うな」と一言言うと
「何がですか?」と少女は聞く。
「俺のいまやるべき事は、その石をもって帰ることなんかじゃない。お前をここから連れ出すことだ」
そう答えると少女は目を潤ませながら言った。
「何をいって……いるんですか?」
「お前をここから連れ出すと、そう言っているんだ」
再びその言葉を口に出すと、少女はその場で泣き出した。
色々な言葉を投げかけたが手が付けられなかったので、無限燃石を専用の箱に入れ、少女を背負い、洞窟を出た。