ハイライト伯爵家の事情
山なしオチなしでよいよー!という心の広い方はお進み下さいませ。
人間誰しも容姿が優れた者に、憧れや嫉妬を覚えたことはあるだろう。
美しい殿方につい見惚れたり、逆に視線を集める麗しい淑女に「いいなぁ。もう人生勝ち組やん」と羨望の眼差しを向けたり。
人の第一印象はほぼ容姿で決まる、という言葉も聞くくらい、人の見かけとは大切なものである。
だが、私リナリア·ハイライトは思う。
美人、佳人、可憐といった容姿の優れた人は、それによって得をするよりも、損する事の方が格段に多い、と。
ちっとも残念ではないが、私の容姿は良く見積もって中の上である。
ならお前に何がわかる、と言いたいだろうが、むしろそちら側の人間ではないからこそ、その理がわかるのである。
確かに私は自他共に認める普通の人だが、私の姉ユーフィリア·ハイライトは違う。
彼女は誰もが認める美少女だ。
太陽の光を溶かしたような美しい金の髪。
パッチリとした大きな瞳は、吸い込まれそうな程澄んだ、極上のアメジスト。
チークなんぞ使わなくても淡く色づく桃色の頬に、透けるような白い肌。
愛らしい唇から溢れる、鈴の音のような可憐な声。
華奢な身体なのに出るところはしっかり出ている抜群のプロポーション。
もう全てが完璧すぎて、嫉妬とか欠片も湧かなかった。
そんな人生勝ち組の姉だが、彼女は幼い頃からそれはもう様々な事に巻き込まれてきた。
変態ロリコンオヤジに誘拐されそうになったり、ストーカーにつけられるのは日常茶飯事。
気色の悪い贈り主不明のプレゼントも、もう何度焼却処分したか正確な数は覚えていない。
百を超えた辺りでもうバカバカしくなって数えるのをやめた。
家に届く手紙だって、ほとんどが姉へのラブレターや求婚の打診、たまに姉を妬む者からの嫌がらせの手紙で、それはもう毎日のように届くもんだから嫌気がさして、王宮からの手紙以外は拒否するまでになった。
そんなもんだから私や姉は、花も恥じらうお年頃なのにもかかわらず、婚約者がいない。
お父様は「一生娘たちを養っていく!!」と言いはっているらしいが、お母様から黙殺されていると、メイドのアンが言っていた。
今だから思うが、私はいいとして、姉は幼い時にさっさと婚約者を決めておいた方が良かったんじゃないだろうか。
未だフリーだからこそ、学園内でのモーションが激しいのではないかと、正直思う。
困った事に姉は現在、主に3人の男性から熱烈なアプローチを受けている。
我が国の第3王子フリード様、彼の従兄弟であるエリオット侯爵令息様、王国騎士団長令息のイズルド様。
皆様、将来有望、眉目秀麗、お金持ちと結婚3大条件を完璧にクリアしている淑女垂涎ものの結婚相手だ。
しかし、想い人のいる姉からしてみたら、自分より身分の高い者からのアプローチなんぞ、迷惑以外の何ものでもない。
しかも、3人とも婚約者がいるもんだから、当然彼女たちから睨まれる。
せめて婚約解消するなりなんなりしてからアプローチしろよと思うが、そんな事しがない伯爵令嬢から言えるはずもなく。
「そもそもさぁ、ユアン兄様がいつまでもウダウダして行動起こさないから、こうなってると思うんだよねぇ」
ボヤキながら紙パックのいちごみるくをズズーっと音を立てて飲むと、隣りにいた親友のイリアが眉を顰めた。
「あんた、他所では絶対にそんなことしないでよ。姉で唯でさえ求婚者いないのに、壊滅的よそれ」
「私がそんなヘマするわけないでしょ。どう見ても両想いなのに、変に二人共オクテだから進展しないわ横ヤリが入るわで拗れすぎでしょ、もう。どーしたもんかね、ホントに」
姉がさっさと結婚ないし婚約してくれないと家がマジで落ち着かない上に私の婚約者が出来ない。
高等部を卒業する前には婚約まで持ち込まないと、瑕疵がないのに行き遅れの問題児レッテルが貼られてしまう。
「まぁ、でもここで俺らがやきもきしても仕方ない。当人同士でなんとかしない限りはどうしようもないだろ」
暢気に至極真っ当な事を言うクラスメイトのレイルをチラッと見る。
その瞬間、唐突に閃いた。
「そうだ!いつも一緒にバカやってるから忘れてたけど、アンタ公爵家だった!ちょっと協力して!」
「は?っていうか、アンタって...。侮辱罪で引っ立てるぞコラ」
二人でギャイギャイ騒いでるのを冷めた目で見つめ、ここも大概よねぇとボヤいたイリアの言葉は、誰に聞かれることもなく宙に消えた。
反響良ければ続く......かも?