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中央からの使者

「働かなくていいってのは最高だぜえ」

 とんでもない発言をしながら、早朝からギルドの食堂で酒と煙草をのんでいるマガリである。


 皇国に異常事態を報告して一週間が経った。

 そろそろ皇国から何か動きがあってもおかしくないころである。


 メアリーがマガリに「そろそろあれをやる頃合いかしら」と顎に指をあてて考えていた時、ギルドハウスに小柄な濃い褐色の肌の女性が入ってきた。

 見た目は10代前半のように見えるが、メアリーにはどうしてもそのように思えなかった。


「あら面白いものがあるのね」

 糸目の彼女が薄く笑いながらマガリを見た。


 嫌な予感がする。


 メアリーが女に声を掛けようとした瞬間、濃厚な魔の気配が女から漂いでた。

 一度でも”魔じわりに森”に入ったことのある者なら感じたことのある気配。

 しかし、濃さの桁が違う。

 メアリーの奥歯が合わずガチガチ音を立てている。

 偶々いた冒険者の男は腰を抜かして床に座り込んでいた。

 

「うがわあああああ」

 マガリの右手が変なしなり方をしながらハルバートを女に振るう。


「あら」と言いながら人差し指と中指でハルバートの重心を正確に挟み回した。

 

 ハルバートはマガリの腕から離れ、奇麗な円を描きながら天井に突き刺さった。

「ああああああ」

 マガリが尻もちをついて後ろに下がる。


「ふふ」女がマガリに一歩前に足を出すと、マガリが両ひざを床にそろえて座り両手を目に当ててスンスン泣きだした。


「いじめるの。…………をいじめるの」……の声が小さくて聞き取れない。


「なにをやっているんですかっ!!!」

 メアリーがマガリを女から隠すように抱きしめた。

「ねっ。大丈夫だから。ねっ」

 抱きしめて背中を撫で”状態異常治癒の術式”を掛けた。

 メアリーが女を凄い目で睨みつけた。


 女が、その物怖じしない目を見たとき「貴女がナタリーの妹ね」と小さくつぶやいた。


「何事だっ」

 ドワーフの職員ウルベが奥から飛び出してきた。

「狂……。ハヤミか」

 女を見ていった。


「お久しぶり」ハヤノテ・ハヤミは薄く笑って言った。

 

取り合えず”状態異常治癒の術式”は出しておこう?

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