オベリスク
アマリリスは怒っていた。
日頃、あまり使うことのない”ハナゾノ帝国第一皇女”の立場と権力をフルに使うくらいには。
最初にしたことは”竜の教会”を説き伏せ、”帝国庁”を巻き込むことだった。
神話に出てくる都市に”竜の神子と始まりの聖女”がとらわれている、と言うとすぐに協力してくれた。
国家プロジェクトとして ”竜の神子と始まりの聖女”を開放することが決まる。
魔術学院を主体として、3カ月という驚異的なスピードで全体の目途をつけた。
マガリも含めた、魔術学院の学生も総手で手伝わされた。
ほぼ魔術学院で生活し、この3カ月で3日以上の徹夜をしていないものは誰も居なくなった。
この時の学生が、魔術に関する研究の最先端を走る人材となるのは先の話である。
タンデライオン皇女の協力により、ミスリル製のオベリスクが8本用意された。
”魔力を消費するために、消費する魔力以上の魔力を必要とする魔術陣”
という世界に浸食して歪める力のある”魔力”にしかできない、矛盾した魔術陣が開発された。
”アマリリス式・階層型魔術陣”の誕生である。
オベリスクに以上の魔術陣を掛け、都市に配置するためにテンドロディウムに乗せられた。
◆
魔王都”ガウラ”になるべく均等になるように、オベリスクを置く。
1週間くらいで、魔力の黒い瘴気は薄れ、晴れた日は青空が見えるようになった。
”マールムート”の前に、エノテラと、前回来ていた5人がいる。
「これで、都市は大丈夫だ」
アマリリスは、エノテラを見る。
「・・・わかりました。マールムート様を開放します」
複雑な呪文を唱え始める。
2重の魔術陣の回転が、徐々にゆっくりとなり止まった後、静かに消えていった。
浮いていたマールムートが地面に足を下ろした。
静かに目を開ける。
「・・・マールムート様。」
素早く影に身を隠したエノテラだが、諦めて明かりの下に出てくる。
蜘蛛の体を縮めて、ひざまづいた。
エノテラにはマールムートの視線がひどく冷たく感じられた。
「・・・ごめんなさい。千年もの間、閉じ込めて・・・ごめんなさい」
自分の蜘蛛の体を思い、
「殺してくださいっ。・・・私はもう・・・」
「半分以上魔獣なんです・・・」
消え入るような声で言った。
周りの5人がエノテラを守ろうと身構える。
マールムートは、ゆっくりとエノテラの頬に手を当てた。
「エノテラ。君は勘違いしているよ」
とても優しい声だった。
「この千年間、君の気配を感じないときはなかった」
「僕は、神の血を引く竜だ。千年なんてほんの短い時間だよ」
「でも、人の身である君は違う」
「エノテラ」
マールムートは、エノテラの頬を両手で包んで口づけをした。
「っつ!?」
エノテラの黒い蜘蛛の”魔”の体が真っ白く変わる。
人の目と蜘蛛の目に光が戻った。
「君は、魔獣じゃない。今は僕の”眷属”だ」
「君は、”エンシェントドラゴン”だよ」
「僕の”竜の神気”を千年も浴びたんだ」
「”魔”に侵されると同時に、それ以上に”神気”を取り込んでる」
「”魔”は嫌な気持ちに反応するから。君は蜘蛛が嫌いだったからね」
蜘蛛の体を見て言う。
動揺が収まらないエノテラ(ひとの部分)を、優しく抱きしめ、とんとんと背中を叩く。
マールムートは、泣き始めたエノテラが泣き止むまで抱きしめ続けた。




