殉教者
全員、神殿の地下に降りた。
意外と天井が高い。
地下室の中央には、淡く輝いた丸い板の上に、目をつぶった10歳くらいの男の子が立ったまま、浮いている。
「竜の神子”マールムート”様です」
「千年の間、この地の侵食を留めておいでです」
「これを見てください」
何か小さくつぶやくと、丸い板の上に2重の魔術陣が浮かび上がり、ゆっくりと反対に回り始めた。
「むう。詳しく調べても?」
「お願いします」
アマリリスが、懐から出した小さなメモ帳に、”速記の術式”で、魔術陣を写していく。
10分ほどで写し終えた。
「・・・良くできてる」
「今までは、術式陣を横に広げるか、術式文字を複雑化しようとしてたけど」
「2層に分けて1つの術式陣に仕上げてる」
「それを可能にしているのが、シャリーの体のと同じ”魔文字”だよ」
所々に黒い文字がある。
「私はね。知識や技術は周りの者を”幸せにする”ためにあると思ってる」
「この陣はないよ」
「確かに最低限の犠牲で最大の効果を出してる」
「でも犠牲にしてるのは、あんたとこの神子の”時間”だ」
エノテラは、黙って聞いている。
「しかも、毎日起動させないといけないだろう?」
「あんたどんな・・・(気持ちで千年の間毎日、自分の主を”生贄”に捧げてきたんだい)」
エノテラは、続く言葉を理解したのか、蜘蛛の牙をギチリと鳴らした。
「ひでえ話だ」
マガリがぼそりとつぶやいた。
「胸糞悪い。あんたと神子を意地でも開放するよ」
エノテラが黙って頷いた。
エノテラをじっと見ていたマガリが、すっと背を伸ばした。
レイリアが表に出てくる。
「貴女、開放された後、自死するつもりですね」
「・・・ほんと胸糞悪いねえ。ここにいる全員で全力で止めるよ」
皆がうなずいた
「・・・私は半分以上、魔獣です」
「マールムート様に死を賜るつもりです」
跪いて祈りを捧げる姿は、殉教者のそれであった。




