第90話 暗黒騎士団幹部、ゲルベルク
アラン達が修行をしていた頃…。
ゲンゾウは人気の少なくなった城下町の東側の廃墟群近くを東刀を携え、ひょうたんに入った酒を口に運びながら歩いていた。
「まったく、この辺は本当に寂れておるな…。城下町とは思えん様相だ…」
そんな一人言をこぼしながらゲンゾウはどんどんと歩を進めていく。そんなゲンゾウの後を、二つの人影が素早い動きで追っていた。
「………」
ゲンゾウはチラッと辺りを見渡すと、足を止める。
そして、ひょうたんに入っていた酒を飲み干しそのまま空のひょうたんを投げ捨てた。
「さて…ここまできたもののどこに行くか…とりあえずこのまま大通り沿いに進んでみるか…」
ゲンゾウがそう呟いた瞬間だった。
再び、ゲンゾウの背後で何者かの影が素早く動く。
「………」
ゲンゾウはニヤッと笑みを浮かべると、腰につけた刀に手をあてる。その瞬間、あたりに一瞬だけ波動の様に激しい空気が漂った。
(数は二人…10メートル以内にはいるな。さて、いつ来るか…)
ゲンゾウは刀に手を当てたまま目を閉じる。
それから数秒が経った時だった。
建物の影から二つの人影が飛び出してくる。
その二人は素早い動きでゲンゾウの元へ近づくと、手に持っていた剣を振り上げた。
「東人め…ここで死ね…!!」
飛び出してきたのは男二人だった。
男達は素早くゲンゾウの半径5メートル程へと近づいていく。その時だった。
ゲンゾウは当てていた手で刀をギュッと握りしめる。
そして親指で鞘から刀身を10センチほど抜いた。
「これは…!?」
それと同時に、ゲンゾウの周囲半径5メートル程の足下に白い円が現れる。
円はゲンゾウを中心に男たちを包み込んだ。
「…斬り捨て御免」
ゲンゾウは素早く振り返ると、目に見えないほどの速度で刀を抜き出す。
そして、ゲンゾウが刀を鞘へ戻すと男たちの首は身体から切り離され、身体はその場へ倒れ込んだ。
「………」
ゲンゾウはふぅ、と息を吐くと男たちの亡骸へと近づく。
「勢い余って首を斬ってしまった、聞きたいことがあったのだが…。やはり酒が入ると手元が狂う…程々にせんとな」
ゲンゾウは男たちのそばでしゃがむと、亡骸の服を捲り上げ首元を見た。
「この"剣に蛇の巻き付いた刺青"…間違いない、こやつらは暗黒騎士団だな…まさか本当にいるとは驚いたわい…」
ゲンゾウはやれやれと頭を掻きむしる。
「さて…とりあえず進んでみるかな」
ゲンゾウはそのまま大通りを進み始めた。
ーーーーーーーー
それから歩き続けるが、辺りは不気味な程静かで、ゲンゾウの足音だけが響き渡っていた。
(変に静かだ…だが、至る所から視線は感じる。こやつら何が目的だ…?)
ゲンゾウは頭の中で思考を巡らせながらひたすら通りを歩いていく。そんな時だった。
「お前かぁ?侵入者ってのは」
少し先の建物の屋根から男の声が聞こえてくる。
「ん?」
ゲンゾウは声のする方へ顔を向ける。
するとそこには、黒いタンクトップを身にまとったボサボサとした長い白髪の男が立っていた。
男は筋骨隆々とした鍛えられた体つきで、耳や鼻には銀色のリングがいくつもつけられている。
そして頬には剣に蛇の巻きついた刺青が入っていた。
「一人で来たっつーからどんな野郎かと思ったが…ヒョロヒョロのおっさんじゃねぇか。つまんなそうだぜ…」
男はふぅ、とため息をつくと屋根から飛び降りゲンゾウの前に立つ。
「その頬の刺青…お主も暗黒騎士団の者か?」
「へっ、よく知ってるじゃねぇか…俺は暗黒騎士団の"幹部"ゲルベルクだ。覚えとけよ。…ま、覚えたところでどうせすぐ死んじまうだろうがなぁ」
「お主がこの辺りを仕切っているのか?」
「あぁ、そうだ。おい、テメェら!!!」
ゲルベルクが声を上げると、周囲の建物から複数の人間が飛び出してきた。飛び出してきた十数人ほどの男女は素早くゲンゾウの周りを取り囲み武器を構える。
「…ここの連中はなかなか統率が取れているようだな」
「あたりめぇよ、この俺様が教育してるからなぁ!さぁ、挨拶代わりだ…テメェら遊んでやりな!!!」
ゲルベルクの叫び声と同時に、数人の男女がゲンゾウの方へと飛び出していく。
「ふん、やる気だな…ならばこちらも手加減はせんぞ」
今までニコニコとしていたゲンゾウの顔が一瞬にして引き締まる。
そしてゲンゾウが刀に手を当て引き抜いた次の瞬間、向かってきていた男女の体がバッサリと切り裂かれた。
「ぐはぁ…!!」
「いつの…まに…!?」
数人の男女は血にまみれその場に倒れ込む。
それを見ていた周りの人間は若干の動揺を浮かべていた。
(ほぉ、なんつー太刀筋…!俺の目でも一瞬しか見えなかったぜ…!ただのおっさんと侮っていたがありゃなかなかの強敵かもしらねぇなぁ…!!)
それを見ていたゲルベルクはニヤリと笑みを浮かべると、ゲンゾウの前に立った。
「こりゃテメェらじゃ相手にならねぇな。…おい!レルード、メリーナ!!出てこい!!…テメェらは邪魔だ、下がってろ」
「は、はい」
ゲルベルクにそう言われ、周りに立っていた数人は後ろへ下がる。
次の瞬間、建物の屋根から若い男女が二人ダンゾウの前に飛び降りてきた。
「やぁやぁ…東人なんて久しぶりに見たよ。楽しめそうだね、メリーナ♡」
ニコリと微笑み隣の女性に話しかけたのはやや長くサラサラとした黒い髪を後ろで結んだ若い糸目の男だった。男の右頬には黒い三日月模様、左には暗黒騎士団の刺青が入れられている。
「は?キモい、話しかけんな。殺すわよ」
そう鬱陶しそうな顔で答えたのは、金髪のツインテールで左頬に暗黒騎士団の刺青、右の首元に太陽の模様が入れられている目つきの悪い若い女だった。
「ほぉ、こりゃまた骨がありそうな奴がきたな…」
ゲンゾウは顎に蓄えた髭を触りながらニヤリと微笑む。
「こりゃ奴らの修行にちょうど良さそうだ。おーい!そろそろ出てきてよいぞ!!」
ゲンゾウは口元に手を当てそう声を上げる。
「なんだぁ?テメェにも手下がいんのか?おもしれぇ」
「手下というか弟子だがの。ほら、早くせんか!!」
ゲンゾウがそう声を上げた瞬間、ゲンゾウの背後から人影が二つ飛び出してくる。
「全く…呼んでおいて一人でどんどん先行っちまうんだから…」
「やっと私たちの出番ですね!?師匠!!」
ゲンゾウの前に現れたのは、紺色の剣道着を着た黒いポニーテールの若い少年と、同じく紺色の剣道着を着た茶髪のショートヘアーの若い少女だった。
「やっと来たか、トラ丸にカエデよ。こやつらはお前らの実戦相手にちょうどよい、日々の特訓の成果を出す時だ、期待しているぞ!」
「はい、師匠!」
「お任せください!」
そう言うと、二人は腰につけた東刀を抜き取る。
「えー、また東人だぁ!こんなに東人が見れるなんて、今日はいい事あるかもね!メリーナ♡」
「話しかけんなっつーの、油断してると死ぬよ。東人はサイの民と並んで"最強の民族"なんて呼ばれてたりすんだからさ!」
「あれぇ?俺の心配してくれてるの?やっぱり優しいなぁメリーナは♡」
「はぁ?ちげーし、死んだらゲルベルクさんに迷惑かかんだろーが」
「おい、テメェら、くだらねぇ言い合いは後にしろ!!テメェらはそっちのガキ共を殺れ、俺はあのおっさんだ」
「はーい!ゲルベルクさん!!…ったく、テメーのせいでゲルベルクさんに怒られただろーが!!」
「ごめんよメリーナ♡怒った顔もかわいいなぁ♡」
(な、なんだこいつら…)
(気持ち悪…)
そんなレルードとメリーナのやりとりを、トラ丸とカエデは気味悪そうに見つめていた。
「さて…お主には聞きたい事がある。生捕りにしてたっぷり話を聞かせてもらうぞ」
「生捕りだぁ?随分と舐められたもんだなぁ。こっちもテメェには聞きてぇ事がある…後でたっぷり聞かせてもらうぜ…!!」
二人は鋭い眼光で睨み合った。
続く。




