第89話 天魔流の目的
「もう終わりか?」
薄暗いバーの中、天魔流のデオラとウェルパスの足下には十人ほどの男たちが倒れ込んでいた。
「く、くそ…死ねぇ!!」
その中の一人は立ち上がると、剣を持ちデオラの方へと斬り掛かる。
「ふん、まだ動ける奴がいたか」
デオラは軽々と男の振り翳した剣を避けると、振り返った男の腹に力強い蹴りを放った。
「ぐはぁ…!!!」
蹴りを受けた男はバーの壊れた扉から外へと飛び出し、向かい側の建物の壁にぶつかった。
(人が飛び出してきた…!?)
少し離れた屋根の上から様子を伺っていたヘナは驚いた顔を浮かべる。
「クラネさん、中で一体何が…!?」
(…これは…酷いわね…それにこの圧倒的な力…天魔流…思っていたよりもさらに危険…!!)
クラネは召喚獣のハエを通して見たバー内の光景に呆気に取られ考え込んでいる。
ヘナは不思議に思い、クラネの肩をトントン、と叩いた。
「クラネさん、大丈夫…ですか?」
それに反応したクラネはハッと気を取り戻し、ヘナの方を見る。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…どうやら天魔流の連中は暗黒騎士団の団長、ゼイルを探しているみたい。それで暗黒騎士団の溜まり場になっているであろうあのバーに乗り込んだようね…」
「中は一体…?」
「中は…酷い状態ね…口にするのも恐ろしい…」
その言葉を聞き、ヘナは冷や汗を流しながらごくりと唾を飲む。
「とりあえずもう少し様子を見て見ましょう、ヘナちゃん、見つからないようできるだけ身を屈めて隠れていてね…」
「は、はい…!」
ヘナは腹這いになり身を隠す。
(もう少し様子見を…何か重要な情報が掴めるかもしれない…!)
クラネは再び右目を閉じた。
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「さぁ、最後にもう一度聞くぞ…暗黒騎士団団長、ゼイルはどこにいる」
デオラは外に座り込む男の首をグッと掴むと、そのまま体を持ち上げた。
「かっ…!は、離せ…!!」
男は呼吸ができず、バタバタと暴れ始める。
「言えば離してやる。…それとも、このまま中の奴らと同じ所へ送ってやろうか?」
デオラの手に力が入っていく。
男がもうダメだ、そう思った瞬間だった。
「おい、デオラ!…どうやら向こうから現れてくれたようだぜ」
バーの中からウェルパスの声が聞こえてくる。
デオラは男の首から手を離すと、フン、と鼻を鳴らした。
「よかったな…お前は無駄死にせずに済みそうだぞ」
デオラはゆっくりとバーの中へと戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ…天魔流…なんて…恐ろしい連中だ…」
男はそう呟くと、そのまま気を失った。
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「…お前がゼイルか?」
デオラとウェルパスの前に立つ、黒く長い髪の男はニヤリと笑みを浮かべる。男は身に纏っているローブのフードをゆっくりと外すと口を開いた。
「あぁ、いかにも…。俺が暗黒騎士団の団長、ゼイルだ」
まるで獲物を睨む蛇の様に鋭い目つきのその男はデオラとウェルパスそれぞれの顔を見ると、再び口を開いた。
「あんた達は天魔流のデオラとウェルパスだな?…会えて光栄だ。…一応、目的を聞いておこうか」
「ふん、素性は知られてる訳か。…つーことは、目的もまぁ分かってるだろうが…匿名の依頼でな、お前を…殺しにきた」
ウェルパスの言葉を聞き、ゼイルはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「まぁ…天魔流が来る理由などそれしかないか。ちょうどいい機会だ、噂を聞いてから俺もあんた達とは一度殺りあってみたかった」
そう言うと、ゼイルは腰につけた剣に手を当てる。
「お互い様だな…俺たちもあんたと殺り合うの楽しみにしてたぜ。…どうする?このまま始めるかい?」
ウェルパスの問いに、ゼイルは少し考え込む。
「…すぐに始めたい所だがここで騒いでは勇者団の邪魔が入るかもしれない。奴ら、何か企んでいる様子もあるしな。どこか人気のない所でじっくりと戦わないか?」
ゼイルからの提案を受け、デオラ達は少し考え込む。
「確かに奴の言うとおりだな…勇者団の邪魔が入れば仕事どころではなくなる可能性もある…。人気のない所を探すぞ」
「っと、それならとっておきの所があるぜ」
「とっておきの所だと?」
「あぁ、"シャドウ"さ。奴の能力空間なら誰にも邪魔されないだろ?きっと」
「なるほどな…おい、ゼイル。人気のない場所なら俺たちの仲間の能力で作り出すことができる。どうだ?そこで殺り合うというのは」
「お前たちの仲間か…何かのトラップの可能性もある様に思うが?」
「ふん、そんなずりー真似はしねぇよ。もし万が一にでも俺らが殺られらた出られる様に手配してやる」
「…まぁいい、その能力にも興味がある。行ってやろう」
「それじゃあ僕も行くよ…」
突如声を上げ歩いてきたのは、ゼイルと同じローブを見にまとった小柄な男だった。
「…そいつは?」
「こいつはジャック…俺の側近のようなものだ。ちょうど二体二だ、こいつも連れて行っていいか?」
「…俺たちの目的はお前だけだ、お前だけで…」
デオラがそう言いかけた瞬間、ウェルパスが遮る様に声を上げた。
「いいじゃねぇか、デオラ。奴もなかなか強そうだ、俺が殺り合うからよ、連れてきてくれ」
「チッ…遊びじゃないんだぞ、分かってるのかウェルパス」
「あぁ、分かってるって。奴は側近だろ?なら殺しといて損は無いはずだ。依頼者にとっても、俺達にとってもな」
「…勝手にしろ。その代わり俺がゼイルとやるぞ」
「あぁ、正直デオラの方が戦えそうだしな。任せたぜ。…っと、そんじゃあ今から仲間を呼ぶ。ちょっと待ちな」
ウェルパスは通話の印を呼び出した。
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(天魔流の目的…それは暗黒騎士団の団長、"ゼイルを殺すこと"だったのね…!!それに、あれがゼイル…まさかこの街に暗黒騎士団の団長がいるなんて…!!)
クラネは混乱する頭をなんとか整理し、右目を開ける。
「ヘナちゃん、状況は余ったよりもややこしそうよ。説明するからしっかり聞いて…」
「え?は、はい!」
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「今から…?いいよ…今ゼロはドクロスを迎えに行ってていないし…すぐ行くね…」
シャドウは通話の印を消すと、ゆっくりと影の中へ沈んでいった。
続く




