第87話 修行中断
「やーごめんごめん、部下から連絡が来て遅くなっちゃったよ…はい、水」
「あ、ありがとうございます!」
「助かるぜ、ちょうど喉乾いてたからよ」
「ありがとうございます、レオンさん」
レオンはリサ達にそれぞれ水筒を渡すと、アランの横にしゃがみ込む。
「アラン君にはこれを…」
レオンは水で濡らした布をアランのおでこに乗せ、再び立ち上がった。
「さて…皆悪いんだけど、ちょっとばかし用事が出来ちゃってね…今日の修行はここまでにしよう。アラン君もあんな状態だし…。とりあえずここで休んであとは自由に過ごしていてくれ。作戦やその他何かあったらすぐ連絡するから。それじゃあ、アラン君はくれぐれも安静にね」
そう言うと、レオンは駆け足で道場の扉へ向かっていく。
「そうだ、最後にもう一つ…。城下街の東地区…ここからさらに東に行ったところに廃墟群があるんだけど、そこにはならず者が住み着いたりしてるからなるべく近寄らないようにね!それじゃ!」
そう言いニコッと微笑むと、レオンは道場から出て行った。
「行っちゃった…」
「…なんか急いでる感じだったね」
「ありゃ何かあったに違いないな…作戦に関わる事じゃなきゃいいんだが…」
「そうだね…僕らも自由行動する時は天魔流達には十分注意するようにしないと」
「だな…何かあって作戦に支障をきたすとまずいしな」
「それにしても…アランのさっきの力、すごかったな…」
「あぁ、あまりの迫力で流石にちょっとびびっちまったぜ…すげぇ力だな、神獣ってのは」
そう言い、ジェリドはアランの方へ目をやる。
その時、ゆっくりとアランの目が開くの見えた。
「お、アランの目が覚めたみたいだぜ」
「アラン!大丈夫!?」
「アラン、良かった…」
リサとベルはアランに駆け寄ると、手で背中を支えゆっくりとアランの体を起こす。
「んー…一体俺は何を…」
アランは頭に手を当て、先ほど何があったのかを必死に思い出そうとする。
「アラン、あなたジェリドとの組み手中に気を失って…紋章の力が暴走しちゃったの。前、バーガーと戦った時にもあったでしょ?あの時と同じ…」
「バーガーの時…確かあの時も突然気を失って…。そうか、あれは紋章の力が暴走して意識が…あ、ジェリドは大丈夫か!?俺、気を失ってる時に何かしなかった!?」
「俺は別に大丈夫だよ。それより、俺こそすまなかった。ついつい熱くなって本気でやっちまった…」
「そっか、それなら良かった…。いや、いいんだ。せっかくの組み手、本気でやらなきゃ意味ないし…」
「あ、そうだ、レオンさん、用事が入っちゃったらしくて今日の修行はここまでみたいよ。あとは自由にしてろって」
「用事?そっか、それは残念だな…。って事は午後は暇か…せっかくだし予定を変えて今から街を見てみるか!」
「体は大丈夫なの?」
「あぁ、全然平気!…そうだ、ジェリド達一緒に街を見て回らないか?作戦前に街の中を把握しておくためにさ!」
アランからの誘いを受け、ジェリド達は顔を見合わせる。
「…確かに作戦前に街の様子を見ておく事は大事だね。僕はいいと思うけど、二人は?」
「俺もいいぜ!どうせやる事ないしよ」
「もちろん俺もだ。こんな栄えた街に来たのは久しぶりだからな、回ってみたいとは思ってたんだ」
「よーし!それじゃあ午後はみんなで街巡りだ!少し休んだら出発するぞ!!」
アランはニコッと笑顔を浮かべると拳を上に突き上げる。それを見て、リサとベルはやれやれと少し呆れた表情を浮かべた。
「全く、元気いいわね…」
「さっきまで意識失ってたとは思えないよ…ま、大丈夫そうで良かったけど」
こうして、アラン達は街巡りをする事になったのだった。
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「奴のいるバーは確かこのあたりのはずだ…」
「なぁデオラ、その情報は確かなのか?」
「暗黒騎士団の連中から聞き出した情報だからな…信用できるかは分からんが行ってみる価値はあるだろう」
「ま、そりゃそうだ」
天魔流のデオラとウェルパスは人通りの少ない路地を堂々と歩いて行く。
稀にすれ違う人々は二人を見ると怯えた顔を浮かべ、すぐその場から去って行く。
(あの天って書かれてるローブ…あれ、天魔流じゃないの…!?)
(まさか…天魔流があんな堂々と歩いてるわけないだろ…!!)
(一応勇者団に連絡しといた方がいいんじゃないか?)
(まぁ、それもそうだな…)
通行人のコソコソと話す声を聞き取り、ウェルパスはニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「聞いたか?勇者団に連絡するってよ」
「面白い、もし勇者団が来たとしたらそれはそれでまた一興だな」
そんな事を話しつつ、二人はどんどんと路地を歩いて行く。
「ここか…本当にここにいるのか…?」
「居てくれたらいいが…ま、開ければわかる事だ」
「だな。よっしゃ、行こうぜ…!」
デオラはコクリと頷くと、バーの扉を蹴り破る。
「な、なんだ!?」
「こ、こいつらは…!!」
中にいた十人程の男たちは勢いよく椅子から立ち上がると腰につけた剣や手斧を抜き取る。
「暗黒騎士団の団長、ゼイルに会いに来た。ここにいるか?」
「こいつらは天魔流…!ジャックさんの言ってた事は本当だったんだ!」
「くそ、怯むな!追い出せ!」
男たちは突然の事に戸惑いながらも武器を手に戦闘の姿勢を取る。
「ふん、身の程知らずな奴らだ…大人しくゼイルを連れてくれば痛い目を見なくて済むぞ」
「な、舐めるな!天魔流など俺たちだけでも…!!」
「ふんっ、こいつらやる気みたいだぜ。どうする?」
「やるというなら仕方ない。力づくでゼイルの居場所を吐かせるまでだ」
そう言うと、デオラとウェルパスは男達を睨みつけニヤリと微笑んだ。
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「見て、ヘナちゃん。奴らあそこのバーへ入って行くわ…!」
「あそこが奴らの目的の場所だったんですね…!」
クラネとヘナは建物の屋根に体を隠し、少し離れた場所からデオラとウェルパスの様子を伺っていた。
「どうします?なんとかして中を覗いてみますか?」
「うーん…とりあえず私たちはここで待機しましょう。でも、ここまで来たら覗くしかないわよね…!」
そう言うと、クラネは右の手のひらを上に向ける。
するとそこに白い紋章が現れた。
「これは…召喚の印…ですか?」
「えぇ、そう。偵察用の召喚獣を使って中を覗いてみましょう」
クラネの手のひらの印が白く光出す。
次の瞬間、クラネの手のひらの上には小指の第一関節程の小さなハエがブーン…と羽音をたてホバリングしていた。
「は、ハエ…ですか?」
「えぇ、そうよ。…こう見えてハエやゴキブリなんかの昆虫は偵察用の召喚獣としては非常に優秀なの。戦闘力は皆無だから戦いには使えないけど…。小さいし、どこにでもいる生き物だから敵のアジトやなんかに侵入させても気づかれにくいし、視線を共有させれば中の様子をハエを通して覗き見る事もできる」
「視線共有なんてできるんですか…?」
「えぇ、召喚獣を自分の意思通りに操るには召喚獣とのキズナを深めるのが一番大事。常に一緒にいたり、何度も召喚して場数をふんだりしていけば召喚獣とのキズナが深まり視線だけでなく体自体も共有する事ができる。…まぁ、私が今できるのは視線の共有だけで、体の共有とかは本当に極めた人じゃないと出来ないみたいだけど」
(ハエと視線共有するって、なんとも言えない感情になるな…。それにハエとキズナを深めるって一体なにしたんだろう…)
ヘナはそんな事が気になっていたが、作戦に関係ない事だ、とグッと飲み込みクラネの話に耳を傾けた。
「さぁ、行って来て!頼んだわよ!」
ハエはブーン…と飛び立つと、デオラとウェルパスが入っていったバーへと向かっていった。
(さて、奴らの狙いは何なのか…見させてもらうわよ…)
クラネはその場に伏せ、ゆっくりと右目を閉じた。
続く。




