第86話 接触
「…通話の印か」
道場の外で手押しの水道ポンプを動かし、水を汲んでいたレオンは動きを止める。そして、通話の印に手を触れた。
「はい、こちらレオン」
『あ、レオンさん。イリヤです、お忙しい所すいません」
「いや、今落ち着いた所だから平気だよ。それでどうした?何かあったか?」
『それが…中々大変な事になってきてまして…。さっきクリスから情報提供があったんですけど…』
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「ゼイルがこの街に…?それは確かなのか?」
『ええ、クリスの部下の能力でダンテから聞き出したそうなので間違いはないと思います』
「そうか…だとすると厄介だな…。チャンスだと喜びたい気持ちもあるけど今それどころじゃないし…。よし、とりあえずこっちでも色々調べてみるよ。天魔流の事もあるしあまり大袈裟に行動はできないだろうけど」
『私も手伝いますよ、ちょうど城下町にいますし』
「本当か?なら頼むよ。とりあえず城下町で何か情報が得られないか探ってみてくれ。何かあったらまた連絡頼むよ」
『了解です。作戦の邪魔にならないようくれぐれも気をつけます。それじゃあまた…』
「あぁ、また」
「…………」
(まさか天魔流だけじゃなく暗黒騎士団の団長、ゼイルまでこの街に来ているなんて…ったく、めんどくさい事になりそうだぞ、こりゃ…)
レオンはふぅ、と大きなため息をつく。
その時、再び通話の印が白く浮かび上がった。
「また連絡か。忙しいねぇ…」
そう呟きながら、レオンは再び通話の印に触れる。
「はい、こちらレオン」
『あ、レオンさん!二番隊のズールです!すいません、突然連絡してしまって…』
「いや、別にいいよ。それで、どうした?」
『実は…レオンさんの指示通り町を巡回し、午後二時にその報告会をするため二番隊の兵を集めたのですが…ポートンとレイクセンの二人が時間を過ぎても戻ってこないんです』
「ポートンとレイクセンが…?」
『えぇ、もう二時から三十分以上も過ぎてますし、彼らは時間をきっちりと守るタイプだったものですから心配で…』
「確かに彼らは集合に遅刻するタイプでは無いからな…通話の印は繋がらないのか?」
『それが…通話の印が一切繋がらなくて…全くどうなっているのか…』
「うん…そうなると彼らに何かあった可能性が高いな…。よし、とりあえず午後は町の巡回をしつつポートンとレイクセンの捜索をしてくれ。…二人は何かに巻き込まれている可能性が高い。十分気をつけて行動してくれよ」
『はい、同時に行動する人数を増やして警戒しながら捜索します。また連絡します』
「あぁ、俺も探してみるよ。それじゃあ」
「……………」
「…ゼイルの次は行方不明者か。面倒事ってのはなんでこうも立て続けに起こるのかねぇ…」
レオンははぁ…と大きなため息をつき水の入った水筒を抱えると道場の中へと戻った。
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薄暗い店の中、一人テーブルに腰掛けるレベッカの手の甲に通話の印が光り始める。
「通話の印…来たか」
レベッカは印に触れ口を開く。
「こちらレベッカ、どうした」
『こちらクラネ、ターゲットである天魔流の"デオラ"と"ウェルパス"を発見。これから追跡を開始します』
「了解、無理せず慎重にな。…何かあったら命を優先するんだぞ」
『えぇ、分かってます。これから何かあったら逐一報告します。とりあえず一度切りますね』
「あぁ、頼む」
「……………」
(遂に接触したか…このまま何も起こらず順調に作戦が進めばいいが)
レベッカはふぅ、と息を吐き手元にあった水を一気に飲み干した。
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「うーん…やはり物も命も全て、散りゆく瞬間が一番美しい。そう思わないかい?ドクロス」
左目を隠す肩程までの長さの白髪で、まるで骨のように痩せこけた男は幾度となく爆発し、崩壊してゆく町を崖の上から見下ろし笑みを浮かべる。
「………」
その横に立っている小柄で、顔に白いドクロのフェイスペイントをしているボサボサとした黒髪の男はその問いに首を傾げた。
「ふん、まぁ君とは相容れない価値観か…っと、通話の印が来てるね…出てみようか」
白髪の痩せこけた男は手の甲の通話の印に触れる。
「こちらボマード。どうかした?」
『ゼロだ。ボマード、今ドクロスと一緒か?』
「あぁ、ゼロ…今一緒に仕事中だけど…ドクロスに何か用かい?」
『少し能力を借りたくてな…仕事中だったか』
「あぁ、今"ロメリア王国"の町を襲撃してたところ」
『ロメリア王国…アリア王国から西に海を渡った先にある西大陸の大国だな。なぜそんなところへ?』
「今ロメリア王国は政治的に不安定でね…内部分裂が起きてるのさ。そこで、一度仕事で関わった事のあった王立軍の幹部から反逆者達の根城の町を破壊して欲しいって依頼が来たわけ。報酬凄く良くてね、助かってるよ」
『そうだったのか…"例の日"頃までには戻って来れるのか?』
「うん、ちょうど今終わった所だからもうすぐ戻るよ。…なんならドクロスだけ先に"空間転移の印"でそっちに返そうか?何か力が必要なんでしょ?」
『…悪いな、できればそうしてほしい』
「了解。ドクロス、いけるかい?」
そう問いかけられ、ドクロのフェイスペイントの男、ドクロスはコクリと頷いた。
「大丈夫みたいだよ」
『そうか、助かる。一度空間転移の印で"アジト"に戻ってくれ。すぐ迎えに行く』
「了解、それじゃあ」
「…………」
「…後処理は俺がやっておくから君は先にアジトに戻っていいよ。ゼロ達によろしくね」
ドクロスはコクリと頷くと、素早くその場を離れた。
「さて…俺はもう少し、この景色を楽しもうかな…」
ボマードはニヤリと不適な笑みを浮かべ、ほとんど更地になった町を再び見下ろした。
続く。




