第85話 アランvsジェリド
「やっとお前と戦えるな…アラン」
「あぁ、俺も楽しみにしてたぞ…ジェリド!」
二人はニヤリと笑みを浮かべ睨み合う。
次の瞬間、二人は同時に動き出した。
「二人同時に動いた…!」
「二人とも素早い…!」
あまりの素早さにリサとベルは驚きを見せる。
「おらぁ!!」
「くらえ!!」
二人は同時に拳を放つ。
放たれた拳はぶつかり合い、辺りにはドォン!と重い衝撃が走った。
「すごい衝撃だ…!」
「素手同士とは思えんな…!」
「やるな…アラン…!」
「そっちもな…ジェリド…!」
二人はそのまま、少しの間睨み合う。
次の瞬間、二人は同時に動き始めた。
「いくぜ、アラン!!」
「来い!!」
ジェリドは一度後ろへ下がると、そこから勢いをつけアランの方へ駆け出す。そして、アランに向け素早く拳を放った。
(早い…!)
アランはなんとかジェリドの拳を避けつつ、隙を探る。
「おらおらどうした!避けてるだけじゃ何も始まらないぜ!?」
「言われなくても…分かってるよ!!」
アランの元へ力の入ったジェリドの拳が向かってくる。力を入れたせいか、今までの攻撃より動きが少し大ぶりになり一瞬、隙が生まれていた。
(ここだ…!!)
アランはその隙を見逃さず、ジェリドの拳をしゃがんで避けた直後ジェリドの顎に向け拳を放った。
(下か…!!)
ジェリドは咄嗟に体勢を立て直し、ギリギリでアランの拳を避ける。その瞬間、ジェリドの腹部に重たい衝撃が走る。
「ぐっ…!?」
ジェリドは驚き下を見る。すると、どうやらアランの左拳が腹部にぶつかっているようだった。
(右と見せかけて左…熱くなりすぎて単純なフェイントに引っかかっちまったぜ…!)
腹部に拳を受けた衝撃でジェリドは後ろに飛ばされる。地面に手をつき体勢を立て直すと、ジェリドはふぅ、と息をついた。
「ふぅ…つい熱くなっちまって…冷静さを失ってたぜ…。なぁ、レオンさんよ、まだ一本じゃあないよな?」
「…うん、まだ続けていいよ」
レオンはニコリと笑顔を浮かべそう答える。
「聞いたな、アラン。まだまだ続けるぜ…!!」
「あぁ、もちろんだ…!!今度はこっちから行くぞ…!!」
睨み合う中、先に動いたのはアランだった。
アランは素早くジェリドの前まで踏み込むと、鋭い拳をジェリドに放つ。
(今の攻撃で落ち着いたぜ…まずは冷静にアランの動きを見定めないとな…)
ジェリドは心を落ち着かせ、冷静にアランの拳を避ける。そのまま幾度も向かってくる拳を、ジェリドは腕でガードしながら様子を伺っていた。
「いいパンチだ…重い衝撃が体の芯まで響いてくる…!この感覚、最高だぜ…!!」
「そうかよ…!よく分かんないけど、楽しんでくれてるみたいで良かったぜ…!!」
そう言うと、アランは拳を止める。
(このガードを破るにはただ殴ってるだけじゃダメだ…隙はできるけど、もっと強い攻撃をしなきゃ…!)
そう考えたアランは一度後ろに下がり、再びジェリドの方へと走り出す。そしてそのままの勢いでジャンプすると、体を前にぐるりと回転させ力を込めたかかと落としを繰り出した。
「これならどうだ…!!」
(早い…!が、ここだな…!)
ジェリドはアランの動きをしっかりと目で追い観察する。アランの足がぶつかりかけたその瞬間、ジェリドは素早く手を動かし、向かってくるアランの足を左の腕で受け止めた。
「このままガードを破る…!!」
「へへ…いい攻撃だ…だが!」
ジェリドは蹴りの衝撃に耐えながら、空いていた右手
でアランの足を力強く握り締める。
「くっ…!なんて力だ…!」
アランはジェリドの手から逃れようと体を動かす。しかし、あまりの力にジェリドの手から足を抜き出す事ができなかった。
そのままジェリドはアランの足を掴んだ右手にさらに力を込める。そしてそのまま腕を振り上げ、宙に浮いたアランの体を思い切り床に叩きつけた。
「うわぁ!?」
アランはなんとか受け身を取ったが、床に叩きつけられた衝撃で全身に痛みと痺れが走る。
(ぐぅ…!痛いだけじゃなくて…衝撃で体が痺れる…!!)
「す、すごい!右手だけでアランを持ち上げた!!」
「なんて力…!人一人を片手で持ち上げられるなんて…!!」
衝撃的な光景にベルとリサは驚きの顔を浮かべる。
「やるなぁ、ジェリド。調子出てきたじゃねぇか」
「うん、さすがジェリドだね!」
それとは対照的に、ハオとロックスはニコリと笑顔を浮かべてその光景を見守っていた。
「まだまだ終わりじゃないぜ…!!」
ジェリドは再び腕に力を込める。
そして、アランの足を持ち上げ反対側の床に叩きつけた。
「ぐはぁ…!!」
アランは上手く体を動かせず背中から地面にぶつかる。アランは血を吐き、その場に仰向けに倒れ込んだ。
「アラン!!」
「上手く受け身が取れてなかった…まずいんじゃないか….!?」
ベルとリサは不安そうに様子を伺う。
アランは頭を打ったのか、どうやら意識を失っているようだった。
(意識を失っている…ちょっとまずそうだな。ここで止めるか…)
組み手を止めようとレオンが動き出したその時だった。仰向けに倒れるアランの左手に黄色い紋章が浮かび上がる。そしてそのままアランの体は光に包また。
「な、何!?」
「アランの体が…!?」
「あれは光の紋章…」
「無意識に能力が発動したのか…!?」
あまりの眩しさに、全員が顔を背ける。
そしてアランの方へ顔を戻すと、そこには黄色い尻尾が生えた、まるで獣の様な恐ろしい形相のアランが立っていた。
「な、何だあれ…アラン….なの…?」
「あ、あれは…前に"バーガーと戦った時"と同じ…!!」
「おいおい、尻尾生えたぞ…!?」
「それにあの顔…まさかあれが…!?」
「グルル…グルァァア!!!」
アランは頭を抑えながら大きな叫び声をあげる。
(これがアラン君の光の神獣の力…どうやらまだ、アラン君は神獣の力を抑制できていないみたいだな…。自分に危機が迫ると無意識に神獣の力が目覚めアラン君を飲み込んでしまう…とそんな所か。しかし、この力を操れるようになれば彼は"あの人"を超えられるかもしれない。次の課題はそこだな…)
「なんつー覇気…!これが神獣の力か…!!」
ジェリドは冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべる。
「グルル…グガァァア!!!!」
次の瞬間、アランは一瞬にしてジェリドの前まで距離を詰めた。
「っ!!」
あまりの速さと覇気にジェリドは動けず、驚いた表情を浮かべる。そこへ今まで以上に素早いアランの拳が放たれた。
(こりゃ、やばい…!!)
ジェリドはワクワクと同時に、どこか底の見えない恐怖を覚えただじっとアランの顔を見つめる。
そして、アランの拳が目の前まで向かってきたその瞬間だった。
「はい、そこまで」
素早く移動して来たレオンはアランの腕を掴み動きを止める。ジェリドの顔スレスレで、アランの拳は止まっていた。
「レオン…さん…」
「ごめんねアラン君、一度寝ててくれよ」
そう呟くとレオンは素早い手刀でアランの首元を殴りつける。すると、アランの体から光は消え、アランはその場に倒れ込んだ。
「大丈夫かい?ジェリド君…どうやら彼、まだまだ力を抑制できてないみたいでさ…」
「あ、あぁ、俺は大丈夫だけど…アランこそ平気なのか…?」
「彼は気絶してるだけだから平気だよ。…ちなみに、神獣の力を目の前にしてどうだった?」
突然の質問にジェリドは少し戸惑いながらも答える。
「…すげぇ覇気だったな。あまりの迫力に一歩も動けなかった…。けど、なんかワクワクもしたよ。こんな凄い奴がこの世界にはいたのかって」
「…そうか。いいかい、ジェリド君。力を抑制できないと今の彼の様に誰彼構わず襲いかかる"ただの獣"になってしまう。だからそうならないよう、君も力をコントロールする特訓は怠らないようにするんだよ」
「…?あ、あぁ…」
レオンの言葉の意図を汲み取れず、ジェリドは曖昧な答えをこぼす。その様子を見て、レオンはニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「みんな、驚かせてごめんね!とりあえずアラン君が起きるまで休憩にしよう。みんな組み手で疲れてるだろうし。俺、ちょっと水持ってくるよ」
道場の端にアランを横たわらせ、レオンは道場の外に歩いて行った。
「アラン…大丈夫かしら…」
「さっきのアラン…別人みたいだったな…」
「おそらくあれが光の神獣の力だろうな」
「神獣の力…」
「過去に"紋章持ち達を従えた"と言う伝説の存在…その力をアランは継いでるってわけだね」
「…悪い、つい熱くなっちまって本気でやっちまった…俺のせい…だよな…」
「いや、ジェリドのせいじゃないわ!アランも本気でやってたし、お互い様よ。…とりあえず私たちも休みましょう。疲れたし…」
「そうだね、一度休もう…」
(アラン、あなたは…あなたの中には一体何が…)
そうは言いつつも、リサは不安な様子でアランの顔を見つめていた。
ーーーーーーーー
「もう終わりか?」
シャドウの能力で作られた影の中の世界。
その中でそう呟くゼロの前には勇者団二番隊の兵士、ポートンが倒れていた。倒れるポートンの左半身は赤黒い血に覆われており、よく見るとポートンの左腕は体から切り離されゼロの足下に虚しく転がっていた。
「はぁはぁ…ま、まさか…お前が…」
ポートンはうつ伏せに倒れ、息を荒げている。
そんなポートンの様子を、レイクセンは涙を浮かべながら呆然と見つめていた。
「…さぁ、早く言え。お前たち勇者団が何を企んでいるか…それを教えてくれるだけでいい。もう、これ以上苦しみたくはないだろう?仲間の悲しむ姿は見たくないだろう?」
「………」
ゼロの言葉を聞き、ポートンは顔を下に向ける。
そして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「へっ…俺は…これでも…誇り高き勇者団の…二番隊隊員だ…!どんな事をされようと…勇者団を裏切るような事はしない…!!例え俺の命が…無くなろうともな…!!」
「………」
そう声を絞りだすポートンを見て、ゼロはどこか切なげな顔を浮かべる。
そんなゼロの横へ、レイクセンを拘束したままのシャドウが近づいて来た。
「…どうする?もう少し痛めつける…?」
「…いや、奴の覚悟は本物だ。おそらくこのまま続けても情報を吐く事は無いだろう」
「こいつを殺そうとしても…?」
シャドウは右手にナイフを持ちレイクセンの首元に向ける。そのナイフを見て、レイクセンは恐怖の顔を浮かべた。
「くそ…クズめ…!」
(悪い…レイクセン…お前は大事な仲間だ…だが…俺にはどうする事も…出来ない…。今出来るのは…奴らに少しでも…情報を与えず…拿捕作戦に…希望を託す事だけだ…)
その時、ポートンとレイクセンの目が合う。
そこで何か通じ合ったのか、レイクセンは涙を堪えながらコクリとうなづいた。
「…言わないようだな。目の前の仲間より勇者団全体の益を選ぶようだ」
「へー…勇者団にも結構根性のある兵士だいるんだね…」
「お前たちのその根性と忠誠心、認めてやろう。…ただ殺すのは惜しいな。せめて最後に俺たちの役に立ってもらおう」
そう言うと、ゼロはポートンの目の前に立つ。
そして、手に持ったナイフの刃を下に向けた。
「さらばだ…誇り高き勇者…!!」
ゼロは勢いよくナイフを振り下ろした。
続く。




