第83話 リサvsハオ
「さ、おいでよ。僕はいつでもいいよ」
ハオはニコリと微笑み、その場で軽くジャンプを繰り返している。
「そう…それなら私から行くわよ!!」
リサはそう声を上げると、ハオの方へと素早く駆け込んでいった。
「………」
ハオは特に取り乱す事なく冷静にリサの動きを目で追う。ハオの目の前まで素早く踏み込んだリサはハオ目掛けて勢いよく竹刀を振った。
その瞬間、ハオはくるりと軽やかに後ろへと回転しリサの竹刀を避ける。
(なんて軽やかな動き…だめだめ、見惚れてないでこのまま攻める!!)
リサは後ろへ下がったハオを追いかけるように幾度となく竹刀を振り翳していく。
それを、ハオは軽やかな動きで避けていった。
「すごい…リサの剣術もなかなかなはずなのにハオは余裕そうだ…!」
「動きも軽やかで速いし…すごい動体視力と身体能力だよ…!」
そう声を漏らすアラン達を横目に、ジェリドとロックスは冷静に組手を見守っていた。
(彼女…リサの剣術はなかなかだが、素早さはハオの方が上みてぇだな…。ただ、リサの手数が多くてハオも迂闊に手を出せずに様子見している…。こりゃなかなか面白くなるぞ…!)
ジェリドはふふっ、と笑みをこぼし二人の方を真剣に見つめる。
隣にいたロックスはそれを見て、ニヤリと微笑んだ。
(くっ…動きが素早すぎて全然攻撃を当てられない…!このまま攻撃を続けても私の体力が無くなるだけね…一度体制を立て直す…!!)
リサは一度大振りな攻撃を放つと、その勢いのまま後ろへと下がった。
「ふぅ…。なかなか隙がない剣裁きだね」
「あなたこそ、すごい身体能力ね…尊敬するわ」
二人は見つめ合いながら息を整える。
一瞬の静寂の中、先に動いたのはハオだった。
「今度はこっちが攻撃の番だよ…!!」
ハオは一気にリサの前まで踏み込むと、リサの腹部目掛けて蹴りを放つ。
(まずい!先に動かれた…!!)
リサはなんとか後ろへジャンプし蹴りを避ける。
そして前を見ると、ハオの左の掌がリサの顔へと向かってきていた。
「うそっ…!?」
リサは顔を左に傾け、ギリギリでハオの掌底を避ける。その瞬間、リサの視界の下にハオの右手が映り込んだ。
(狙いは腹部…!?)
リサは崩れる体勢の中、なんとか左手を動かし腹部の前に構える。
そこへ、ハオの掌底が勢いよくぶつかった。
「ぐっ…!?」
あまりの衝撃に、リサは後ろへと飛ばされる。
しかしなんとか倒れずに、その場に踏ん張った。
(危なかった….腕で防がなかったらヤバかったかも…!?)
そんな事を考えている時、すぐ目の前にハオが迫ってきているのが見えた。
「戦闘中に考えすぎるのは良くないよ…!」
ハオは軽やかな動きでリサの方へ掌底を放っていく。
リサはなんとか避け続けていたが、次第に追い詰められ始めていた。
「言われなくても…分かってるわよ!!」
リサはハオにできた一瞬の隙をつき、竹刀を振るう。
(入った…っ!?)
その瞬間、ハオはぐるりと素早く体を回し竹刀を持つリサの手を左足で斜め上に蹴り上げた。
「す、すごい!あの体勢から回し蹴りを…!」
「なんて体幹…!って、それよりリサが…!!」
手を蹴り上げられた衝撃で竹刀はリサの手から弾き飛ぶ。そして、リサにできた大きな隙を見逃さず、ハオは渾身の掌底を放つ。
(ヤバい…やられる…!!)
リサはハオの真剣な眼差しに恐怖を覚え、目をギュッと瞑った。
「リサ!!」
アランの声が道場に響き渡る。
「………」
それから少しの間静寂が続き、リサは恐る恐る目を開く。
「っ!?」
すると、リサの鼻先ギリギリにハオの掌が向けられたまま止まっていた。
「…レオンさん、これ一本になりますか?」
「うん、見事な一本だ!組手終了!勝者はハオくん!!」
レオンはパチパチと手を叩きながらリサ達の方へと近づいていく。
「ふぅ…リサちゃん、ありがとう。なかなか剣術使いの人と組み手する機会は無いからとても勉強になったよ。君の剣術、なかなか凄かったし!」
「…私の完敗ね。あなた、動き早すぎるわ…。それに、動体視力も体幹も、全部私より圧倒的…。勉強したいからまた今度、組み手してよね!」
「うん、こちらこそお願いするよ」
二人はギュッと手を握り合うと、それぞれの仲間の元へと戻った。
「リサ…負けちゃったのは残念だけど、凄かったぞ!剣術、前よりも断然上達してるな!」
「私はまだまだよ…それよりやっぱり彼らかなり強いわ…私たちより一歩も二歩も先を行ってる感じ…。あなた達も本気でやらないとすぐ負けるわよ」
「言われなくても分かってるさ…な、ベル」
「うん…なんだか今の組み手を見てやる気出てきちゃったよ…!絶対負けないぞ…!!」
(うんうん、どうやら上手くお互いを高めあえているようだな。…今の戦いはスピードの速い者同士だったけど、やはり体術においてはサイ人のハオ君がずば抜けているな…。しかし、リサちゃんの剣術もなかなかだった。こりゃ、いい原石を見つけたもんだな…!)
レオンは一人うんうんと頷く。
そして、アラン達の方へと歩いてきた。
「さ、次はどうする?どっちがやる?」
「それじゃあ次は俺たちがやるか…。いいか?ベルよ」
「う、うん、もちろん!ちょうど今の組み手でアドレナリン出てきたとこだし!」
「よーし、そうと決まれば早速次も始めようか!それでは第二勝負…ベル君対ロックス君!!」
二人は道場の中央に向かい合って立つ。
「それでは第二勝負…はじめ!!」
ーーーーーーー
「ん…」
勇者団二番隊の兵士、ポートンはクラクラする頭を叩きながら起き上がる。
「な、なんだ…ここは…!?」
目を覚ましたポートンは驚きの表情を浮かべ、勢いよく立ち上がった。
ポートンがいたのは、どこを見渡しても真っ暗で光すら無い不気味な場所だった。
「おや…目が覚めたみたいだね…」
そう言いながらポートンの前に現れたのは目が隠れるほど長い灰色の髪の男だった。
その男は真っ黒な地面からズズズ…と生え出てくる。
「お、お前は…天魔流のシャドウ!俺の足を掴んだのはお前だな…!!」
「正解…君をここへ連れ込んだのは僕だよ…それと、君の仲間もね…」
シャドウが振り返ると、そこには両手を縛られたレイクセンの姿があった。
よく見ると、その横には顔のほとんどを包帯で覆った不気味な男が立っている。
「レイクセン…!ここはどこだ!?俺たちをこんな所へ連れ込んで何が目的だ!!」
ポートンは状況が掴めず声を荒げる。
すると、ゼロが落ち着いた声でその質問に答えた。
「…ここはシャドウの能力で作られた"影の世界"だ。上を見てみろ」
ゼロにそう言われ、ポートンは上を見上げる。
「…!これは…!!」
ポートンの見上げた先にあった物。それは、先ほどまで歩いていたはずの路地裏の景色だった。
「さっきまでいた路地…!まるで自分が地下の世界から見上げているような…!」
「まぁ、実際ここは影の中だから…地下と似たような物だよ…」
「………」
ポートンは頭を整理しながら咄嗟に通話の印を浮かび上がらせる。それを見て、シャドウはニヤリと微笑んだ。
「通話の印…ここじゃあ使えないよ…」
「な、何だと…!?」
「ここは上の世界とは"完全に隔絶された"世界…だから通話の印に必要な"生体電波"は上の世界には届かないよ…」
(クソ…通話の印が使えないとなると、自分でどうにかするしかないか…!)
ポートンは通話の印を消し、ふぅ、と息を整える。
そして、辺りを見渡した。
(少し落ち着いてなんとなくだが状況は掴めて来た…よし、まずは情報収集だ!奴らの能力や目的なんかが聞けないか探りを入れる…!!それとあの男…レオンさんが言ってた包帯の男だな…何か情報が掴めれば有利に作戦を進められるかもしれない…!!)
「それで…なぜ俺たちをこんな所へ…?」
ポートンは先程までの慌てた様子ではなく、落ち着いてゼロ達に問いかける。
「まぁ大体察しはついているだろうが…お前たちが何を企んでいるか教えてもらおう」
「俺たちが企んでいる事…?」
(まずい…俺たち勇者団が天魔流の拿捕作戦を企てている事に気づかれたか…?いや、この様子だとおそらくまだ予想を立てている程度の段階…企ての内容まではバレていないはずだ…!)
「…嫌だ、と言ったら…?」
「その時は…この女の命を頂く。これは交渉だ、分かるな?」
「んんん!んん…!!」
レイクセンは口に布を噛ませられているようで、何かを伝えようと必死に唸り声を漏らす。
(分かってる…絶対言うなって事だろ…!しかし、言わなければ待っているのは…死!くそ、どうする…)
ポートンは黙ったまま少し考え込む。
(二番隊の皆は俺たちがいなくなった事に気づくだろうか…いや、待てよ?今確か昼過ぎ…午後二時には集まって午前の巡回の報告をする予定だ!…と言う事はあと三十分ほど時間を稼げば俺たちがいない事に気づかれるはず…この場所に気づいてもらえるかは分からないが、出る方法を探りつつなんとかそこまで耐えるしか無い…!)
「どうした、言わないのか?」
「ま、待ってくれ…!俺たちだって勇者団だ、お前らに簡単に情報を漏らすわけにはいかない」
「…そりゃそうだな」
「一つ、条件をつけさせてくれないか?」
「条件…?」
「あぁ。俺とお前で戦って、俺が勝ったら俺とレイクセン、二人を解放する。俺たちが負けたら…大人しくお前らに情報を教える。…これでどうだ?」
「…どうするの?ゼロ」
「…面白い、いいだろう。その条件、飲んでやる」
(よし、乗ってくれた…!負けても情報なんて漏らすわけないけどな…。とりあえず、俺が奴らに勝てる確率はかなり低い。悔しいけど…。だから、この勝負で時間を稼ぐ。負ければ情報を伝える、だから勝負中なら命は取られないはずだ…。それにこれは奴等の情報を知り得る絶好のチャンスでもある…!!)
「よし…それなら、俺とあんたで勝負だ!いいな?」
「とっとと始めるぞ。俺たちもそれなりに急いでいるからな」
「んー!んんー!!」
レイクセンは不安気な顔で声を上げる。
レイクセンをシャドウに託すと、ゼロはポートンの前に立った。
「行くぞ天魔流…二番隊の名にかけて俺がお前を倒す…!!」
「来い。すぐに終わらせる」
二人はギロっと睨み合った。
続く。




