第76話 道場へ
「アラン、朝だよ!」
グラグラと体を揺さぶられ、アランはゆっくりと目を開く。そして大きな伸びをすると、重い体を起こしあくびをこぼした。
「おはよー、ベル…今何時…?」
「今朝の八時前。朝ごはんの時間だよ」
「はーふ…朝ごはんか…」
アランはベッドから降りるとカーテンを開く。
暖かな朝日を浴び、アランはニコッと笑顔を浮かべた。
「よーし、沢山食べるぞ…!!」
「あはは、アランらしいね」
二人は手際よく準備すると、一階へと降りた。
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一階に降りると、大きなテーブルを囲む様にリサとレオナ、そしてジェリド、ハオ、ロックスの姿があった。
「お、来たな!アラン、ベル!もう先に食べちまってるぜ」
ジェリドは朝ごはんのパンを口いっぱいに入れながらアラン達の方を見る。
「あ、ずるいぞ!俺も食べる!!」
「俺も俺も!!」
「全く、ほんと子供ね…」
「ほんとだね…」
リサとハオは、やれやれと呆れた顔でアラン達を見ていた。アランとベルは駆け足でイスに座り、手を合わせる。
「いただきまーす!!」
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「みんな、美味しかった?」
「美味しかったです!」
「美味かったぜ…」
「朝からこんなご馳走頂いて…ありがとうございます!」
「いいのいいの!…料金はしっかりレオンさんに貰ってるし。それに、早朝からレオナちゃんが手伝ってくれたのよ!ほんと助かったわ、ありがと!」
リーナにそう言われ、レオナは少し照れながら頭を下げる。
「レオナ、リーナさんの手伝いしたのか!偉いな!」
「うん…私にできる事、全力でやろうと思って…。私は今回もお留守番する。お留守番して、宿のお手伝いと皆んなのサポート、全力でするね!」
その言葉を聞き、ベルは涙ぐみリサの方を見た。
(リサ…ありがとう…!レオナが決心できたのはリサのおかげだ…!!)
ベルと目が合ったリサはグッと親指を上げ、笑顔を浮かべた。
「レオナ、頑張ってな!お兄ちゃん達も勇者団の役に立てるよう頑張るから!」
「うん!」
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朝食を食べ終わり、アラン達は昼頃まで宿で時間を潰していた。
「せっかく来たし、この町も見てまわりたいわね…」
「そうだな…今日は予定があるからダメだけど、明日とかなら見て回れるかな?…作戦の前に町の雰囲気もしっかり見ておきたいし」
「そうね…どんな町か見ておかないと作戦の時困りそうだもんね…よし、明日は町の散策決定!下見も兼ねてね!」
「おー!!」
そんな事を話していると、一階から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい、みんないるかーい?迎えに来たよー」
「あ、レオンさんの声だ!よーし、行くぞ!!」
「あ、待ってよ!」
レオンとリサは駆け足で一階へと降りた。
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「…よし、みんないるね…って、レオナちゃんは?」
「レオナは留守番してもらう事にしました!…レオナ、特に戦える訳じゃ無いですし」
「そうか…今回はちょっと危険な仕事だ。それがいい。…よし、それじゃあちょっと移動しよう。"修行"するにはピッタリの所へね」
「しゅ、修行!?」
レオンの言葉を聞き、アランは大きな声を上げた。
「声でかいわよ!…それにしても修行って?」
「いやーね、せっかく時間もあるし君たちに修行をつけてあげようと思って…。ま、修行といっても軽く紋章の扱いについた教えるくらいだけど」
「へー、そりゃいいや!二番隊の隊長さんに修行つけてもらえるなんて滅多に無い機会だぜ…!」
「だね!貴重な機会だ…!」
「よーし、それじゃあ俺の知り合いがやってる道場があるからそこに行こう!そこなら、好きなだけ体を動かせるからね」
レオンに連れられ、アラン達は一度路地を出て大通りを進んで行った。
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「道場に行く前に…ここが町の中央広場!天魔流達を誘導してもらう場所だ。ここで捕える予定だからみんな、よろしくね」
中央広場と呼ばれるその場所はその名の通り城下町の中心にある広場で、円状に作られていた。
真ん中には大きな噴水があり、広場では沢山の人たちが優雅なひと時を過ごしていた。
「そういえば町の人達の避難って…」
「それなんだけど…作戦上、天魔流達には極力情報を知られたくない。だから、町の人達にも知らせずに作戦を始める事になってる」
「え?それで避難は間に合うんですか?」
「ここはね、勇者団本部のある城塞都市のお膝元って事で人が沢山集まる分良く悪党なんかも現れるんだ。その度に避難が必要で慣れてるってのもあるし、普段から定期的に避難訓練もしてるからそこら辺は大丈夫!二番隊が護衛しながら誘導するしね」
「そうなんだ…この町の人って結構大変なのね…」
「まぁね…その分、町の人達のメンタルは大分鍛えられてるみたいだけど」
そんな事を話しながら、レオン達は広場を歩いて行く。広場の周囲を見ると、広場からはX型に大きな道が四つ、そしてそこを縦に割るように城下町入り口から城塞都市へと繋がる道が一つ伸びていた。
「広場からはいくつか大通りが伸びててね、その大通りを元にこの町はそれぞれ扇形に四つ、北地区、東地区、南地区、西地区に別れてる。今から行く道場があるは東地区!ちなみに君たちの宿と拠点の店があるのは西地区だ。…それと、昨日天魔流が目撃されたのは南地区で城下町の入り口に近い場所だね」
「四つの地区か…しっかり覚えないとね…」
リサはメモ帳を取り出すと、ひたすら何かをメモしていく。
「よーし、説明はこんなもんかな。さ、道場に行くぞ!」
レオン達は東側に伸びる大通りを進んで行った。
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大通りを半分程進むと、レオンは一度立ち止まる。
そして細い路地の方を指差した。
「道場はこの先だよ」
再びレオンに導かれ、アラン達は路地に入った。
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「うわー…すごいなぁ…!」
細い路地を進んで行くと、突如として開けた空間が現れる。そこには瓦屋根の乗った大きな木製の門があった。
「ここだけ建物が切り取られたみたいに空間が出来てるんだな…それに、あの門…」
「見たことない門の形だな…この辺の建築じゃない事は確かだ」
ジェリドとロックスは少し怪しみながらそう呟く。
「ははっ、見たことないのも無理はないさ。これは"東の国"と呼ばれる小さな国の建築だからね」
「東の国…ですか?」
「あぁ。東の国は我がアリア王国の東に並ぶ"サイの国"よりさらに東の"東海"、と呼ばれる海域に浮かぶ小さな島国だ。ここはかなり独特の文化を待っててね?建物もそうだし、住人は皆"東服"と言う着物を来て生活している。そして、何より武術がとても盛んで特に"東刀(あずまとう")と呼ばれる"刀を用いた戦闘術"は東人なら誰でも一流って話だ」
「へー、なんか凄そうですね…!」
「って事はここの道場の主は東の国の人って事ですか?」
「御名答!…本来東の国は現状"半鎖国状態"でね?東の国に入国したり、東の国の人が外国へ出るのは難しいみたいなんだけど…アリア王国とは唯一、"同盟"を結んでくれて居るから我々勇者団に限っては許可をもらえば東の国に入ったり、逆に東の国の人を迎え入れたり出来るんだよ」
「へー、鎖国って外国との関係を持たないようにするって事ですよね?なんでそんな事…」
「…ま、色々あるんだよ、あの国も。勇者団に入ればきっとこの辺も学ぶ事になるはずだから気になるようだったら入団目指して頑張って!さ、話はこの辺にして中へ入ろう」
レオンはニコニコと笑顔を浮かべ、路地を歩き出す。
(なんか話誤魔化されなかったか…?)
(説明、めんどくさかったのかしら…)
そんな事をこそこそと話しながら、アラン達はレオンの後に続き大きな門を潜り抜けた。
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門を抜けると、そこには大きく存在感のある松の木が一本生えておりその奥には門と同じく屋根に瓦の乗った大きな木造の建物が聳え立っていた。
「へー、結構でかい道場だな…」
「なんだかサイの国の道場を思い出すよ…」
「…昔東の国とサイの国は"深い交流"があったらしくてね、建物とかの文化は似てるところが結構あるみたいだよ」
「そうなんだ…サイの国生まれだけど知らなかった。まだまだ勉強不足だな…」
そんな事を話して居ると、レオンはドンドン、と建物に取り付けられた木製の扉を叩く。
「すいませーん!勇者団二番隊のレオンですー!道場お借りしに来ましたー!!」
「………」
レオンの声から少し経った後、木の扉がゆっくりと開いた。
「おー、来たか!レオン!期待の新星たちに会えると聞いてワクワクしとったぞ!さ、入れ入れ!」
門を開け出て来たのは、ボサボサとした白髪混じりの黒い短髪に口元から顎まで髭を生やした、どこかだらしなさを感じてしまう紺色の着流しを着た男だった。
「この人が…」
「道場の…」
「主さん?」
アラン達は想像とは少し違った主の姿に少しの戸惑いと、どこか裏切られた気持ちを感じていた。
「いかにも!彼がこの道場の主で"東刀術"の達人、ゲンゾウさんだ!」
レオンに紹介された男は深々と頭を下げ口を開いた。
「えー、わしがこの道場の主をしておるゲンゾウだ。よろしく頼むぞ、皆の衆」
男はニコリと笑うと、深々と頭を下げた。
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アルハリア城下町のとある廃墟の中…。
薄く光が差し込む建物の中にローブを身につけ、顔の左目を覆う程まで包帯を巻いた黒髪の男が座っていた。
「ゼロ、君の言っていた"光の紋章持ちの少年"見つけたよ…」
「本当か?」
「あぁ、間違い無いよ…」
包帯の男の前の地面にある"影"から、黒い人型の"影"がズズズ…と生え出てくる。
その影は包帯の男の前に立つと、懐から一枚の紙を取り出した。
「軽くスケッチしてみたんだけど…似てるかな…」
人型の影に差し出された紙を見ると、そこには一人の男の"似顔絵"が鉛筆で書かれていた。
「…すごいな、お前が書いたのか?」
「あぁ…僕、絵を描くのが趣味でね…よくスケッチしてるんだ…。それでどうかな…?彼で合ってる?」
「…あぁ、間違いない。まさかこんな所で巡り合うとは…運命とは面白いもんだ」
包帯の男はニヤリと微笑むと、絵の書かれた紙を懐にしまう。そして立ち上がり、壁に出来た割れ目からアルハリア城下町を見渡した。
「お前に会えるのが楽しみだ…"アラン"…!!」
包帯の男はそう呟き、拳をギュッと握りしめた。
続く。




