第75話 レオナの決心
「…さ、あなた達はここを使ってちょうだい。朝夜はご飯も出すから朝は八時、夜は七時に一階のエントランスに来てね。何かあったら一階にいるからまた聞いて!それじゃおやすみなさい」
「おやすみなさい、リーナさん」
「おやすみなさーい」
リーナと呼ばれる大人びた暗い緑髪の女性はニコッと笑みを浮かべると部屋を出て行った。
「ふぅ、ここは俺とベルだけか…。ま、その方が静かでいいか!」
「そうだね…話聞いてたらなんか疲れてきちゃったよ…」
ベルは大きなあくびを浮かべそう呟く。
「あ、そうだ…アラン、一つ相談したい事が…」
「相談?どうしたんだ、一体…」
「実はさ…レオナの事なんだけど、レオナは今回も留守番してもらおうかと思ってる」
その言葉を聞き、アランはベルの方へ顔を向ける」
「レオナちゃんの事か…実は俺も連れて行かない方がいいと思ってた」
「そう…だよな。あいつ、みんなと一緒にいて一人だけ何も出来てない事をすごい悩んでた…。だから少し迷ったんだけど…」
「そっか…でも、今回は天魔流っていうかなりヤバい奴らが相手だ。正直、俺たちだけでも無事にすむかは分からない…。レオナちゃんを危険な目には合わせたくないし、やっぱりレオナちゃんには留守番を頼むべきだと俺は思うな」
「…うん、やっぱりそうしよう。レオナは特別戦えるわけじゃないし…。この旅に連れてきたはいいものの、本当にこれでよかったのかなって時々思うんだ。奴隷から解放されて、行きたい所ややりたい事も一杯あっただろうに…。俺の勝手な想いだけでレオナを連れてきて、俺、レオナに無理させちゃってるな、きっと…」
ベルは両手のひらををぎゅっと握り俯く。
そんなベルの肩に、アランはポンッと手を置き笑みを浮かべた。
「そんなに心配なら本人に直接聞いてみよう!ついでに、今回の留守番の事も伝えなきゃだし…」
「えぇ?直接って…ちょっと聞きづらいよ…」
「ま、そうだよな…なら、リサに頼もう!リサにそれとなーく聞いてもらって、それとなーく留守番の事も相談してもらって…女の子同士の方が話もしやすいだろうし」
「…そっか、そうだね。…なんだか申し訳ないけどリサに頼んでレオナに聞いてもらおう。留守番の事も。…ごめん、色々迷惑かけちゃって」
「なーに言ってんだよ、俺たちもう仲間だぜ!仲間の悩みは自分の悩みってな!よし、早速リサにお願いしに行こう。行くぞ、ベル!」
「あ、あぁ」
二人は部屋を出て、向かい側のリサの部屋の扉をノックした。
ーーーーーーーー
「はーい…って、二人揃ってどうしたの」
リサは大きなあくびをもらしながら扉を開ける。
そこには、アランとベルの二人の姿があった。
「あ、ごめん、寝てた?」
「いや、まだ寝てないけど…」
「レオナはまだ起きてる?」
「えぇ、まだ起きてるけど…レオナちゃんに用事?呼んでこようか?」
「え?あ、いや!いいんだ!用事があるのはリサで…ちょっと外で話せるか?」
アランは小声になりリサの耳元でそう囁く。
「いいけど…」
リサは少し困惑しながら部屋を出た。
ーーーーーーーー
「…なるほどねぇ、今更それが心配になっちゃたんだ」
「うん、まぁ…」
「前リバーサイドタウンで話した時はついてきてよかったーって言ってたけど…」
「本当!?」
「えぇ。…あの娘、あなたがあんなに楽しそうにしてるの初めて見たってとても嬉しそうな顔して言ってたわ。…あなたの考えすぎじゃない?レオナはきっと、ついてきた事に後悔なんてしてないと思うわよ」
「そうか…それなら良かった…!」
「でも…確かにさっきからなんだか辛そうな顔でぼーっとしてるのよね…。役に立ててないって自責の念は感じちゃってるのかもしれないわ…」
「うーん…なかなか難しい問題だな…別に俺たちは足手纏いだ!なんて全く思ってないし、レオナちゃんにはレオナちゃんにしか出来ない事もあると思うけど…」
三人はうーん…と深く考え込む。
「…まぁいいわ、改めて私がレオナちゃんと話してみる。ついてきて後悔してないかももう一度聞いてみるわね」
「…ごめんな、リサ。迷惑かけちゃって」
「いいのいいの!迷惑だなんて思ってないし、仲間達の問題は私自身の問題でもある!」
「そういう事だよ、ベル」
アランは俯くベルと無理やり肩を組みリサと目を合わせる。そして、二人はコクリと頷き合った。
「二人とも…ほんとにありがとう…!リサ、レオナの事頼んだよ!何かあったら俺にも伝えてくれ!」
「女の子の事は女の子に任せなさい!何かあったらまた相談するから」
「リサ、任せちゃってごめんな。手伝える事あったら俺たちも手伝うから!」
「えぇ、その時はよろしく。さ、帰った帰った!明日はレオンさんに通話の印教えてもらわなきゃだし、平原歩いて疲れてるでしょ!早く寝なさい!」
(お、お母さんみたいだ…)
(リサ…ありがとう…!)
二人は心の中でそんな事を思いながら自分達の部屋へと戻った。
ーーーーーーーー
「リサはああ言ってくれたけど…レオナの奴、やっぱり気にしてるんだな…」
暗い部屋の中、ベルはベッドの上で仰向けになりながらひたすらにレオナの事を考えていた。
「今更になってこんな事考えるなんて…ダメな兄ちゃんだな…俺…」
ベルはふぅ…とため息を吐く。
「すー…すー…」
「アラン、寝ちゃったな…。平原歩いて疲れたもんな…」
「………」
「よし、ちょっとだけ…!」
ベルはベッドから飛び降りると、アランを起こさない様ゆっくりと扉を開け、部屋を出て行った。
「………」
それから少しして、アランはゆっくりと目を開く。
「…お前はダメなお兄ちゃんなんかじゃない。妹の事をしっかり気遣えるいいお兄ちゃんじゃないか」
アランはゆっくり体を起こすと、ぐしゃぐしゃと乱れたベルのベッドを見つめていた。
ーーーーーーーー
(なるべく自然に…空気が重くならない様に…)
「ねぇ…レオナちゃん。前も聞いたけどさ…本当に私たちについてきてくれてよかったの?」
リサはベッドに腰掛け、髪にブラシをかけながらレオナにそう問いかける。
その問いを聞き、レオナはニコッと笑みを浮かべた。
「もちろんです!前も言いましたけど、皆さんといると毎日が本当に楽しくて…何より、お兄ちゃんの楽しそうな笑顔を見られるだけで私、とっても幸せなんです…!」
(レオナ…)
リサ達の部屋のドアに耳を当て会話を外から聞いていたベルはその言葉を聞き、思わず目に涙を浮かべる。
「そっか。…実はね、ベルがあなたの事とても心配してたの。レオナを旅に連れてきてよかったのか、レオナに無理させてないかって…」
それを聞きレオナは驚いた後、すぐに辛そうな表情を浮かべた。
「そう…だったんですか。ついてきた事は全く後悔していません!行くあてもなかったし、皆さんといると本当に楽しいし…。ただ…」
「ただ…どうしたの?」
「私、最近思うんです。皆さんの足手纏いになっちゃってるなって…」
「足手纏い…?なんでそう思ったのかな?」
「皆さんが悪い人達と戦う時、私は何も出来ない…戦える訳でも、サポートできる訳でもなく、皆さんに守られたり留守番しているしかない…。それに私は皆さんの様に勇者団を目指せるほどの力も勇気も無い…。そんなどうしようもない私じゃ皆さんの邪魔になってるんじゃって、最近ずっとそう思ってるんです…」
それを聞き、リサはギュッと手のひらを握りしめる。
(レオナちゃん、一人でそんな事を思ってたのね…)
少し考え、リサは口を開いた。
「…いい?レオナちゃん。私達はみんなあなたを足手纏いだなんて思った事は一度も無いわ。確かにレオナちゃんは戦ったりは出来ないかもしれない。でも、それは全く悪い事じゃない。人にはそれぞれ得意不得意ってものがあるの。例えば私は掃除洗濯は得意だけど、料理の腕は絶望的(…自分で言うのなんか嫌だけど)。アランだって、戦いは強いけど計画立てたり、勉強したり、頭を使うのは苦手。…いい?人には出来る事と出来ない事があって当たり前。だから、出来ない事を悔やむんじゃなくて、自分にできる事を全力でやるって事が大事なのよ」
「自分にできる事を…全力で?」
「そう!例えば…レオナちゃん、得意な事ある?」
「得意な事…えっと…奴隷として働いてた時、家事ばかりやらされてたから、家事全般は結構得意…です」
「そう、それよ!家事が得意なレオナちゃんはそこをもっと極めればいい!戦いなんて野蛮な事は私たちに任せておいて、レオナちゃんはその得意な事で私たちをサポートしてくれればいいの!」
「私の得意な事で…サポート…」
「そう!具体的には…えーっと…宿のお手伝いをするとか!」
「宿のお手伝い…?」
「そう!…レオナちゃん、あなたはやっぱり戦いの場には連れて行けない。今回は特に危険そうだし…。だから、私たちが出かけてる間、レオナちゃんはこの宿のお手伝いをして宿の人達を助けるの!」
「お手伝いをして、助ける…?」
「そう!一見地味に感じるかも知らないけど、それも十分人助けになるわ。私たちが困ってる人の為に戦うのと一緒!それに、私たちもレオナちゃんが宿で待ってるって思うだけでいつもの何十倍も頑張れるし!…いい?人にはそれぞれその人の出来ることがある。レオナちゃんにはレオナちゃんにしか出来ない事がある。だから、役に立ちたいと思うならあなたにあった方法で、あなたのできる事をやっていけばいいのよ」
「私のできる事を…?」
リサの話を聞き、レオナは何かを決心したかの様にぎゅっと両手を握り顔をあげた。
「…リサさん、ありがとうございます!私、決めました!今回も私は留守番します。ついていったらきっと迷惑かけちゃうから…。だけど、ただ待ってるだけは嫌だから宿のお手伝い、できるかどうか頼んでみます!…私のできる事で…私にしか出来ない事で人の助けになれるならそれに全力を出してみます!出来ない事にクヨクヨして何も行動していなかった私とはもうおさらばです…!!」
そう言うと、レオナはベッドの上に立ち上がり手のひらをを顔の前でギュッと握りしめる。
「明日から私がんばります!皆さんに追いつけるようコツコツ前に進みます!!」
(すごい気合い!さっきまでクヨクヨしてた娘とは思えないわ…!なんか目燃えてるし…)
リサは少し驚きながらも、笑みを浮かべ声を上げた。
「えぇ、私たちも全力で頑張るから、レオナちゃんも一緒に頑張りましょう!!」
「おー!!」
(…レオナ、よかったな。こんないい人達と出会えて。よーし、俺も足手纏いにならないように頑張るぞ…!!)
そんな会話を聞いていたベルはニコッと爽やかな笑顔を浮かべ、コソコソっと自分の部屋へと戻って行った。
ーーーーーーーー
「こりゃひどいね…」
まだ薄暗い明朝、路地に倒れた首のない死体を見てレオンはため息を吐く。
「これは…奴らの仕業ですかね…」
「おそらくは…こいつら、この町に居座ってるチンピラ連中だな。十中八九天魔流を討ち取って名を上げようなんて愚かな事を考えたんだろうが…」
「返り討ちにあったと」
メガネをかけた勇者団の兵士は現場の状況をメモしながら死体をじっくりと観察する。
「うん…」
(綺麗に首が切り落とされている…。こりゃ何かの能力によるものだな…)
レオンは再び溜め息を吐くと、顔を上げた。
「とりあえず現場の処理はカルタ、君を中心に二番隊でよろしく。…あまり騒ぎにはしたくない。町の人たちにはバレないよう頼む。それと、天魔流の連中には十分気をつけてくれ」
「了解です、レオンさんも気をつけて」
「あぁ、ありがとう」
そう言うと、レオンは薄暗い路地を歩いて行った。
続く。




