第70話 ゼクスの力
「…王の部屋はきっとこの先ネ」
レンは廊下へ戻ると、入ってきた扉とは反対側の扉を開ける。すると、扉の先にはそれぞれ左右に続く廊下、そして正面の階段の先には大きな龍の描かれた鉄の扉があった。
「きっとここネ」
レンはニヤリと笑みを浮かべると、階段を駆け上がる。
そしてそのままの勢いで、レンは思い切り鉄の扉を蹴り破った。
「ドォン!」
と大きな音と共に、鉄の扉は吹き飛びレンは勢いよく部屋の中へ飛び込む。すると、そこには驚いた顔で振り返るゼクスとクロウスの姿があった。
「ちっ、ゼクス先にいたネ…来て損したヨ」
「おい、レン!いきなり部屋に飛び込んでくんじゃねぇ、びっくりしただろうが!…ってお前、なんだその姿?もしかしてやられて逃げ出して来たのか!?だはははは!!!!」
ゼクスは頭から血を流すレンの姿を見るや否や、大きな笑い声をあげる。
「ちっ…まずお前から殺すヨ、ゼクス」
「いやー、悪ぃ悪ぃ…ま、お前の事だし負けちゃいねーか…だが残念。もうここに帝王はいねぇぜ!」
「いない…?帝王はどこ行ったヨ」
「脱出用の通路で逃げちまったとさ…ま、そのおかげでなかなか面白い奴と戦えてるし俺としちゃありがたいけどな」
「脱出用の通路…意外と小賢しい事考えるネ」
「それともう一つ、帝王はさっき殺してきたわよ。私たちが」
レンの後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
よく見ると、レンの蹴破った扉の先からキャサリンとブルが歩いて来ていた。
「あぁ?殺した?案外あっさりだな」
「えぇ、エルが帝王達を上手く誘導してくれてね、そこで待機してたら本当に来たからバババババンって感じで」
「なんだバババババンって…らしいけどよ、どうする?お前の守るべき存在はもういねぇがまだ続けるか?」
「ふん、流石は天魔流といった所か。サイの国の連中がここまであっさりやられるとはな。…まぁ悪魔で俺は雇われの身、この国や帝王に思い入れなど無い。もう逃げ出してもいいな。…だが、あんたら天魔流とやり合える機会はそうそうあったもんじゃない。悪いが、決着が着くまではやらせてもらおう」
「へ、分かってんじゃねぇか…!おい、お前らこいつは俺がやる。お前らはそこで見学でもしてな!!」
「チッ…帝王殺したならもうやる事もないネ…早く終わらせるヨ、ゼクス」
そう呟くと、レンはゼクス達から少し距離を置いた部屋の壁際に座り込んだ。
「別にあんたらの戦いに興味無いけど…やる事もないししょうがないわね…」
「エルも待たなきゃ行けねぇしな…チッ、つまらねぇ戦いはすんなよ、ゼクス」
「分かってるぜ、ブル。…邪魔して悪かったな、続き始めようぜ」
「あぁ、行くぞ…ゼクス!!」
クロウスはゼクスを睨みつけると両腕を勢いよく前に突き出す。すると、両腕の全体に白い紋章が複数現れそこから勢いよくカラス達が飛び出して来た。
「まだあんだけ出せんのか…なかなか体力のある奴だ。だが同じ手は効かねぇぜ!!」
次々と向かってくるカラス達をゼクスは軽々と鎌で切り裂いていく。
「さっきはレンに邪魔されちまったが闇の紋章の力、見せてやるぜ…!」
ゼクスはその場から飛び出し後ろへ下がる。
そして、鎌を前に突き出しニヤリと不適な笑みを浮かべた。その瞬間、鎌の刃先から赤黒い液体が滲み出しどんどんと鎌の周りをを覆っていく。最終的にはゼクスの全身すらも覆いつくし、ゼクスの姿は赤黒い液体の中に完全に隠れてしまった。
(なんだあれは…血か…?噂には聞いていたが天魔流とはやはりおかしな能力者ばかりだ…能力の予想がつかない以上、下手に先手は仕掛けない方が賢明だろう…!)
クロウスはカラスでの攻撃を止め、少し離れた所からゼクスの様子を伺っている。
「あぁ…やっぱり血ってのはいいぜ…!特にこの国の兵士共の血は絶品だ…!こんなに美味けりゃいい力が使えそうだぜ…!!!」
そう声を荒らげ、ゼクスは鎌を振り下ろす。
その瞬間、ゼクスの周りを覆っていた赤黒い液体は周囲に飛び散り中には禍々しい黒いオーラに包まれたゼクスが立っていた。
「ひゅー、久しぶりに見たが何度見ても禍々しいな」
「本当。ま、ゼクスにはピッタリね…」
「ふん、まだまだ未熟ネ…俺には敵わないヨ」
ゼクスのオーラを見て、天魔流のメンバー達はそれぞれ言葉をこぼす。
「うるせぇぞお前ら!…まぁ見てな、退屈はさせねぇからよ…!!いくぜクロウス!!"斬血波!!"」
ゼクスが鎌を振ると、鎌から黒いオーラを纏った巨大な斬撃が勢いよく放たれた。
「…!!」
クロウスはなんとか回避し斬撃を避ける。
目標を失った斬撃は宮殿の壁を切り裂き、そのまま外へと飛び出していった。
(なんというスピードと切れ味…!掠りでもしたら致命傷は避けられない…ならば!)
クロウスは体制を立て直すと、両腕を横に突き出す。
その瞬間クロウスの両腕は黒い翼に覆われ、クロウスはその場から飛び立った。
「ほぉ、あいつ空飛べるのか」
「自分の手をカラスの羽に…召喚の印を極めると"召喚獣と一心同体になれる"って聞いた事あったけど…あそこまでのは初めて見たわ」
「なかなか面白いネ、アイツ。ゼクスが殺られたら俺も戦いたいネ」
飛び立ったクロウスはゼクスを見下ろしながら両翼を前に突き出す。すると再び、カラス達が白い紋章から飛び出して来た。
「何度も同じ手じゃ飽きちまうぜ、クロウス…!!」
「安心しろ、今度のはさっきのとは違う特大の爆発だ…!!」
放たれた数十羽のカラスは勢いよくゼクスの方へ向かって行く。そしてゼクスの前にたどり着いた瞬間、体に白い紋章が浮かび上がり大きな爆発を起こした。
ドォン!ドォン!と鳴り響く爆音と共に、ゼクスは爆煙に包まれていく。
「うお…!すげぇ爆発だぜ…」
「離れてないと巻き込まれそうだわ…!」
「へへ、なかなかの数と威力ネ」
あまりの爆発に、戦闘を見ていたブル達は危険を感じ距離を取る。
少し経って、幾度と続く爆発は収まり煙が晴れ始めた。
「はぁ…はぁ…どうだ…ゼクス。なかなかいい爆発だろう」
幾度もの爆発を受け、部屋の中央の床は大きく崩れ穴が空いていた。
クロウスはふぅ、息を吐き床を見下ろす。
その時だった。
「あぁ、いい爆発だった。ちっとは効いたぜ…!」
耳元から聞こえてくる声に、クロウスは驚きながら振り返る。その瞬間、クロウスの体はゼクスの放った斬血波に切り裂かれた。
「ガハッ…いつ間に…後ろに…!?」
「俺だって空くらい飛べるぜ…ま、少しだけだけどよ」
鎌に切り裂かれたクロウスはそのまま崩れず残った床へと落下しうつ伏せに倒れ込む。
ゼクスは軽やかに床へ降り立つとオーラを消し、ふぅ、とため息を吐いた。
「ちっ、若干火傷しちまったぜ…ま、火傷で済んだだけマシか。…なかなか楽しめたぜ、クロウス。今まで戦ってきた奴の中でも上位には入る実力だった」
ゼクスは大きく伸びをすると、レン達の方へ振り向く。
その時だった。
「それは嬉しい言葉だな」
背後から、倒れたはずのクロウスの声が聞こえてくる。
ゼクスが咄嗟に振り返ると、倒れていたゼクスは数羽のカラスとなり消え、その後ろには無傷のクロウスの姿があった。
「なに!?お前無傷じゃねぇか!!つーことはさっきのは…」
「悪いな…さっきまで戦っていたのは俺の分身だ」
「分身だと?そんなもん作れんのか…!?」
「召喚獣とはいわば"印術使いの生体エネルギーを獣型に変えた物"…再び集め形を変えれば分身も作れる。…まぁかなりエネルギーは使うし習得に相当の時間を要したがな」
「おいおい、召喚印術ってのはなんでもありかよ…ちっ、降参だ。俺は今日久しぶり能力使いまくっちまってよ…もー戦う元気が残ってない。殺したきゃ好きにしな。…ま、後には数人、戦いたがりの奴らが控えてるが…」
「ふん、それはお互い様だ…おれももうエネルギーを使い果たした。戦う力は残っていない…」
「へっ、そうかよ…んじゃ引き分けだな」
「せっかくの機会だ、もう少し戦いたかったが…そうなるな…」
「なかなか嬉しい事言ってくれんじゃねぇか…。おい、終わったぞお前ら。…そういやエルはまだか?」
ゼクスがそう聞いた時、レンの破壊した扉の先から声が聞こえてきた。
「お待たせ、帝王、無事殺せたみたいだね」
「おぉ、ちょうど来たな」
「エルのおかげよ」
「あぁ、お前の情報通りだったな」
「それならよかった!…ゼクス、その人は?」
「あぁ、こいつか?こいつは護衛軍の隊長さんだ。雇われみてぇだがよ。…そうだ!少し考えたんだけどよ、確かレギスの奴、そろそろメンバーを増やしたいとか言ってたよな?」
「えーっと…うん、言ってたけど」
「こいつ、新しいメンバーとして連れ帰ろうと思う。どうだ?」
「え?その人を?」
「いきなり何言うかと思ったら…一応敵でしょ?」
「そうネ、そいつ敵ヨ。ここで殺しとくのがいいネ」
「まぁ実力はかなりありそうだし、仲間にいりゃ心強いがな…」
ゼクスは少し考えると、クロウスの方を向く。
「…おい、クロウス。お前はどうだ?俺らの仲間、入らねぇか?」
突然の誘いに、クロウスはポカンと驚いた顔を浮かべる。
「おい、どうすんだ?行くのか、行かねぇのか?…どうせこの後行くとこもねぇだろ、帝王は死んじまった訳だし。なら、俺らの所で力貸してくれよ。俺、お前が気に入ったぜ」
その言葉を聞き、クロウスはゆっくりと立ち上がる。
「…憧れの天魔流に誘われて断る理由は無い。確かにこの後行く宛もないしな。ぜひついて行かせてくれ。もちろん、他のメンバーがよければ、だが…」
その言葉を聞き、ゼクスは勢いよくクロウスと肩を組み笑顔を浮かべた。
「よっしゃ!そう来なくっちゃな!!お前ら、とっととこんな所出てレギスにクロウス紹介するぞ!!」
「ったく、勝手なんだから…」
「ほんとネ…」
「ま、いいじゃねぇか…メンバーは増えた方が楽しいだろうしよ」
「あはは、ゼクスらしいね。よし、それじゃあ反乱軍の人達に連絡して俺たちはここから出よう。後は反乱軍の人達がやりたいようにやるだろうから」
「よし、とっとと出るぞこんなとこ!」
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こうして、帝王の一族と護衛軍は壊滅しサイの国は反乱軍により統治される事になった。…この時、この事件が後々の世界へ大きな影響を与える事になろうとはまだ誰も思ってはいなかった。
続く。
投稿は不定期で行います。




