第66話 帝王護衛軍隊長、クロウス
「さぁ、それでは行きましょうか。こちらへ…」
廊下へ出たヤオはエイ・リンの部屋の斜め向かいにあった部屋の扉の前に立つ。
「ここはリン家二女のスー・リン様の部屋です。ここに護衛軍隊長の元へワープする罠を貼ってあります」
「何でこんなとこに罠貼ってんだ?部屋の主でも捕えるつもりか?」
「いえいえ、スー様同意の上です。これは元々護衛軍やリン家の方々の移動用に張った罠…。まぁ、本当の目的はあなた方をすぐにクロウスの元へと連れていくためでしたが…」
「ここ通ればクロウスの所に行けんのか?」
「えぇ、何なら帝王様もいらっしゃいます。逃げていなければね」
「ほー、そうか…ならそのクロウスって奴とっとと倒して帝王もサクッと殺しちまおう」
ゼクスはその場で少し体を動かし準備運動をする。
「お前も来んのか?」
「いえ…私はまだ一応護衛軍の副隊長として行動したいので…」
「そーか。んじゃ、行ってくるわ」
「十分にお気をつけて…」
ゼクスはヤオに向け軽く手を上げると、振り返る事無く部屋の扉を開けた。
その瞬間、ゼクスの姿は一瞬にして消え去った。
「天魔流…なかなか興味深い組織だ」
ヤオは怪しげな笑みを浮かべ、ゆっくりと廊下を歩き始めた。
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「どこだ?ここ」
扉をくぐったゼクスが辿り着いたのは天井が高く、とても広い不思議な空間だった。
部屋の奥を見ると、足下から伸びる赤い絨毯の先に階段があり、その階段の上には豪華な装飾の施された椅子が二つ置かれていた。
「なんだ?誰もいねぇな…やっぱあいつ騙しやがったか…?」
ゼクスがそんな事を考えていた時だった。
「ここまで辿り着くとは…流石は天魔流と言ったところか…」
どこからか声が聞こえてくる。
「声…?誰だ!!どこにいやがる!!」
ゼクスは大きな声でそう問いかけるが、その問いに返答は無い。
「だが残念…。帝王、ヒョウ・リンは今し方お逃げになられた…もうこの勅令室にはお前らの目的はいない」
「チッ、逃げやがったのか…案外ビビりだな!!武道の国なんて呼ばれてる所の帝王だからもう少し骨のある奴かと思ってたぜ!!」
「ヒョウ・リンはもう年だからな…戦う能力は落ち始めている。それに、こういう状況では頭を守るのが最優先…。頭さえあれば、そこから再生はいくらでも可能だ」
「そーかよ…。ま、後で探しゃあいいし、誰か他の奴が殺してくれんだろ。…それよか、俺は今お前と猛烈に戦いてぇ。こそこそ隠れてしゃべってねぇで早く出てきてくれよ…。でなきゃ、俺は今から帝王をぶっ殺しに行っちまうぜ」
「ふん、噂通り天魔流は血生臭い集団だ…。まぁいい、どちらにせよお前らを殺すのが俺に与えられた仕事…望み通りお前と戦ってやろう…!」
声の主がそう言った瞬間、ゼクスの上空に突然無数のカラス達が現れた。
「カラス…?」
カラス達は「ガァー、ガァー」と野太く、どこか不気味な声をあげながらぐるぐると部屋の天井付近を旋回している。
すると、突然カラス達は急降下しゼクスの前に舞い降りてくる。
そして、カラス達はどんどんと集まっていき次第に集まったカラス達の姿が変化していく。
「お前がクロウスか…!」
集まったカラス達は最終的に一人の人間の形になり、その人間はギロリと鋭い目でゼクスの方を睨みつける。
その人間は黒く、首元にファーのあるコートを見に纏い、口元にはカラスの嘴を型取った不気味なマスクを身につけている黒髪の男だった。
「いかにも…俺は帝王護衛軍隊長、クロウスだ。よろしく頼むぞ、天魔流のゼクス」
「よろしくされる覚えはねーが…俺の名前を知ってるとは嬉しいじゃねぇか」
「当たり前だ、最近じゃあ噂を聞かない日は無いほどお前らは有名だ。…それに、俺はお前ら天魔流の"ファン"でもある」
「ファン?」
「…俺は生まれついてからひたすらに殺しの世界で生きてきた。そんなどうしようもない奴らの中じゃあんたらはカリスマ的存在だからな…。戦えるとは光栄だ」
「ふん、カリスマね…俺たちも"そこまで来ちまった"って事か…。まぁいい、ファンだからって容赦しねーぞ…俺たちにも仕事ってもんがあるからな」
「分かっている…俺も"雇われの身"とはいえ護衛軍の隊長だ…。ここで必ずお前を食い止めさせてもらう…!!」
「行くぜ…!」
「来い…天魔流…!!」
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サイの国の宮殿、勅令室下の隠し通路内…。
「帝王様、お急ぎ下さい…!」
護衛軍の兵士数人に導かれ、白髪の男、帝王ヒョウ・リンとその妻マオ・リンは薄暗い地下通路をひたすらに進んでいた。
「クソッ、ヤンとチャンめ…我々リン家を裏切った罰、必ず与えてくれる…!!」
「あぁ、二人が裏切るなんて…ワタクシの育て方が間違ってたって言うノ…?」
そんな事を呟きながら地下通路を進んでいると、通路の先に誰か立っているのが見えた。
「あれは…スー様!」
「お父様、お母様、無事だったネ!よかったヨ!!」
「おぉ、スーよ、お前こそ無事でよかった…しかし、なぜお前がここに?」
「今、この奥の出口の先には天魔流がウロウロしてるネ…もし鉢合わせたら危険ヨ。私はそれを伝えに来たネ」
「この先に天魔流か…クソ、ならこの先の分岐を左に逸れよう。そうすれば別の出口へと繋がっている。スー、ありがとうな」
そう言うと、ヒョウ・リン達は地下通路を進み、分岐を左へ逸れて行った。
(ふー、案外うまく行ったな…。このスー・リンが信頼されてるようで助かったよ…。これであとは待機してるブルとキャサリンに帝王達を殺してもらうだけだ。…そう言えばゼクス達大丈夫かな…。ま、あの二人なら大丈夫か!俺はここで少し待機しよっと)
スー・リンの姿のエルは大きく伸びをすると、その場に座り込み大きなあくびをこぼした。
続く。
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