第64話 反乱軍諜報隊長
「チッ…あいつどこ行きやがった…!」
ゼクスは地下牢から飛び出し、薄暗い廊下をひたすらに走っていく。すると、廊下の奥に階段があるのが見えた。
「あそこから上登れそーだな…」
ゼクスは階段を素早く駆け上がっていく。
「ここは…」
地下牢の階段を登ると、そこは全てが眩しいピンク色で揃えられた不思議な部屋だった。
「なんだ?ここ…ある物全部ピンクじゃねぇか…きもちわりぃ…」
ゼクスは引き攣った表情のまま部屋を見渡す。
その時だった。
「ここは先程あなたに紹介したエイ・リン様のお部屋です。いや…部屋だったと言うべきか…」
ゼクスの背後から声が聞こえてくる。
「…っ!」
ゼクスは咄嗟にその場を離れ、後ろへ振り返った。
ゼクスが先程まで立っていた場所にいたのは、糸目の男バオ・ランバイだった。
「てめぇ…のこのこ逃げたと思ったらまた現れやがって…。護衛軍の副隊長さんなら帝王の一族は守る対象なんじゃねぇのか?」
「えぇ、そうですよ。私は護衛軍の副隊長ですから、帝王様とその一族をお守りするのが仕事です…」
「だったら何ですぐ逃げやがったんだ?俺にびびっちまったか?」
ゼクスはふん、と鼻で笑いバオの方を睨みつける。
「まさか、びびってなどいませんよ。…そろそろいいでしょう。あなた達に本当の事をお話ししても」
「あ?本当の事?」
そう言うと、バオは突然その場に膝をつく。
いきなりの事に、ゼクスの頭の中には?が飛び交っていた。
「なんで跪いてんだ?お前…」
「申し遅れました…私、ヤン・リン率いる反乱軍の諜報隊長を務めております、ヤオ・ルンバイと申します」
「反乱軍の諜報隊長…?ヤオ・ルンバイ…?って事は要するにお前はヤン・リンの所のスパイって事か?」
「まぁ、そう言うことになります…。要するに、私とあなた方天魔流は手を組むべき仲間、という事になりますね」
その言葉を聞き、ゼクスは怒りの顔を浮かべ大声を上げた。
「仲間だと!?俺の事罠にかけて地下牢にぶち込んだくせに!!許さんぞ!!バオ・ランバイ!!」
「ですから、私の本名はヤオ・ルンバイです。…罠にかけた事は謝ります。申し訳ありません…。あれも敵を欺く作戦の一つだったのです」
「あぁ!?敵を欺く作戦!?」
「えぇ、敵を騙すにはまず味方から、等と言うでしょう?天魔流の誰かしらを罠にかけそこへ奴隷好きのエイ・リンを連れていく…。そして油断した所を天魔流の方に殺して頂く、そんな作戦だったのです」
「なるほど…姑息な事考えやがる…」
「姑息でも何でもいいのです。作戦さえ成功できればね…。それにあれはあなた方天魔流を試す為でもあったのですよ」
「あぁ?俺たちを試す…?」
「えぇ、我らを率いるヤン・リン様が雇った方々だと言っても良い噂は聞かない集団…。ですから、本当に仕事を遂行してくれるか、実力はどれほどかと実際にこの目で確かめておきたかったのです」
ゼクスはその話を聞き、ニヤリと笑みを浮かべた。
「なかなかに注意深い奴だな…。だが安心していいぜ、俺たち天魔流は余程の事がねぇ限りは一度受けた仕事は最後までやり抜く。失敗する時は…俺らが死ぬ時だ」
そう言い放つゼクスの事を見て、ヤオは「おぉ…」と声を漏らす。そして、ゼクスに向けパチパチと拍手を始めた。
「素晴らしい…噂に聞いていた通りの方々だ…。あなた方が仲間であれば百人…いや、千人力でしょう!さぁ、貴方の実力は分かりました…貴方なら護衛軍隊長、"クロウス"とも互角に戦えるでしょう…!」
「クロウス…?」
「えぇ、サイの国帝国護衛軍隊長クロウス…。優れた頭脳と"摩訶不思議な印術"で帝王を守る最後の砦です…!!」
「摩訶不思議な印術…?」
「えぇ…彼、クロウスは"カラス"を自由自在に召喚し操る不思議な印術を使うのです…」
「カラス?あの鳥のカラスか?」
「えぇ、あのカラスです」
「って事は…召喚獣使いって事か?」
「えぇ、おそらくは…。ですが、彼の召喚印術はかなり変わっていてですね?召喚獣の出せる量も凄ければ、自分の体を召喚獣の体の一部に変化させることもできるのです…」
「体を変化…?」
「えぇ…。通常、召喚印術とは"契約"を交わしたこの世界の生物を自らのエネルギーを使い自由自在に具現化して召喚する術…。つまりは実際に契約した生物を召喚している訳ではなく、自らの生体エネルギーで作り上げたコピーを召喚していると言う事なのです」
「へー、そうなのか…。ありゃてっきりどっかから無理やり連れて来てるのかと思ってたぜ…」
「一度契約してしまえば後は召喚し放題ですからね、その生物の生死問わず…。本題はここからです。本来であれば、召喚印術は生物のコピーを召喚するだけ…自らの体を召喚獣の物に変える事など出来ないはずなのです」
「ほぉ…」
「ですが実際、彼はカラスの羽を生やして空を飛んだり足をカラスのものに変え攻撃したり…。まるでカラスと一体化しているような不思議な力を使う…」
「へー…そりゃ不思議だな」
「…これから貴方をクロウスの所へ案内しますが…彼には十分気をつけて下さい。彼は相当な実力者ですから…」
「へっ、そうかよ…なんかワクワクしてきた…!!」
ゼクスは腕をぐるぐると回すと、自らの顔をパチン!!と思い切り叩いた。
「鈍った体のリハビリにはもってこいだぜ…!さぁ、早く案内しろ!そのクロウスって奴の所にな!!」
(全く…噂には聞いていたが天魔流とは恐ろしい組織だ…。敵に回してはかなり厄介だな…)
ヤオはそんな事を心の中で思いつつ、ゼクスと共に部屋を出た。
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「ありゃー、囲まれちゃったよ…」
ブル達とは反対側の扉の先。
たくさんの部屋が並ぶ廊下で、エルは数人の護衛軍に囲まれてしまっていた。
「クックック…!もう観念するヨ!!リン家二女のワタシ、スー・リン様には誰も敵わないネ!!」
スー・リンと名乗る黄色いチャイナドレスにそばかすのある、赤いポニーテルの女性はニヤリと笑みを浮かべると、見下すようにエルを睨みつける。
(うーん…誰か変身できる人いないかと思ったけど…とりあえずリン家の人だしこの人でいいかな…。その前に周りの兵士達をどうにかしないと…!)
「囲まれちゃった…こりゃもうだめかもね…観念しよっかな…」
「フン、それがいいネ!どうせ貴方のようなネズミ一匹ではどうする事もできないヨ!」
「それじゃあ…これで…!!」
エルはポケットから白い球を取り出し、勢いよく地面に叩きつける。その瞬間、あたり一面に真っ白な煙が勢いよく吹き出した。
「これは…煙玉…!!」
「狼狽えるナ!まだ近くにいるはずネ!!」
煙の中、兵士達は五感を研ぎ澄まし周囲を見渡す。
その時、スー・リンの後ろから声が聞こえてきた。
「…キミの姿、借りるね」
「…!!」
スーは咄嗟に振り返る。
その瞬間、エルの右手がスーの体に触れた。
そしてさらに、エルの左手がスーの体に触れたその時だった。
スーの顔が一瞬ににしてエルと瓜二つに変化し、服装や体格までもがエルそっくりに変化した。
「その代わり、俺の姿貸してあげるよ。あとで返してもらうけどね」
そう呟くと、一瞬にしてエルはその場を離れる。
そして今度は、自らの体に自分の左手を当てた。
「奴はどこだ…?早く見つけろ!!」
「絶対に逃してはならないネ!!」
兵士達の声が飛び交う中、徐々に煙は晴れていく。
するとそこには、ただ呆然と立ち尽くすエルと、不適な笑みを浮かべたスーの姿があった。
「いたぞ!天魔流のエルだ!!」
「やれ!絶対に逃すな!!」
兵士達は素早くエルの周りを取り囲むと、薙刀を構える。
「ち、違う!俺はエルじゃ…っ!?」
エルに姿を変えられたスーは自分の口調の変化に驚き、言葉に詰まる。その瞬間を見逃さず、兵士達は数人同時にエルに薙刀を振り翳した。
「カハッ…違う…俺は…スー…リン…だ…」
そう言い残し、エルはその場に倒れ込んだ。
「やったぞ!天魔流の一人を仕留めた!!」
「こりゃお手柄だ!やりましたね、スー様!」
事情を知らぬ兵士達は、エルを殺したと勘違いし喜びの声を上げる。
(まさか今殺したのが自分の守るべき存在だとは思ってなさそうだ…。上手くいってよかった…っと、そうだ死体は五分で元の姿に戻っちゃうんだった…!とりあえず兵士達をどこかへ移動させないと…)
「お前たち、喜んでる場合じゃないネ!まだ敵は四人いる…早く他の奴らを探しにいくネ!!」
「は、はっ!失礼しました!!いくぞ皆よ、この調子で天魔流を全員仕留めるのだ!!」
そう言うと、兵士達は素早く廊下を飛び出して行った。
「ふー、上手く行ってよかったネ…。とりあえず死体を隠して、王を探しにいくネ」
そう言うと、エルは足元に転がる自らの死体を担ぎ歩き始めた。
続く。
投稿は不定期で行います。




