第59話 天魔流
アリア王国の東に並ぶ大国、"サイの国"の帝都"華蘭"。
そのメインストリートに五つの人影があった。
五人は全員、背部に白文字で"天"と書かれた黒いローブを身に纏っている。
「ふぅー、相変わらず華やかでいいねぇこの街は…」
初めに口を開いたのはボサボサとした茶髪で、まるで蛇のように鋭い眼光をした若い男だった。
「ゼクス、ここ来た事あるの?」
次に口を開いたのは長い金髪で、厚めの化粧をした若い女だった。
「まぁ何年か前にな…てか、ここレンの故郷の国だろ?お前来た事ないのか?」
「俺、サイの国でも田舎の出身だから帝都なんて来た事ないヨ…あんまり派手なところ好きじゃないしネ…」
そう答えたのは少し小柄で、斜めにツンツンと伸びた黒髪が特徴的な若い男だった。レンと呼ばれるその男は口元から喉元にかけてを白い×印の描かれた黒いマスクで覆っており、隈の出来た鋭い目でゼクスの方を見た。
「そっか、レンってサイの国出身だったね…!"この仕事"やるの、気が引けたりしないの?」
レンにそう問いかけたのは白い髪のいかにも好青年という印象の爽やかな男だった。男の両頬にはそれぞれ一つずつ、逆三角形の赤いマークが描かれている。
「別に…この国に思い入れなんてないからネ。それに、仕事ならどんな相手でも容赦しない…それが天魔流の約束ヨ…」
「そっか…そうだったね!あ、ブル、帝王の住む宮殿ってこっちだっけ?」
「あぁ、間違いねぇ。こっちだ」
エルの後ろを歩く、口元を黒いスカーフで覆った大柄でスキンヘッドの男はコクリと頷く。
「なぁ、一応確認しとくがよ…今回の仕事はサイの国の帝を殺すって事でいいんだよな?」
「あぁ、あってるよ。依頼人は現帝王、"ヒョウ・リン"の子供の一人"ヤン・リン"。どうやら親であるヒョウを殺して五人いる兄妹の中で"自分が帝の座につく"ってのが狙いらしい」
「へー、なかなか壮大な作戦じゃねぇか…。ま、俺らはとりあえずそのヒョウって奴を殺せばいいんだろ?」
「うん、そう」
「その後この国がどうなろうとオレ達に関係ないからネ…気楽にやれるヨ」
「だな…で、作戦とかはあるのか?エル」
「いや…特に考えてないけど」
「考えてない?そのまま正面突破するつもり?」
「まぁね…一応武闘派のゼクスとレンに頑張ってもらおうと思ってるんだけど」
「別に作戦なんていらねぇだろ、キャサリン。とりあえず突っ込んで歯向かうやつは殺せばいいんだよ」
「そうそう、力でねじ伏せればいいネ」
「まぁあんたらは強いからいいけどさ…。ま、どちらにせよあんたらに作戦なんて考えるのは無理だったわね…いつも突っ込んでばっかだし」
「考えるだけ無駄だぜ。どーせその場の状況で全部変わるんだ。なるようになれって感じでいいだろ」
そんな会話をしながら歩いている時だった。
周りを歩く人々がザワザワと声を上げ始める。
「なぁ…あれって天魔流だよな…」
「間違いないネ…見たことある顔ヨ…」
「下手に近づかない方がいいわよ…何されるか分かったもんじゃないから…」
コソコソと話す声が四方八方から聞こえてくる。
「…どうやら俺たちこの国でも有名人らしいな」
「嬉しいじゃねぇか…こんなとこまで噂が広がってるなんてよ…」
その時だった。
ゼクス達の目の前にふっと何かが動く。
ゼクス達は咄嗟に足を止め目の前の何かに目をやる。
「…貴様ら天魔流だな」
「ここに一体何のようだ」
ゼクス達の前に現れた者。
それは黒いカンフー服に身を包み薙刀を構える白仮面の男女二人組だった。
「ひゅー、派手な出迎えじゃねぇか」
「黒い服に白い仮面…前情報で貰ってた"帝王直属の護衛隊"の特徴と合致するね…」
「わざわざ向こうから出向いてくれるとはなかなか礼儀正しいじゃねぇか…なぁ」
「えぇ、なかなか礼儀が分かってるみたいね」
「…答えろ、貴様らの目的は何だ」
二人は深く構え、戦闘の体制を取る。
そんな時、レンがスタスタと前に歩み出た。
「邪魔ネ…アンタ達と話してる暇ないヨ…」
「…舐めてくれる。まぁいい、貴様らをここから先に通すわけにはいかない。ここで死んでもらおう…!!」
「舐めてるのはどっちか…死ぬのはアンタらネ」
そう言うと、レンはニヤリと不適な笑みを浮かべる。
あまりに不気味なその笑顔に、白仮面の二人は少し怯みを見せる。その瞬間だった。
レンがスッ…とその場から消える。
「消えた…!?奴はどこに…!!」
白仮面の一人がそう声を上げた瞬間だった。
一瞬にして白仮面の二人の体から頭が消え去る。
突然の事に、頭を失った体は時間が止まったかのようにその場に立ち尽くしていた。
白仮面の二人の後ろにレンが姿を現す。
その両手には白仮面の二人の首がしっかりと握られていた。
立ち尽くしていた二人の体の首元から赤い鮮血が吹き出す。
頭を失った体はふらふらと揺れその場に倒れ込んだ。
「ひゅー、相変わらずレンは早ぇな!危うく見失うとこだったぜ」
「まだまだ…仕事久しぶりで体温まってないネ。本当はもっと動けるヨ」
そう言うと、レンは手に持っていた首を地面に落とす。
「怖いなぁ、今ので本領発揮してないって言うんだから」
そんなことを話している時、ゼクスは倒れる二人の体に近づきしゃがみ込んだ。
「しかし、帝王直属の護衛隊っつーからもっと強いかと思ってたけどよ、案外そうでもないのか?」
「まぁ、今のはレンが不意をついたからね…実際ちゃんとした戦闘になったらかなり強いんじゃないかな。サイの国の人って全体的に身体能力凄いし」
「確かに…レンも相当動けるしな…下手したら天魔流一か?」
「いーや、天魔流一は俺か"レギス"だろ?レンより俺の方が動ける自信あるぜ」
「それはないネ…オレの方が動けるに決まってるヨ」
「いーや、俺だね!」
ゼクスとレンは額を合わせお互いを睨み合う。
「ほらほら、喧嘩しない喧嘩しない!」
そこにエルが割って入り二人を引き離した。
「ったく…ほんとあんたら仲良いわね…」
「似た物同士だな…」
キャサリンとブルはそんな二人の様子をまるで保護者のように見守っていた。
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五人は帝の住む宮殿を目指し、再び大通りを歩いていた。
「お、見えて来たな…あれが宮殿か?」
五人は立ち止まると、道の先に聳える巨大な赤い木造の建物を見上げる。
「うん、そうみたいだね…。ってことはここから本格的に敵の本拠地に入る事になる。注意していこうね」
「あぁ、分かってるよ。よーし、久しぶりに暴れられるぜ…なんかワクワクして来たなぁ、レン」
そう言うと、ゼクスは背中にかけている刃が二つついた黒い鎌を抜き取った。
「あぁ…早く暴れたいネ…」
「ったく、お前ら本当に戦闘狂だな…ま、俺も久しぶりに本気で暴れるか…」
「…そう言うあんたもなかなかの戦闘狂じゃない、ブル」
「へっ、まぁな…」
「よーし、それじゃあ久しぶりの仕事始めますか!」
五人は宮殿へと向かって行った。
続く。
投稿は不定期で行います。




