第26話 イリヤとクリス
「くっそ…もう追手が来ちゃったのか…」
茶色く薄汚れた奴隷用の服を身につけた緑髪の少年は建物の影に隠れながらコソコソと辺りの様子を見ている。
少年の横には、同じくボロボロの奴隷用の服を身につけた黒髪の少女が怯えた表情でしゃがみ込んでいた。
「よし…行こう、レオナ」
「う、うん…ベルお兄ちゃん」
少年、ベルは優しく少女、レオナの手を握ると素早く次の建物の影に走り出す。
ベルはまた身を隠しながら様子を伺う。
「はぁ、はぁ…絶対に捕まるもんか…!もうすぐ目の前に自由が待ってるんだ!」
そんな時、二人の後ろから"勇"という字の書かれた白を基調としたロングコート、そして黒色のズボンを身につけた男が二人現れた。
「見つけたぞ、奴隷!!本部に連絡を!!ナックルさんに連絡するんだ!!」
片方の男がそう言うと、もう片方の男は通話の印使い連絡を取り始める。
「くそ…こっちだ!レオナ!」
ベルはレオナの手を握ると、民家と民家の間を勢いよく走り出した。
「あっ!待ちやがれ!!」
男たちは二人を追い走り出した。
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「はぁ、はぁ…しつこいな…!レオナ、先に行っててくれ!」
「う、うん!」
そう言うと、ベルは追いかけてくる男たちの方へ振り返る。
「緑壁!」
ベルはマライア邸から盗んだ鉄の剣を背中から抜き取り、地面に突き刺す。
すると、狭い民家の間に巨大な植物のツルが生え出し壁の様に道を塞いだ。
「なっ!?くそっ、道を塞がれた!!」
「なんて硬さの植物だ…!仕方ない、他の道から回り込むぞ!!」
そう言うと、男たちは別の道へ向かい走っていった。
「ふぅ…剣を盗んできてよかった…。そんなことよりレオナを追わないと!」
ベルは薄暗い民家と民家の間の道を駆け足で進んでいった。
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「見つけたぜ…お嬢ちゃん」
道の奥の広い通りから男の声が聞こえてくる。
「きゃあ!やめて!!」
それに続き、レオナの悲鳴も聞こえてきた。
「まずい…!レオナ!!」
ベルは声のする方へ走っていく。
すると、道の真ん中には先程の男たちと同じ服装に"勇"と書かれた白いマントを身につけた黒い短髪の男が立っていた。
男の後ろには、先程の男二人もいる様だった。
「レオナ!!」
ベルは男たちの前に座り込むレオナの方へ駆け寄っていく。
「おっと、もう一人の奴隷も勝手に来てくれたなぁ。こりゃ楽でいい」
マントの男はニヤリと笑う。
「くそ、早く逃げないと…!」
「無駄だ。この道はすでに"勇者団"の兵士達に囲まれてる。お前らに逃げ場はねぇよ、奴隷ども」
「奴隷奴隷…うるさいんだよ!!」
ベルは剣を抜き、マントの男の方へ走っていく。
「ベルお兄ちゃん!」
「俺は絶対に逃げ切る!レオナと自由に暮らすために!!」
ベルは思い切り剣を振る。すると、ベルの左手に緑色の紋章が浮かび上がった。
ベルの振った剣は太い植物のツルのように変化しマントの男の顔面へ向かって行く。
「…無駄無駄」
そう言った瞬間、マントの男の顔が黒く変色する。
植物のツルは黒くなったマントの男の顔に弾かれ地面にぶつかった。
「弾かれた!?」
「無駄だと言ったろう…。この俺、ナックル様の鋼鉄の体には攻撃なんか通らない…」
ナックルはそう言うと、ベルの方へ歩き出す。
ベルは剣を構え、後ろへ後ずさって行く。
「さぁ、こっちも暇じゃ無いんだ。とっととくたばって貰うぜ」
男の手が黒く変化する。
そして、勢いよくベルの顔面に向け拳が放たれる。
「ぐぁぁ!!」
ベルは殴り飛ばされ、民家の壁に勢いよくぶつかる。
「がはぁ…くそ…」
「さぁ、大人しく掴まれよお嬢ちゃん。痛い目に遭いたくなかったらな…」
勇者団の兵士数人がレオナの周りを取り囲む。
「く…そ…!!レオナ…!!」
ベルが手を伸ばしたその時だった。
「はいはーい、そこまで」
兵士の間をぬって、二人の男が歩いてくる。
「こら!勝手に入るなと…!!」
勇者団の兵士達をくぐり抜けナックルの前に現れたのは白髪の男イリヤと茶髪の男、クリスだった。二人はナックル達と同じように白いコートと黒いズボンを身につけている。
「なんだ?お前ら…見ねぇ顔だが?」
「私達は勇者団の本拠地から研修に来ました、イリヤとクリスです。よろしくお願いします」
二人は頭を下げると、ナックルの前へ立つ。
「邪魔だ。今逃げ出した奴隷どもを…」
「おっと、それなんですけど…知ってます?勇者団の取締り対象の中に奴隷の売買、所有なんかの奴隷関係の全てが含まれてるの」
イリヤはニコッと笑いながら奴隷についての項目が書かれた紙をナックルに見せる。
「なっ!?そ、それは…」
「…この町を見たところ、どうもみんな奴隷を良しとしてるみたいですね」
イリヤに続き、クリスもそう呟く。
「くっ…」
「これは本部への報告案件ですね…。それと、奴隷を保有してる富裕層の取り締まりもしないと…」
「なっ…!!テメェら!!調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
ナックルはイリヤに向け拳を放つ。
しかし、イリヤはいとも簡単にナックルの拳を避けた。
「おっと、一応同じ勇者団同士ですよ?暴力はやめましょうよ」
「ま、これらのことはまず第四支部の支部長に話を聞かないと…。とりあえず、その奴隷達を解放してあげてください」
「くっ…分かったよ!!…てめぇら!!」
ナックルがそう言うと、レオナを取り囲んでいた兵士達は後ろへ下がる。
「さ、君たちは行っていい。もう自由だ」
「あ、あの…ありがとうございます!!」
レオナはそう言うと、深々と頭を下げる。
「いいんだよ。さ、あの少年を連れてここから離れるんだ」
「は、はい…」
レオナはベルの肩を支え、勇者団の兵士達の間を通って歩いて行った。
「さ、どうします?ここで私たちと戦います?それとも、大人しくこの場を離れます?」
その質問にナックルは怒りを覚えながらも、実力の差を感じ振り返る。
「おい、お前ら!戻るぞ。仕事は終わりだ」
そう言うと、ナックル達は道を歩いて行った。
「…全く、相当好き勝手やってるみたいだねぇ」
「うん、まさか奴隷まで認めてるとは…。こりゃあなかなか酷いかもしれないな…」
そんなことを話しながら、イリヤとクリスは第四支部の拠点へ向かい歩き出した。
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「へー、本当に茶色いな…」
アラン達は果て無く広がるブラウンリバーを眺めながら話をしていた。
「っていうかデカすぎだね…」
「本当ね…想像の何十倍も広いわ…」
ブラウンリバーの大きさに圧倒されながら、三人は今後の予定を考えていた。
「この後どうする?」
「私お腹すいちゃった…」
「確かに昼ごはん食べれて無かったわね…それじゃあどこかでご飯を食べましょうか」
「それ賛成!!」
そう言うと、三人はまた町の中へ戻り食事処を探し歩き始めた。
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「ダンテさん!!」
薄暗いバーで酒を飲むダンテの元に、男が駆け寄ってくる。
「なんだ?騒がしい…」
「バーガーとディオゲインを倒したガキ共がこの町…ブラウンハーバーに来てる見たいなんです!!」
「なんだと!?そりゃあ本当か!?」
「はい、仲間が確かに光の紋章を持ったガキを見たと…」
「そうか…ハッハッハ!!向こうから来てくれるとはなぁ」
そう言うと、ダンテは瓶の酒を勢いよく飲み干す。
「行くぞ、テメェら。奴等にはきっちり、借りを返さねぇとなぁ…!」
ダンテと手下の男たちはバーを後にした。
続く。
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