第16話 "生気"を抜き取る悪魔
※2024年7月6日→印術の説明に細かな補足を入れました。
「よし、それではまず印術について軽く教えよう。印術というのは昔、紋章と共に"二百年前の戦争時"に女神様から授かった力の一つと言われておる。これは紋章とは違って"全ての人々が特訓さえすれば開花できる能力"じゃな。もともと"生まれ持ってくる者"もおるがの…。力の源は紋章と同じく術者の"生体エネルギー"。その量や質によって効果は変わる」
「へー、紋章とか印術って"生体エネルギー"っていうのを源にしてたんだ…」
「うむ、そうじゃ。その辺りの説明は専門外じゃから省くとして…印術といってもさまざま合ってな、対象者の傷を癒す"回復印術"、召喚獣を呼び出す"召喚印術"、相手に攻撃を与える"攻撃印術"、自分を守る"守護印術"、紋章を使い空間移動をする"空間印術"、そして、対象者と契約する"契約印術"等様々…。その中でも凶悪な力を得られるものは"闇印術"と呼ばれ、各地の責任者が存在自体を隠し、管理しておるらしい。…これが印術の概要じゃな」
「なるほど…」
「あら方基本形は決まっておるようじゃが、印術使いの"鍛錬"や"応用次第"によっては"独自の術"を生み出す事もできる。癒の印も一応は"回復の印の派生術"じゃな」
「へー、結構自由が効くんだ…」
リサは手帳とペンを持ち、ローズの言葉をメモしていく。
「ま、今回教えるのは"回復印術"じゃ。回復印術は印術の中でも比較的覚えるのは簡単でな。回復の印であれば多くの者が覚えられるじゃろう」
「そうなんですね…」
「うむ。さ、早速始めようかの。まず、印術を開花させるにはイメージトレーニングが重要じゃ。お主の使いたい印術を心を落ち着けてイメージするのじゃ」
「心を落ち着けてイメージ…」
リサは地面に座り込むと、目を閉じ大きく深呼吸した。
そして、今まで見てきた回復印術を思い返しイメージを広げていく。
(回復の印…癒の印…どっちも手をかざして使ってた…。そのイメージで…)
リサは目を瞑ったまま、まるで自分が回復印術を使っているかのように想像していく。
「ある程度イメージができたら自分がどのように印術を使いたいか詳しく考えるのじゃ。例えば、"仲間を助けたい"…とか、"これを使って医療兵になりたい"…とかな。なるべく具体的な目的を持つと開花させやすいはずじゃ」
「具体的な目的…」
(私は…私はこの印術を使えるようになりたい…。アランやエルザが傷ついた時、すぐに助けられるように…!)
そう目的をイメージした時だった。
リサの手の甲が眩く光り始める。
「おぉ、この光は…いいぞ、その調子じゃ!」
やがて光はリサの体を包み込み、キラキラと輝きながら消えて行った。
「はっ…!!」
リサは勢いよく目を開く。
「一体何が…」
「リサよ、右手の甲を見てみなさい」
ローズにそう言われ、リサは自分の右手の甲を見る。
「これは…」
リサの右手には、"白い円の中に星が描かれた紋章"が浮かび上がっていた。
「それが回復印術の紋章…。こんな短時間で印術を開花させるとは、なかなか有望な若者じゃ!」
「これが印術の紋章…」
「主に能力を得られる紋章は左手に、印術の紋章は右手に現れる。それが紋章と印術の違いの一つじゃな」
「なるほど…これで回復印術が使えるんですか?」
「あぁ。まぁ、最初は擦り傷を治せる程度じゃろうがな。あとは、使っていく中でどんどんと成長していくじゃろう。癒の印を使えるようになるには相当な経験が必要じゃ。お主はまだ若い。色々と経験を積むことじゃな!」
「ありがとうございます!お陰で印術を開花できました!」
「なぁに、お主の才能じゃよ。さ、これでわしの印術授業はおしまいじゃ!家でアランくん達を待つとしようかの…」
そう言い、二人が小屋に入ろうとした時だった。
「おーい!二人ともー!!」
森の奥から声が聞こえてきた。
「あ、ちょうど帰ってきたみたいですよ!」
「みたいじゃな、さて、ミネラバはどうなっておったのか…」
「聞いてくれ!二人とも!ロマーニさんに怪我をさせた奴が分かったんだ!」
アランは息を切らしながら口を開く。
「なんと…本当か!?」
「はい、ミネラバでたまたま話を聞いて…。ミネラバにいた"ディオゲイン"って男がロマーニさんを痛い目に合わせたって言ってたんです…!」
「"ディオゲイン"じゃと!?」
その名前を聞き、ローズは驚いた表情を浮かべる。
「知ってるんですか?」
「"ディオゲイン"はこの辺りの裏の流通を仕切る男…。主に名産品のある町や村を乗っ取っては住民達を奴隷のように扱い働かせ、得た商品を裏ルートで犯罪者組織に販売する…。昔からよく名前を聞いてはいたが、まさか奴がこの周辺に現れるとは…」
「とんでもない奴だな…!許せないぜ…!」
「でも、ディオゲインはなんでミネラバに来たんだろう…」
「恐らく、"黒耀鉄"が目的じゃろう…。あれはこの辺りの鉱山でしか取れぬ希少な鉱石じゃからな…。そして、この辺りで繋がっているであろう組織といえば…」
「"暗黒騎士団"か…!」
「うむ。奴は恐らくミネラバを乗っ取り、黒耀鉄を暗黒騎士団に売りつけている…。このままではまずいな。町民の命はもちろん、黒耀鉄はミネラバの収入源…。全て取られてしまえば町の存続すら危うくなる…」
「それはまずいですね…なんとかしなきゃ!」
「でも、何か変だったんだ!」
「変?」
「うん…。まるでゾンビみたいに"生気を失った人"がいたり、"鉄屑でできた人形"が鉱石を掘ってたんだ…。きっと何かあるはずだよ…」
「生気を失った人…鉄屑の人形…。うむ…とりあえず、ロマーニに話を訊けば何か分かるかもしれん。ロマーニが起きるのを…」
ローズがそう言った時だった。
「ローズさん…お久しぶりです」
小屋の中から、フラフラとロマーニが出てきたのだった。
「ロマーニ!目が覚めたのか!」
「えぇ、まだフラフラしますけど…」
「大きくなったなぁ…わしが町にいた時はまだ子供だったのに…」
「まぁもう十年以上経ってますからね…。そうだ、助けてくれたの君たちだろ?ありがとう!」
そう言うと、ロマーニは深々と頭を下げる。
「いえ、いいんです!困ってる人がいたら助けるのは当たり前ですから!」
「そうか…心優しいな。…そうだ!ローズさん、話を聞いてくれ!ミネラバが…みんなが大変なんだ!」
「あぁ、お主の状態を見れば一眼でわかった…。だが、一体何があったのじゃ…」
「町の仲間が…俺の家族が…"生気"を抜かれちまったんだ!」
「生気を…」
「抜かれた!?」
「あぁ、そうだ…。あれは二週間ほど前…。俺たちはいつも通り鉱石掘りをしていた。そんな時、ディオゲインと名乗る大柄の男がやってきて、いきなりこの町は俺がもらう!なんて言い出したんだ…。流石の俺たちもはいそうですかなんて言えるわけなくて、抵抗したんだ。そしたら…奴は町の連中の体から透明な何かを抜き取ったんだ!」
「透明な…何か?」
「あぁ、どうやらそれが"生気"らしい。そして奴は町の連中の"生気"を抜き取り、手下の作った"鉄屑の傀儡人形"に抜き取った"生気"を入れたんだ!」
「傀儡人形に生気を入れる…なるほど、それで傀儡人形が一人でにピッケルを振ってたのか!」
「あぁ、その通りだ。あれは紋章の能力。"生き物から抜き取った生気を道具や人形に入れる事で奴隷として操ることができる"…。そう奴は言っていた。俺は仲間達の生気が抜き取られていく中、家族を連れ何とか逃げた。しかし…生気を入れられた傀儡人形に襲われ、家族は生気を抜かれてしまった…嫁も、子供も…」
「生気を抜き取られるとどうなるんですか?」
「生気を抜き取られた人間は、まるで人形のように感情を失い、ただぼーっとしているだけになってしまう…。最低限の飲食や生活は出来るみたいだが、喋ることも、笑うことも無くなってしまうようだ…」
「…さっき村で見た男の人は生気を抜かれてたからあんな風になってたんだね」
「そう言うことだったのか…。くそ、何て奴だ、ディオゲイン…!」
アランはギュッと拳を握りしめる。
「ロマーニさんの家族はまだ町に?」
「あぁ、何度か家族だけでも救いにとミネラバに行ったんだが…手下にやられてしまってさっきの有様さ…。くそっ、情けない…。俺にもっと力が有れば…!」
ロマーニは悔しそうに俯き、手に力を込める。
「…話は分かりました。俺たちが何とかします!」
そう口を開いたのはアランだった。
「話を聞いてるだけでムカついてくるわ…一髪殴らないと気が済まない!!」
「本当だね…。暗黒騎士団とも繋がってるっぽいし」
それに続き、リサとエルザも声を上げる。
「た、たしかにさっき助けてくれとは言ったが…。やはり危険だ!関係ない君たちを巻き込むわけには…」
「いいんです!困ってる人を前にして何もしないなんて嫌だし!」
「そうそう!それに、私たちもともとミネラバによるつもりだったんです!だからそのついでです!」
「君たち…」
そう言われ、ロマーニは戸惑った表情を浮かべる。
ローズはそんなロマーニの肩に手を当てゆっくりと口を開いた。
「ロマーニや、この子達を信じてみようじゃないか」
「ローズさん、しかし…」
「見てみなさい、この子達のまっすぐな目を。この子達ならきっと、ミネラバを救ってくれるはずじゃ。私たちは戦えない。なら、戦える人達に頼るしかないんじゃよ」
「ローズさん…。…そうだな、申し訳ないが君たちを頼らせてくれ。改めて頼む、俺の…俺たちの町を助けてくれ!!」
ロマーニは改めて頭を深々と下げる。
「はい、必ず救って見せます!…待ってろよ、ディオゲイン!!」
こうして、アラン達は打倒ディオゲインを目指し、ミネラバへ向かうのだった。
続く。
投稿は不定期で行います。




