第10話 世の中の"事情"
「それで、問題って?」
四人はエントランスのテーブル席に座り、状況の確認を始めた。
「実は…ダンテのいるバービルデに上納金を納めに行ったんですけど、突然いつもの倍の値段を要求されて…。明日の12時までに改めて持っていかなければならないんです」
マーラは俯きながらそう呟く。
「ダンテ…私も聞いたわ。確か暗黒騎士団の幹部って言ってたわね…」
「暗黒騎士団の幹部か…。だとするとなかなか厄介そうな相手だな…」
ダンテについて話している時、エルザはぎゅっと手を握り締めぼーっと一点を見つめていた。
「どうしたの?エルザ」
リサが心配そうにエルザに声をかける。
「…実は、私ずっとダンテを探してたんだ。奴に恨みがあって」
「恨み?」
「うん…。今から5年くらい前かな…その頃私はジャカ村って所に住んでた。ジャカは自然が多いところで、よく親の畑仕事を手伝ってたよ。…奴が来るまでは」
「奴?」
「…ダンテだよ。ある日突然、奴は手下を連れてジャカに来た。その時奴は何かを探してたみたいでね、それを探すために村をめちゃくちゃにして抵抗する村人達を虐殺した。私のお父さんも私を守るためにダンテに…。」
「… ひでぇな」
「最低ね…」
アラン、リサ、マーラは暗い表情でエルザの話に聞き入っていた。
「それ以来、私はずっとダンテを探してた。まさかこんなところで出会えるなんてね…」
そう呟いた時、エルザはギュッと拳を握りしめた。
「まさか、復讐を?」
「えぇ、そう。私はその為だけに生きてきた。…盗みした人に頼めたことじゃないんだけど…お願い、ダンテを倒すのを手伝って!!」
そう言うと、エルザは勢いよく頭を下げた。
「ダンテ…話を聞いただけでむしゃくしゃするぜ。なぁ、リサ、なんとかならないか?」
「うーん…あっ!そうだ!私宿屋の店主さんに勇者団の第四支部の通話番号を聞いたの。まずここに連絡してみるのはどう?」
「勇者団!?まじで!?早速連絡してみようぜ!」
「そうですね…連絡してみましょう!それじゃあ私が通話の印で連絡してみます!」
そう言うと、マーラは左手の甲に触れる。
すると、白い印がゆっくりと浮かび上がってきた。
「この通話の印というのは、通話の印を持つ人同士印を通して会話できる術で、連絡したい相手の通話の印の番号を書き込むと連絡できるという仕組みになっているんです」
そう説明しながらマーラは白い印に004と数字を書き込む。
すると、白い印が強い光を放ち始めた。
「へー、すごいな…」
「こんな便利な印術もあるのね…」
「番号が被ったりすることはないの?」
「他の人が使ってる番号の羅列は基本使えないようになってるみたいですね…被った所を見たことが無いので詳しいことは私も分からないんですが…」
「そうなのか…印術って不思議だな…」
「本当、すごい不思議ね…」
アラン達はキラキラと目を輝かせながらマーラの手の甲を見つめる。
「あ、そうだ…。エルザ、勇者団に報告しても大丈夫?」
「うん、私たちだけでなんとかするのは難しいと思うからね。…奴は相当強いし」
「そう…分かったわ、じゃあこのまま…」
そう言うと、リサはマーラの手の甲へ目線をもどす。
「どうです?つながります?」
「うーん…あ!」
アランがそう聞いた時、マーラの手の甲から女性の声が聞こえてきた。
「あー、あー…こちら勇者団第四支部です。ご用件は?」
印の向こうの女性は事務的な声で淡々とそう問いかけて来る。
「あの…今クロッカスの街から通話の印で繋いでるんですけど、ここにいるダンテって男が好き勝手やっていて住民が困ってるんです!なんとかなりませんか?」
リサがそう聞くと、印の向こうの女性は少しの間黙り込む。それから、また事務的な声で話を始めた。
「それは暗黒騎士団のダンテ、でよろしいでしょうか」
「えぇ、そうですけど…」
「…申し訳ございません、その件に関しましては我々では対処することはできません」
「え?どうして…」
思っていたのとは違った返答に、アランは大きな声を上げる。
「こちらは上からの指示ですので私には詳しいことは分かりません。申し訳ございません。他に用件はございますか?」
女性は声色ひとつ変えず、淡々と話を進めていく。
「なんで…ああいう奴をなんとかするのが勇者団じゃないの!?」
あまりの対応に、リサは怒りの声をあげる。
「それは確かにそうですが…世の中にはさまざまな"事情"と言うものがあります。あまり首を突っ込まれるのはおすすめ致しませんよ。他に用件はありますか?」
「っ!」
あまりの怒りに、リサの手がプルプルと震え出す。
「リサ、落ち着け!…とりあえずレオンさんだ、レオンさんがいないか聞いてみてくれ!」
「…分かったわ」
リサは怒りを抑え、マーラの手の甲を口元に運ぶ。
「今そこに勇者団のレオンさんはいます?」
「レオンさんですね、確認致します。少々お待ちを」
そう言うと、女性の声は途切れ静寂が訪れる。
少し経つと、再び女性の声が聞こえてきた。
「…申し訳ございません、レオンさんは既にブラウンリバーを渡る船に乗船してしまっておりまして…。恐らく引き返すのは不可能かと」
「不可能?どうしてですか?」
「ブラウンリバーは世界最大とも言われる超巨大河川…。渡る手段は船しかありませんし、船では約半日以上かかります。既に出港しているようですし…引き返すのはなかなか難しいかと」
「そんなにデカい川があったのか…。知らなかったぜ」
「他にご用件はございますか?」
「もう大丈夫です」
「では、またのご利用お待ちしております」
女性のその声を最後に、通話は途切れ音は聞こえなくなった。
「…もー!なんなのあの受付!!」
リサの怒りが爆発し、リサは思い切りマーラの手を引っ張ろうとする。
「ちょっ!待て待て!それマーラさんの手だから!!」
怒りに満ち溢れるリサをアランはなんとか抑え込む。
「…勇者団と暗黒騎士団。なんか繋がりがありそうだね」
エルザがそう呟くと、暴れていたリサは急に落ち着きエルザに問いかけた。
「繋がり?例えば…?」
「例えば…暗黒騎士団を取り締まらない代わりに上納金の一部を勇者団が貰ってる…とか」
「ちょ、ちょっとまてよ!勇者団がそんなことするわけ…」
「そーかな?今の感じ、あってもおかしくなさそうだけど。もちろん、勇者団全体で繋がってるかは分からないけど、第四支部だけ繋がってるって事はあるかもね。ここはアリア王国の南側…。勇者団本拠地があるのは確かブラウンリバーを渡った北側。第四支部は孤立した支部。つまり、こっそり繋がりを持ってても隠しやすい。それに、さっきレオンさんはベントスを躊躇なく捕まえてたしね」
エルザの話を聞き、アランは確かに、と納得して首を縦に振っていた。
「エルザの言う通り、勇者団本隊とは繋がってはなさそうね…。だけど、第四支部と何かしらの繋がりがあるのは確実ね。…さぁ、これからどうする?」
「そらぁ、決まってるだろ」
そう言うと、アランは勢いよく立ち上がる。
「今からダンテの店に行く!勇者団が頼れないなら俺たちだけでやるしか無いからな!」
「そう言うと思ったわよ…ま、あんたが行くってんなら私も着いてくわ。エルザは?」
「二人共、本気で言ってるの!?君たちじゃダンテには勝てない、奴はそれだけ強い…。無駄死にするだけだよ!?」
エルザのその問いに、アランはにっと笑ってみせる。
「困ってる人がいるんだ、その人達を助けるために命をかけられなきゃ一人前の勇者にはなれないだろ?」
「っ!!」
(なんで真っ直ぐな目…。あの時感じた感は間違ってなかったのかもね…。彼なら、本当にダンテを倒してくれるかもしれない…!)
「ふふ…ふふふ!」
突然、エルザは笑みを浮かべる。
「な、なんだよ!変なこと言ったか?」
「いや、別に。こんな真っ直ぐな人に会ったの初めてだったからさ。…いいよ、私も行く。みんなで倒そう、ダンテを」
「本当か!?よーし、そうと決まればいざ出陣だ!」
「えぇ、行くわよ!」
「全く、元気なこった…」
エルザはやれやれと首を横に振る。
「ちょっと待って下さい!」
そう声を上げたのはマーラだった。
「ダンテの所に行く前に、ご飯食べって下さい!お腹空いてたら戦えないでしょ?」
そう言うと、マーラは美味しそうなおかずを奥のキッチンから運んで来た。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「あ、運ぶの手伝います!」
「腹が減っては戦はできぬって奴だね。はぁ、お腹空いた…」
こうして、アラン達はダンテのいる酒場ビルデに向かうことを決めたのだった。
続く
投稿は不定期で行います。




