無双
なかなか遅くなってごめんなさい!
アルタイルは失望していた
レッドが援軍に来たかと思えば、自分の仲間達を駒として使い次々とやられていたからだ
しかしそれと同時に、魔力を使い果たし、後衛で回復するのを待つだけの自分の不甲斐なさを悔いていた
思えば最初っから気に入らなかった
仲間を駒としか見ず、演説の時もその駒を増やすためだけに思ってもいないことばかりを言って駒を増やしていったし
あいつの部下達を見る目に熱なんて1ミリもこもっていなかった
だから私が出なければ行けない
これ以上犠牲が出る前に私が守ってあげないといけない
体に鞭を打ちながらアルタイルは立ち上がると前線へ向かう
魔力は八割ほど回復しているし
仲間達も後衛に下がったので狙われる心配もなく、レッドの駒も半数が削られて、残りの半数も逃げ腰で下がりつつあるので守る必要は無い
そして敵の人数も確実に減っている
この状況ならあとは自分一人でも何とかなるだろう
そう考えながら再び前線へ戻ると、目の前の光景に絶句した
ーーーーーーーーーー
「ーーオラァァァ!」
ドォォォオオン!!
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
爆発音と共に、目の前にいた複数の敵が吹き飛ぶ
「これで4分の1か…際どいな…」
ミラが運ばれて行った直後、俺は敵に対する猛烈な怒りに襲われ、その怒りに身を任せて戦っていた
「な、なんなんだあいつは…!聞いてないぞ…!こんな化け物がいるなんて……や、やめろ…来るな…うわぁぁあ!!!」
武器を捨てて逃げようとした敵兵の背中に剣を突き刺す
「…ダメだろ?敵に背を向けたら」
血にまみれた剣を抜くと、ミラを傷つけた奴の前に行く
「お、おい…来るな…!だ、誰か…!誰か!助けてくれ!」
助けを呼ぶも、連鎖爆破の連発によって周りにほとんど兵はいない
爆発音を聞きつけて向かってくるだろうが、人1人殺す時間くらいはある
「さっきは世話になったな。死ね」
「ま、待ってくれ!話をしよう!お…俺は軍でも結構顔が広い…!だから!郡の引き上げも要請することができる!な?いい話…だろ?」
確かにそれは助かる
しかし、今はそんなことよりも仲間を傷つけられた恨みを晴らすことしか考えられない
「…くだらん」
ドスッ…!
「がっ……!」
泣きながら頭を垂れている敵兵のリーダーらしき人物を思いっきり突き刺すと
血を吐きながら崩れ落ちる
「……残り3500…か」
剣に着いた血を払い集まってきた敵軍に向き直ると、後ろから声がした
「あなた…一体何をしているの?」
アルタイルだった
問いかけてくるその目は何故か酷く困惑している
正しいことをしているのになぜなのだろう
「アルタイルか」
「あなたがどうしてこの大軍を1人で相手しているのかしら」
「決まっているだろう。仲間をやられたからだ」
「仲間…?嘘はやめなさい。あなたは自分の部下達を駒扱いしていたじゃない」
「あぁ。だが今は違う、ミラに仲間であることの大切さを教えられたんだ」
「ミラ…あのピンクの髪の子が…」
「だから俺は戦わなくちゃいけない。見殺しにした仲間、駒扱いした仲間、そしてなにより、ミラのために」
それだけ言うとレッドは敵に向き直る
「…なんのつもりだ…」
「あら、助けるつもりはなかったのよ?てゆうか勝手に死ねばいいと思ったわ。でも敵に囲まれちゃって」
「…」
アルタイルと背中合わせになり、囲んできた敵を威嚇しながら話す
「残りの敵は?」
「3500ぐらいだ」
「あら、だいぶ減らしたわね」
「当たり前だ。舐めんな」
「安心して。あなたみたいな汚い男舐める価値もないわ」
「…」
「まぁ、背中は任せてちょうだい。その代わり私の背中も任せるわよ」
「あぁ。じゃあ行くぞ!」
「あなたに命令されたくないのだけれど…」
何か文句をいいたげ(正確には言ったが)な表情をするも、アルタイルは目の前の敵に集中する
「さっきは世話になったわね。安心して。一瞬で殺してあげるから」
「ふっ!この状況で勝てるわけないだろ!馬鹿め!所詮負け犬魔王の配下といったところか!ははははは!」
「……今なんていった」
「あ?負け犬魔王の配下っていったんだよ!」
「…予定変更ね。楽に死ねると思わないことよクソ虫ども」
アルタイルの周りを冷たいオーラが取り巻く
完全にキレている
「んだと!?殺れ!!」
分隊長らしき人物が指示を出すと同時に、周りにいた騎士達が突っ込んでくる
「…小賢しい。生きとし生けるもの、氷の神よ。我にその力を与え敵を荒廃させよ…絶対零度!!」
アルタイルがそう言うと同時に、周りが凍り始め、その氷が敵兵を包み込み、一瞬で分隊長以外の全員の息の根を止める
「…!こ、こんなの出鱈目だ!」
分隊長が叫ぶ
「そうね。私もそう思うわ。でもね、世の中にはもっと出鱈目なやつが沢山いるのよ」
空気を槍状に凍らし、氷槍を作り出す
「良かったわね。死ぬ前に1つ偉く慣れて」
氷槍を分隊長の肩に突き刺す
「ぐぁぁぁあ!!!や、辞めてくれ!俺が悪かった!いや、私が悪かったです!」
分隊長は泣きながら謝り、氷槍を抜こうとする
「残念ね。もう遅いわ。でも自分の非を認めれるのはいい事よ。ご褒美にもう一本お見舞いしてあげるわ」
空いている方の手でもう一本氷槍を作り出し、もう片方の肩に突き刺そうとすると
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
「あっ」
ーグサー
分隊長が抵抗し動いたため、その槍は心臓に刺さりその命が絶たれる
「あら、これからが楽しくなる所だったのに」
惜しいことをしてしまったと思いながら周りを見る。
(もう次が集まってきた…、あまり遊んでいる余裕はなさそうね)
発散しきれなかった怒りの矛先を周りの敵に向ける
「いくわよ」
アルタイルの八つ当たりが始まった