3 魔道士になるために
このエニシアの町の奥には、クリュレス魔道学校という、大きな学校がある。
その日、ジェーダは。そこに赴いていた。
自分に、魔道士の才能があるのか確かめるために。
それが、自分が騎士にならなくてすむ、数少ない道の一つだったから。
「いきなり押しかけてすみません、どうしても確かめたいことがあるのです」
校門の前で、そう呼びかけたら。一人の生徒が出てきた。
切れ長の青い瞳、深い闇のような漆黒の髪。溢れる魔力はジェーダにもわかるくらい濃密で。
「……何の用だ。校長は今はいらっしゃらないが」
氷の刃のような、冷たく低い声。それにもめげず、ジェーダは言った。
「ぼくには魔法の才能がありますか? 確かめてほしいのです」
「……騎士にしか見えない外見だが。それのどこが魔道士だ?」
「……こんなことがあったんですよ」
ジェーダは、あの日のできごとを説明することにした。
「……ほう、危機に陥ったら、魔力が発現したと? 多くの魔道士によくあるパターンだな。……いいだろう。オレはオルヴィオ。この魔道学校の生徒だ。秘められた魔力ぐらいは、探知できるぞ。気になるなら、調べてやってもいいが?」
話のあと、彼は。そう言ってくれた。だからジェーダは、頼んだ。
「お願いします!」
ちょっと待て、と、オルヴィオが近づいていく。そっとジェーダの額に触れ、目を閉じる。
しばらくして。
「……あんた、騎士より魔道士に向いているぞ。転職しろ」
言われた言葉は、期待してはいたが、叶うまいと思っていた言葉。
「……へ?」
「今まで現れる機会がなかっただけだな。あんたは優れた魔道士になるだろう。わざわざ好きでもない騎士になんて、なる必要はない。魔道士の方が、似合っている」
その言葉は、あまりにもうれしくて。
「……ぼくが、魔道士、に?」
「騎士やってちゃ、気付くわけもない才能だ。ちなみに、もうすぐクリュレス魔道学校の入学式が始まる。あんたほどの腕なら、ウチに入れてやろうと校長に掛け合ってもいい。よかったら、来い」
「……ありがとうございます」
「さて、ジェーダとやら。そろそろ帰らねば、心配されるのではないか? オレも、いつまでも暇というわけではないのでね」
「あ、ハイ、すみません、そうします。ありがとうございました」
そしてジェーダは、家路へと急いだ。希望と期待を胸に抱いて。
その夜。ジェーダは師匠に語った。
オルヴィオとの出会いを。自分に、魔法の才能があるということを。
師匠は、口を挟まずに聞いてくれた。
そして。
「よかったじゃないか」
その顔は、本当に嬉しげで。
「君の行く先が決まったんだ。君の父君に、色々と掛け合ってみよう。君は騎士になるべき人ではなかったんだね。これからは、魔道士として、生きるのか。……不思議な感じだね」
「それでも……剣は護身に便利だから、持って行きます。折角、師匠がくださったものですし」
そうするといいよ、と、変わらぬ穏やかな笑みで。師匠は微笑んだのだった。
――道は、できた。
あとは、頭の固い父さんを、説得するだけだ。
まだ続きます。