2 思いの向かう先
目が覚めたら。見慣れたベッドに横たわっていた。
(昨日のことは、夢だったのかな?)
そう思って身を起こしたら。
「……っ」
肩に鋭い痛みが走る。見ると、そこには。新しい包帯が巻かれていた。
「目を覚ましたか」
と、声とともに、誰かが部屋に入ってくる。師匠だ。
「具合はどうだ? 動けるか?」
その顔は、心配げだった。
「……心配かけて、すみません」
「なにもお前が謝ることじゃあない。何かあったのだろう? よかったら、聞かせてくれないか」
「……ことは、ぼくが逃げ出したことからです……」
こうしてジェーダは。事の次第を語ったのだった。
「なるほど。お前を狙う輩がいたとはな」
話を聞いて、納得したように師匠は頷いた。
「これからは、抜け出すときも、剣を持っていけ」
「……師匠は ぼくを怒らないんですか?」
「どうして怒る必要があるね。生きて帰れたんだ、喜ぶべきだろう」
「……でも、ぼくは勝手に抜け出しました。怒られないと、拍子抜けします」
師匠は、優しい瞳でジェーダを見た。
「わたしは、嫌がることを強要はしない。その気になれば、いつでも君を引きずり出せたよ。でもね……わたしは、君の意見を優先させたかったんだ」
優しい言葉をかけられたら。不覚にも涙が溢れてくる。
「……悪い子で……ごめんなさいっ……!」
「よしよし、もう、泣くんじゃないよ」
「師匠は……こんなにもぼくのこと……考えてくれてるのにっ……。勝手に逃げて……心配かけて……ごめんなさいっ!」
うれしかったんだ。変わり者のぼくにも、気にかけてくれる人がいること。家系じゃなくて、れっきとした「個人」を見てくれること。
うれしかったんだ。
その夜。ジェーダは一人、考えていた。
あの時。自分の命を救った、「力」のことを。
デュポワは、あれは魔法だと言った。ジェーダを見て、驚いていた。
――ぼくは、魔法が使えるの?
これまで、無縁だと思っていた世界。そこに、光が差す。
エニシアの騎士見習いが、騎士をやめられる条件。その一つとして、他の職業に適性が見られること、がある。
――もしもぼくが、魔道士に向いていたら。騎士見習いを、やめられる?
いくら剣が使えても。戦うことは、嫌だから。
魔法なら、まだ、人々の役に立てる。
ジェーダは、ある決意を固めた。
まだ続きます。