1 戦い嫌いの少年
思ったより長くなりました。大幅に、ノートに書いてあるのと変えました。ノートって、案外分量あるものですね!
昔っから、戦いが好きではなかった。人が、人を傷つけるだなんて、考えたくもなかった。とことん平和主義だった。
なのに彼は騎士見習い。どんなに嫌でも、剣を取るさだめ。それでも、どうしても嫌だったから。いつも逃げてはしかられる日々。騎士に生まれたくはなかった。
そんな彼でも、剣を持たせれば右に出る者はいない。それは、なんの呪いか。
とにかくその日も。いつも通り、剣の師匠と仲間から逃げていた。
なんだ、けど。
「……ここ、どこ」
十三にもなったくせに、まだ道に迷うとは!
「……どうしようか? 道を尋ねるのが無難かなあ」
よし、そうしようと歩き出した矢先、突如、殺気を感じた。
「!」
嫌いな技術が命を救った。咄嗟に左によけた彼は、すぐ隣に投げナイフが刺さっているのを見た。
「……誰だ!」
「あ~あ、外しちゃったかあ。残念だねえ」
声とともに、木陰から一人の少年が現れた。不敵な笑みを浮かべた、ブロンドの髪の少年だ。
「ぼくに、何の用だ!」
すると、彼はあっさり答えた。
「何の用って、殺しに来たに決まってんじゃん」
「な……!」
「ボクは殺し屋。あんたの才能を恨んだ誰かさんに、あんたを消せって頼まれてね。報酬ははずむらしいし、引き受けたんだよ」
「……剣の才能なんて、要らなかったよ。そいつにあげたいくらいだよ。ぼくは戦いが好きじゃない」
そのせいで命を狙われるだなんて……まっぴらだ。
すると、暗殺者は笑った。
「それはそれは。不幸なことだねえ。……ところでキミ、さあ。――剣を持っていないよね?」
「!」
至近距離で、突如繰り出される怒濤の連撃。剣のない彼は、よけるのに精一杯だ。死ぬ死ぬこのままじゃ確実に死ぬ!
「ぐあっ!」
稲妻のごとき連撃を、いつまでもよけきれるわけもなく。振り下ろされた刃が、彼の肩を大きく切り裂いた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「なに、もうおしまい? 手応えないなあ。もっと耐えて、ボクを楽しませてよ」
暗殺者の少年が、近づいてくる。その命を絶つために。
「く、くるな!」
声がかすれる。少年は聞こえなかったふりをした。
「冥途の置き土産に、ボクのハンドルネームを教えてあげる、戦い嫌いのジェーダ君。ボクは……デュポワだよ。暗殺者のデュポワ。覚えたかい?」
「……っ!」
「じゃあ、もう、お休み」
逃げられないほど近づいてきた彼の、銀のナイフがきらめく――!
そのとき。走馬灯のように短い人生が回りはじめた頭の中で。とても強い思いが、湧きあがってきた。
その思いは。
「――死んで、たまるかあぁぁっっっ!!!」
内から湧きあがってきた思いが、波動となって。『デュポワ』に押し寄せる。
「! これは……魔法!? 馬鹿な……!」
押し寄せてきた波動にのまれ、大きく吹っ飛んだデュポワは。一つの巨木にしたたかに身をぶつけ、思わず息を詰まらせた。
「聞いてない……キミは……魔法使いだった……のか……?」
力を放ったジェーダ自身も、呆然としていた。
「……わからない」
チッ、と、体勢を立て直したデュポワは舌打ちした。
「魔道士が相手なら、ボクも作戦を変えなきゃ……。今日はもう戻る。よかったね、命拾いして」
謎の暗殺者は、風のように去った。まるで、最初からいなかったように。
肩に傷を負った彼だけが、残された。
しばらくして。
「さっき、ヘンな音が聞こえたが……。……って、ジェーダ!? どうした? 何があった!」
よく知った声に、ジェーダは思わず体の力を抜いた。
「ジェーダ! しっかりしろ! わたしがわかるか?」
「……叫ばなくても聞こえてますよ、師匠……」
師匠が来た。もう、安心だ。
「疲れたから……。話はあとでお願いします……」
さっきの魔法で、体力ごっそりもってかれた気がする。
「ぼく……本当に……疲れた……」
絶対安全と分かっている師匠の腕の中で。ジェーダは目を閉じる。静かな安堵とたまった疲れが、体の中を駆け巡る。
「おやすみ……」
そして意識は。穏やかなる闇に、包まれていった……。
まだ続きます。