ちょっとの不安
一
酒場で私たちは話していた。
「で。護衛しながら帰還した奴隷たちの主人は、俺らと同じ日本人だったわけか」
「うん。生前は田村とか言ってた。今はレットらしい」
「昨日の護衛帰還の女の子たちの中に、お前のもと奴隷が居たんだな。やっぱ、気が付かなかったん?」
「……」
「フェイスブラインドって、どんなん?」
「俺は重度じゃないから。俺の場合、人の顔をお覚えるのに時間がかかるって感じ」
「どのくらい?」
「俺は半年もあれば見分けられるようになる」
「長いな」
「長いのか」
「知り合いだと気付いたお前の雰囲気、相当だったな」
「やっぱ、印象は悪いよな。存在がわからないわけではないんだ、顔が分からないんだ。異邦人っぽいし、東洋人である僕から見ればなおさら区別がつかないんだ」
「この世界は、病気に対しての理解がねえ奴らばっかだからな」
「しょうがない」
「うん。しょうがない」
二
昨日のことである。女の子を無事連れて帰ることに成功した。しかし、その仲間というのは元日本人のレット君であった。私はレット君の取り巻きが嫌いだったのだ。しかも、連れて帰る中に、あのエルフの少女が居たのだ。
無意識に体がこわばったのを覚えているが、それ以外は何も覚えていなかった。これほど言いこまれる条件がそろっているのだ。何を言われるか全く想像もつかない。
私は本業で急ぐ納品があると言って逃げたのだった。
あの時、どうやら助けた女の子の中から、提案があったそうだ。元日本人のレット君は大所帯であり、飽和状態にあるらしかった。レット君の目も行き届きにくい。そこで、漏れた人員を私たちについていかせてはみないかと。
私たちがしょうがなく二人行動していたと思っていたのか、むしろ私たちに利点があるというような口ぶりで提案してきたらしかった。
「俺は別にいいかなと思った」ユウキが言った。「それに、弟子も育ったし、俺の居場所がないくらいだし、好きなことしたいなって。どうせお前も気まぐれに仕事受けてくるだけじゃないか」
ユウキはどこかお人よしであるのだ。
「俺は関係ないって」
「そう言わずによ」
「頼まれたのはお前だろ」
そういうが、結局私はお人よしなのだろうか。私はユウキが一人では難しいと泣きつかれ、手助けをすることになった。