私は動き出す
一
私は漸く理解した。人には向き不向きというものがある。私は周りの目に気がとられていたばかりに、本来の目的を見失ってしまっていたのだ。さて。決心がついたなら行動するだけであった。
私は転生した元日本人であるレット君に会いに行く。怒鳴られるのは目に見えているが、だからと言って後回しにするわけでもない。ここで私は断ち切っておかなければならないのだ。
「話があって今日は来ました」
私が彼に合うのは2か月ぶりだろう。それでも彼は私の話を聞いてくれているようだ。あらかじめ日本語の手紙を送ったのが功を成したのだろう。
事前にあらかたの内容は手紙で伝えている。話が思いのほか早くに進んだ。本当は怒られるとばかり思っていたのだが、何一つ怒られないのが意外であった。
どういった内容かと言えば、私の管理下にある奴隷を貰ってくれないかと交渉したのだった。正直、私の手には負えなかったことを告白した。下手に優秀であるばかりに、宝の持ち腐れのようなものだ。むしろ、ただの雇用というわけでなく、無期雇用のような存在であるばかりに従業員として不遇な環境においてしまっている。
そういう説明も良かったかもしれなかった。私は彼と手続きを取り、正式に私から彼に譲渡されたのだ。
「あはははははっ!!」
私は話が終えて、店から飛び出すや、つい大声で笑ってしまった。無性に馬鹿のように駆け出したくなって走り回る。
――なぜこの単純なことが思い浮かばなかったのか
私は宿に戻るや、部屋にあった私の数少ない荷物すべてを処分した。すべてが日記、ノート、それくらいであった。ものという物は、衣服しかなかった。
そして宿にいた奴隷二人に言葉少なめに事情を話して別れを告げた。
二
私は友人のユウキと共にダンジョンに潜っていた。これは紛れもなく遊びである。ユウキはもちろん、私にだって別に本業があるのだ。
私は完全に魔道具職人となり、たまにユウキの診療所で手伝いをするという生活を送っていた。
彼も私も、その気になれば不眠に食事いらずで過ごすことができる。空いた時間で遊びまわるのだ。
「今日のお題はなんじゃろな」
そう言ってユウキはさいころを振る。このさいころにはどういったことで競うか、面ごとに描かれていた。
「お。今日は高級部位の奪い合いか。宝石発掘もありね」
顔を見合わせた瞬間、私たちは一気に駆け出した。
「こればっかりは譲れねええええ! 三度目の正直いいい!! 負けるわけがねえええ!」
「三連敗させたらああああああ!!」
必死になるのは、お題によって罰ゲームがあるからだ。制限時間は夜明けに合わせたアラームが鳴るまでだ。
私たちは浅い階層には高価なものは無いと割り切っているため、一気に深くを目指す。
色々手に入れた中、ふと困ってそうなチームが居た。モンスターハウスにはまって、囲まれているようだった。中にはボスもいるので、瞬殺していく。
「何やってんの啓介。雑魚狩りはポイントになんねえぞ?」
「いや。あれあれ。要救助民」
そう言って私は遅れてきたユウキにわかるように、隅に固まるチームを指した。
「あ。なる。いったん止めるか」
ユウキが駆け寄れば、負傷者が幾人か。意外なことに女の子ばっかりなのに驚きだ。
ユウキや私は最小限の治療が行えるので治療した。
「なんでこんなとこに? 実力に見合わなさすぎ」
ユウキが女の子のチームに声を掛けた。コミュニケーションは彼の役割だ。
話を聞けば、仲間とはぐれたらしい。空間転移させる魔物が居るようなのだった。
私たちは女の子たちが不安がっているということもあり、冗談を言いながら移動をすることになった。
「私、魔法具職人しておりますブチと申します。これ、ビジネスカード。で。けがをしたこともあるし、ちょうどいい商品あるんです。どう、救急ポーチセット。銀一枚で売るっすよ」
私なりに空気を紛らわそうとして、自己紹介もかねてこういったのだった。
「おい! こんな時にそんな話かよ!」
「こんな時だからこそだ。どうせお前だって、治療費としてあとで金ふんだくるくせに!」
「俺は金を請求したりしないぞ? かわいい女の子を紹介してもらったり、あとで一緒にご飯食べたり、クッキー焼いてもらったりしてもらうだけのつもりだし!」
「うわぁ。金よりたちわりい。つかきめえ」
後ろで聞いている女の子は、そんな会話を聞いてくすくす笑い出した。
そんな時、背後から魔物が襲ってくる。私は普通に気づき、切り伏せた。
「ユウキ曹長! ここからは警戒態勢をしかるべきです!」
「む。ケースケ一等兵。後方の警戒を頼む!」
「サーイェッサー」
ノリの延長だ。最後までふざけておかないと、彼女が不安がるためだ。ユウキもノリがよかったともいえた。
意味の無いハンドサインをしたり、意味なく無線の魔法具を使ったり、馬鹿なことをして帰還した。
私にとって、毎日が楽しい。