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くっそたれ

 一


 私は自らの力量を把握したうえでの行動をおこす。無謀なことはしないと思っている。すべては自己責任の上で、この迷宮だとかダンジョンだとかいうところに足を踏み入れていた。


「死ね! 死ね! 俺がチビだからって馬鹿にしやがって! 酒場のおっさんも! 受付のあいつも! 何が酒に強いだけで! ノンアルコールで何が悪い!」


 私の憂さ晴らしだ。たまにではあるが、ごっこ遊びもしている。自分をスパイ映画みたいに役割を当て嵌め、魔物を敵にあてる。宝箱入手でミッションコンプリート。もしくは秘密の要塞という設定だったり、逃げ遅れた傭兵の設定だったり、民間人救出という設定だったりだ。

 そのごっこ遊びの為だけに作られた魔法具も数知れず。


 とにもかくにも私にとってダンジョンとは遊びなのだ。


 そこである時、私は日本人に出会った。転移型の私と違い、彼は転生型であった。この世界に生まれてから魔術を学んでいるようで、ランクは高かった。冒険者としての経験もすごいらしい。


 そんな彼から、私は忠告を貰った。「興味本位で踏み込む場所じゃない。馬鹿そのものだ」と。私は確かに剣を一本持っているだけであり、あとは普通の一般服だった。


 今回の設定は、村人Bが魔王城に迷い込み魔王を倒すというもので、きりのいいところで引き返すつもりだった。しかし、彼らには関係のないことだ。

 私がいくら何十年と戯れでダンジョンに入っていようとも、趣味なのだ。プロと比べてはいけない。私はずいぶん彼から咎められたが、反論することは無かった。


 二


 以上のことから、私は奴隷を買うことにしたのだった。それがあのエルフと猫耳少女だ。

 護衛が居れば、仮にまた先程のもと日本人の冒険者――レット君にあっても咎められることは無いだろう、と。


 エルフの少女を買ってしばらくたったある日。私はたまたま買い物をしていた時である。レット君に出会ったのだ。どうやら彼も一人で出歩いてようだった。私は親睦を深めようとした。彼も私に対して親近感を持ってくれていたのか、快諾してくれた。


 私たちは世間話をする。


 最初は世間話で、どういう経緯をたどったのか、どういった生活を送っているのかの話に始まった。しかし、冒険者の話から、以前のダンジョンの話になったのだ。


「ダンジョンに入るとは言わないけど、やっぱり素人には無謀だ。憧れる気持ちはわかるけど」


「でも、僕はどうしても他のチームに入るのは苦手で。優秀な奴隷でを買ったんです。それを護衛にしようかと」


 私は言う。私はどうもコミュニケーションが苦手であった。空気を読めず、気が付かぬうちに誰かを傷つけていた。どうにか相手の同意を求められる会話を振りたくて、とっさに奴隷というワードから下ネタというものが浮かんだ。


 エロくない男子等存在しない。


「結局、やっぱり半端な考えだ。やめるべきだ。お前には無理だ」


 そういうレット君。しかし、その時すでに私はエルフを買っていた。だからだろうか。こんな風に私は笑いながら返した。


「まあ、半端だろうとも、奴隷は買っちゃいましたけど」


「……奴隷。奴隷?……」


「ええ奴隷です。しかも森エルフっていう種族です。スゲー高いんです」


 ファンタジーの代名詞。プロの冒険家だってエルフというだけで高く評価する。エルフの名はだてではない。と思う。


 それに購入当初、私はエルフを買えるだけの大金を払えるのだということも、微かな自慢であったのだ。私は少し得意になってしまい、言葉を続ける。


「まあ奴隷の文化があるなら、それに見習ってみたんですね」


「お前、クズだな」


 笑い半分でレット君は言った。笑いながら言うものだから、きっと冗談の延長のように思えた。


「いやいや。まあ奴隷とかそんなんは男の願望ってやつじゃないですか」


「もうわかった」


 今度は凄んだ雰囲気で言われた。ここで私はようやくにして彼が不愉快になっていたことを感じたのだった。



 三



 私は奴隷という認識を間違えていたようだった。それがどうも恥ずかしくていたたまれない思いを感じていたの覚えている。


 あの時は奴隷購入してからほとんど日数も経っていなかったこともあり、そこからどうにか正しい奴隷と主人の関係を築こうとした。自分の感情はいれずに、正しい評価をするように心がけた。主に容姿だとか、言葉遣いが私にだけ違うのではないか、なんということを評価に入れないようにしたのだ。あくまで雇用者と労働者。それを徹底したのである。


 しかし、どうも嫌になっていた。今の私は明日が来るのが怖くてたまらないのだった。



 気を紛らわそうと街を歩いていた時だ。そこで私は友人に出会った。


「おい啓介。……だよな?」


 私の友人だ。黒髪で、日本人独特の小柄な体躯に少年のような幼さを感じさせる男。この世界の人間が見れば12歳くらいと判断するような見た目だ。

 名前をユウキという。私と何かと接点の多い転移型の日本人だ。年齢も私と同じでおっさんだ。この世界の成功者だ。奴隷も弟子も数多くいる。


「はは、久しぶり」


「啓介。お前、やつれてる」


「気のせいだろ」


 私は苦し紛れの嘘をついた。自分でもわかっているのだ。しかし、どうしようもない。私は頑張らなければならないのだ。奴隷を買ってしまった以上、どうにか奴隷を導いていかなければならないのだ。毎日を苦痛に思う私だが、それだけが私を動かしているのだ。


「まあいいや。ここで会ったが十年目。久々にダンジョンで競おうぜ」


 そう言って私はユウキに無理矢理引きずってダンジョンに連れてこられてしまった。


「おめえの入場料はツケといてやる。今日の競う対象は全部。ただひたすらに数勝負!」


「おい。入っちまった以上、やるしかねえじゃん。勿体ねぇし。にしても俺の装備愛刀一本だけって」


「そいつぁ俺も一緒だぜ。んじゃはじめ!」


 そう言ってユウキは駆け出した。ここまで来て付き合ってやらないわけにもいかず、私も慌てて追いかけた。





 走り抜けている。通り抜けた後には、魔物の残骸が残される。勿論、剥ぎ取りなどはしない。ただ純粋なユウキとの勝負なのだ。気が付けば私はムキになっていた。


「ずあっ! 三十九匹!」


「よんろく!」


 全てを一刀のもとで切り伏せていく。たまに魔法を使ったりするが、どちらにせよ全て即殺だ。

 深い階層まで来る。それに伴い、魔物も増えていき、より一層テンションが上がっていく。


「七百五十匹!」


「はちにーまる!」


 闘志のこもった叫び声を競うかのようにあげる私たち。まるで二人だけの空間と錯覚してしまうようだ。それが不思議と心地よかった。

 それを水でも差すかのようにアラームが鳴った。ユウキから鳴り響くのは、私が昔与えたタイマーの魔法具だ。


「ふう。ここまでだな」


 ユウキが言った。もとより時間は決めてあったのだろう。刀を収めた。

 それから私の顔を見たかと思えば、意味ありげに「うむ!」などと言うのだ。


「なんだよ。俺の顔に何かあんのかよ。罰ゲームか」


「お前の目、もう死んでねえよ。たまには気晴らしした方がいいぜ。俺は帰るよ」


 一人残った私は、もう少し愛刀である大鉈を振り回すことにした。


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