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プロローグ

 一



 男もすなる日記といふものを、男もしてみむとてするなり。だっけか。私は日記をつけることにした。

 さて私こと長淵啓介はいきなりであるが、異世界転移なるものに遭遇した。

 この世界に来て十年ばかし時が経っている。されど、私の見た目は十五歳のままであり、老いというものが無い。故に周りからはなめられてばかりいる。

 あまりに不愉快でむかつうつつたあああああああああああああああああああ奴隷までにくそおおお


 その先はもはや文字には見えず、むちゃくちゃに書きなぐられている。

 私は二日前に書いた日記を読み返して苦笑いした。どうやら情緒不安定だ。私はうまく感情を抑えなければ、と思い直し、日記を書き直した。


 今日のダンジョン攻略報告、とタイトルを入れて、深度、稼ぎ、二人の評価、私の反省を書いて日記を閉じた。


 本当ならもっと書き込みたいことがあった。どうせなら私の心をこの日記にぶちまけたいものだ。ただ、それはここで持ちこむべきではない。叶うというなら、心で思うくらいだ。大人げないと笑われる。


 くそっ、くそっ、くそっ!


 二


 私は思い返す。私はこの世界に来てから、安全第一でやってきた。大きな行動は今までしなかったし、農家で少しずつ金を稼いでいったのだ。環境が整っていないというのが理由ではない。この街はなかなかに大きく、迷宮だとか、ダンジョンとかいうものがある。一気に大胆に大きく行動しよう思えば、いつでも行動できるのだ。

 私はそういった剣を持って金を稼ぐ冒険者に憧れていたが、何より命優先であり、本職にするつもりもない。せいぜい危なくない範囲で遊び程度で入り込むのだ。


 最近ではその遊びも慣れてきて、警戒することなくダンジョンに入ることも増えていった。しかし、そこで一人はよくないと言われて、面白半分で奴隷を買ってみたのだった。


 買った奴隷はエルフと猫耳少女だ。


 特に意味はなかった。貯めた金の使い道が分からなかったのもあった。皆が羨み、私の評価を周りが改めてくれるのではないかとも思った。エルフはあらゆる面で有能だからだ。

 そんなエルフは魔法金属でできた鎧で身を包み、私の造った魔法剣を持たせている。美しい金髪碧眼がその鎧や額当てで損なうことは無く、普通に美しい。さらには、戦いはもちろん、魔法も癒しも秀でていた。


 もう一人の奴隷は、小柄で元気そうな猫耳短髪の少女だ。この少女はエルフの娘を買った二か月後に購入したのだ。人員強化のために購入しただけだ。軽装な恰好でナイフを装備している。このナイフも私の魔法剣のものだ。腕も悪くなく、エルフほどではないにしろ、優秀だ。


 しかし、この奴隷たち、とにかく私は気に食わないのだ。



 三


 私は宿に入る。この狭い空間に二人といるのが苦痛でしようがない。

 私たちはこの宿に三人でいる。もう長い期間、契約している宿で顔見知りだ。この宿はボロだが、利用する客が限られており、問題が少ないのだ。いい宿というのは人がよく出入りし、それだけにさまざまな人を呼ぶ。おかげで喧嘩やたかりに遭遇したことは数知れない。故に私はこの人通りの少ない宿が気に入っているのだ。


 私は部屋に入ると、早々に部屋を掃除する。チリも一つ残さず、ベッドのシーツにも気にかけた。ベッドメイキングは完璧だ。

 そして体の汚れを落としていた私は床に布団を敷いて眠りについたふりをした。

 私は何も言わせることのないように、何一つ言わせる隙もないように取り組んでいる。小さな挙動にも、発言にも、だ。私が何か言おうものなら、何か指摘する隙を与えようものなら、これでもかというほどに突っかかってくるのだ。


 ゴミが部屋に一つでも落ちていたなら「こんな小さい部屋にあるゴミも目につかないのか」とか、私が行動する際に思案する様を見せれば「意味が分からない」「頭がおかしいんじゃないか」「頭の回転が遅いんじゃないか。テキパキうごけ」などと言うのだ。これは主に猫耳娘のものだ。


 一方でエルフと言えば、ただひたすらに無言で答えるというものだ。わかりやすく言えば無視だ。最初は私の生活の仕方を馬鹿にしてくるのだったが、私が言い返すようになってからは無言で反抗するようになりやがった。それに合わせて、私の数少ない持ち物も隠されるようになった。私はもはや諦めており、積極的に声を掛けることもなくなっていた。もはや必要最小限の会話のみなのだ。


 ただ、私には負担があまりに大きかった。主に心が、だ。金は問題ない。金は私が成した魔法具や絹、砂糖やはちみつなどを売ることでいくらでも金は作れていた。


 頑張ってまとめていかなければ。優秀な奴隷だと周りは評価しているのに、それを活用できていないのは主人である私のせいだ。私の価値が問われている。頑張らなければ、馬鹿にされる、なめられる。奴隷にさえも。

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