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おもちゃの電話から始まる不思議な出会い

電車で知り合った女子高生が相手に語ります。

子どものころおもちゃの電話を買って貰ったんですよ。

ボタン押せて音鳴るやつを。

嬉しくて何度も、もしもし?あのねー、とか言って遊んでたんです。

おままごとで誰かと通話してるみたいに話してたんです。友達なんていなくてたいてい一人でやってたんですけど。

そしたらねある日返事が聞こえたんです。

私が、〜だったんだよ!って言ったらおもちゃの電話から、そうなんだ、て。

でも子どものときってそういうことが起きても不思議に思わないんですよね。

それどころか返事が聞こえてもっと話したくなっちゃうの。

そこからは本当に電話で会話してたんです。私が話して、相手が話す。

名前もそのとき聞きました。

おなまえなんていうの?って聞いたら“ほん”だって。

それが私と“ほん”の始まりでした。


“ほん”と話せるのはたいていあたりに誰もいない時でした。

私はおもちゃの電話がすごく気に入ってたからほとんどそれで遊んでて、たまに“ほん”につながるのを楽しみにしてたんです。

両親は私がそういう風に遊んでると思ってたみたいですね。大人の真似して誰かと話してるって。

一年くらいしたらボロボロになったおもちゃの電話を見て新しいものを買ってもらったんです。

新しい電話は前のより少し機能が増えてて私はもっと電話が好きになりました。

両親に、これではやく“ほん”とおはなしたいな、と嬉しそうに話した記憶があります。

両親も、帰ったら開けてたくさん遊ぼうな、と言ってくれました。両親は“ほん”が私の頭の中にだけいる存在だと思っていたからです。

新しい電話でも“ほん”と話すことが出来ました。

もちろん新しい電話になったんだと“ほん”に興奮して話しました。

“ほん”は私の話を面白そうに聞いていました。姿は見えないけど声が嬉しそうに聞こえたんです。


それから一年くらいしたらさすがに私も少しは成長していたので“ほん”についての認識が変わっていました。

“ほん”は私の知らないところに居て、誰も周りにいないときだけ私の電話で話せるんだと。

“ほん”が私の頭の中の存在ではないことは話していてすぐにわかります。

だって頭の中の存在だったら私の知らないことを話すわけがないですよね。

“ほん”は私の知らない難しい言葉をたまに使います。私がわからないというと分かるように教えてくれます。

教えてもらった言葉を両親や大人に言うとそんなことどこで覚えたのと聞かれました。

“ほん”がおしえてくれたのよ、と言うと、難しい言葉を覚えたんだね、と言われました。

“ほん”のことを本と思ったようでした。

小学生になってから電話で話すことは少し少なくなりました。友達が出来て遊んでいたから。

でも家にいて周りに誰もいないときだけおもちゃの電話が鳴るんです。誰も触ってないのに着信音が。

私は“ほん”から電話だと疑問に思わず取って、“ほん”と通話しました。

学校に入ってからはその日あったことや友達のことを話しました。“ほん”と電話出来るのは私の中で当たり前だったのでそれがおかしいとは感じませんでした。


高学年になる前、さすがに私も周りがわかるくらいには大人に近づいていました。

“ほん”と電話出来るのは不思議なことなのだと、気づいてしまったんです。

おもちゃの電話で、周りには誰もいないときだけ掛かってくる、“ほん”との電話。それがおかしいことなのだと。

それでも私は“ほん”と話すことを辞めることは出来ませんでした。

私が小さなときからいる、姿を見たことはないけれどいつも話している、大切な友達だったから。


高学年になると両親は私に携帯電話をくれました。

GPSがついているので何かあったときに連絡が取れる、それに私も大きくなったから、というのが理由でした。

さすがにそのころには“ほん”のことを他の人に言うのはやめました。お礼を言いながら私が思ったのは“ほん”と話せるかな、と言うことでした。

結果として“ほん”と話すことは出来ました。

いままでとなんら変わりなく、むしろちゃんとした携帯電話になったからか周りに誰かいても掛かってくるようになりました。

ただ世間話やお互いに何があったかを話していました。友達と話しているように周りも見えたと思います。


中学生になってから私は“ほん”にそれまで触れなかったことを聞き始めました。


“ほん”とどうして電話出来るの?

“ほん”はどこにいるの?

“ほん”はどんな人なの?


誰にも話してはいけない、秘密の友達。そうだったからでしょうか。

私は“ほん”のことが知りたかったんです。

“ほん”には答えをはぐらかされましたけどね。

“ほん”が具体的なことを答えてくれることはありませんでした。

私に分かるのは声から男の子であること、もの知りなこと、面白いことが好きなことくらいでした。

何も教えてくれないけどもうずっと一緒に話してきたから、これ以上聞くのはやめようと決めました。

その後はそれまでと変わりなく日々は過ぎて行きました。


高校生になって、私は“ほん”に会ってみたいと言ったんです。

“ほん”のことを知りたがって聞くのをやめてから久しぶりの“ほん”に対しての要望でした。

無理かなって思いつつダメ元で聞いたんです。

そうしたら“ほん”は少し沈黙してから、本当に?と聞いてきました。

もしかしたら会えるかもと淡い期待が生まれて、私は会いたいと答えました。

“ほん”は私が16歳になったら会おうと言ってくれました。直接会って自分のことを話したいと。

私は嬉しくなって、会うと答えました。

それまで“ほん”は自分のことを明言したことが無かったんです。

誕生日に近所にある神社で会う約束をしました。


私は“ほん”に会ってみたかったんです。

話したことしかないけど“ほん”が好きなんです。

小さなときから私の話を飽きずに聞いて、時には慰めてくれる。怒ってくれる。悲しんでくれる。優しく聞いてくれる“ほん”に気づけば恋をしていました。


え?もう会ったのかって?

いいえ。今日が私の誕生日なんです。だから、会うのは今からです。

ようやく“ほん”に会えるのでとっても楽しみです。

こんな話をしておかしいと思うかもしれませんけど、その、あなたはしらない人だから、いいかなと。

長い話を聞いてくれてありがとうございます。

本当は誰かに話してみたかったんです。

あ、私この駅で降りるので。

本当にありがとうございました。

またどこかで。

思いつきです。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他作品含め、面白かったです。 ”ほん”の正体とか裏事情とか気になります! 座敷童とか付喪神とか悪意のない物の怪的なかんじでしょうか? 悪い妖怪ではないと思いたいですが、最初は悪意があったけど…
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