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博麗霊夢

月日が立つのは早いもので、気が付けばひと月ほどの時が立つが、霊夢ちゃんとの関係というものは改善に至っておらず、出会っては逃げられため息をつく日々が続く。

師匠に言われるままに修行をするが、やっていることは変わらない。

基礎体力・基礎練習、この二点のみで、いい加減派手な技とかないのかね、と思ってしまうのは人間として仕方ないことだろう。


「その、パァーッて派手にぶち込んだりすることはないんですか」


「夢想封印を再びぶち込まれる勇気があるのか」


「すいません、必殺技とかないんですかってことです」


少し呆れたように、されど予想していたように師匠は一息ついた。


「応用という土台を奥には、基礎という大きな土台を作り上げなければいけない、基礎という土台が脆く、密度の低いもので大きいだけなら積み上げた土台に耐えることができず、本領発揮ができなくなってしまう、基礎は有無を言わずにやり続けなければいけない」


ま、一言でいえば中途半端はダメってことだなと師匠は笑みを浮かべる。

現状では家を建てる肯定で言えば、土台を作り上げている段階なのだろう、前世のゲームであった必殺技とか、やれるものならやってみたいが、やはり現実はそう甘くないようだ。


「そうですね、考えが甘かったのかもしれないです」


「……なんていうか、拍子抜けだ。子供なら『なにそれマジィ!マァジチョベリバァ~』とでもいうと思ったんだが」


「師匠何歳なんですか」


――いま、霊弾が頬を掠めていった。


「……昔紫がいっていたんだ、そのころの私はピュアピュアだった」


「霊夢ちゃんと打ち解けたいなぁ」


「……おい」


「逃げちゃうんだもんな~」


殺気を感じるが子供っぽくふるまうことで回避する。

今の俺なら『あれれ~』とかいってる名探偵の気持ちがわかるだろう。


「滝行いってきます!」


さっさと離脱してしまおう、そう思い、その場から速足で去っていく。

そんな聖の背中を見ながら、腕を組む。


「……やれやれ」


――いつになったら打ち解けるのかね





――ザァァという滝の音が響き渡る。

その音は心地よく、冬場でなければ嬉しい、既に春に入りかけている、冬の終わり目だが、水はかなり冷たい。

滝行をしている聖に一つ影が刺し、上を向くとそこにいたのは霊夢ちゃんだった。

両手を腰に当てて、彼女は言い放った。


「私が博麗神社の次代巫女、博麗霊夢よ」


「……はぁそうだね」


どう反応すればいいか困る、彼女はたしかに次代巫女だ。

そう言い放つと、霊夢ちゃんは疑問符を浮かべる。


「それだけ?」


腕を組んでそう彼女は言った。

それだけ?といわれても何を望んでいるのかさっぱりだった。

『フハハ、この未熟者め、貴様なぞ博麗の名をかたれるほどの実力もないわ!』とでも言えばいいのだろうか。


「『俺が次代の巫女だ!』とでも言われるかと思った」


「うん、巫女服は着たくない」


腋が出ている巫女服なんぞ俺が着たら妖怪ですらドンビキだ。

浄化する前に俺が浄化される立場になるだろう。


「というか、妖力持っているやつが神社の主になっちゃダメなんじゃ?」


仏教伝来後、教えにそぐわない神を妖怪として扱うことがあった。

零落したものとも言われてはいるが、妖怪が神になることもある――が。

まぁ結局は妖怪=神じゃない。

仏教であろうと神道であろうともそれはかわらないだろう。


「――なんだ、気を張って損したわ」


そういって近くに岩に座り足を投げ出す。

その様子に初めてのイメージが音を立てて砕け散った。

可愛らしい様子に、決して近くに来ない人見知りな性格。

世の男どもはそんな女の子がいれば性格はすばらしいものだと思いがちだろう、そんなことはなかった!


「ま、それなら話は早いわね、貴方は私の弟、私は姉、わかった?」


「えっえーっと、霊夢姉さん?」


「それでいいわ、姉の言葉は絶対服従」


「……」


「返事は?」


「はい……」


そう返すと、霊夢……姉さんは、満足したようで、スキップして神社の方へと向かっていった。

対する俺は滝に打たれながら思考を停止する。

そしてやっとこさ動き出した脳は、現状の感情や思考をひっくるめて素晴らしい一言を叩き出してくれた。


――女って怖い、と。






修行を解散までやり通し、人里へと一人帰る。

途中黒い靄が通り過ぎていった後に木が何かにぶつかったような大きな音が響き渡った、そっとしておこう。

晩御飯までには家に到着し、いつも通り三人でご飯を摂る。


「そういえば霊夢とはうちとけたか?」


「霊夢?あぁ博麗神社の聖の姉弟子だったか?」


「あぁ、それで喋るぐらいにはなったのか?」


母さんにそう聞かれて言葉が詰まる、あれが打ち解けたと言えるのかはまた再検討が必要だろうが――


「霊夢姉さん、と呼ばれるくらいには」


「姉さんか、姉弟子だもんな」


「姉さんが二人になったよ……」


「それはいいことだな!」


母さんと妹紅姉さんが笑う。

本当のところ、少しうれしかったけど……少し心配だ、師匠の娘、だぞ?

そうして話は終わり、夕食は終了、そして寝床へと入った。

そして次の日、日が昇りかけたころに、体を揺らし、声をかけられる。

母さんの声でも妹紅姉さんの声でもない、誰だと思い目を開けると、そこにいたのは霊夢姉さんだった。


「えっ」


「修行するわよ!」


「い、いや、本日は寺子屋で授業して、後は休みだよ」


「その主張には穴があるわ!寺子屋の前は自由時間なのよ!」


――そこに気が付くとは、やはり天才かっ!……なんて馬鹿なことを考えるのはやめて、このままこれを許すと体がもちそうにない、いまでもいっぱいいっぱいだというのに!さっさと姉さんを諭して寝……グェェッ

ちょ、首根っこ掴んで空飛ばないで、死んじゃう!

くっそ、死んでたまるか!

空を飛んで、息を吸って吐いてを繰り返し、霊夢姉さんに並行して飛ぶ。


「霊夢姉さん、お話が「聖」……はい?」


「姉には?」


「……絶対服従」


彼女はやはり、師匠の娘だと、理解した。

容姿は似てないが、性格がドSだ。

聖はため息をついて空を見上げる、朝もやはあるがいい天気だ。


――この姉には勝てそうにもない、そう聖は力なく笑った。

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